表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/265

宝箱

 宝箱である。


 様々な棚に囲まれた広場の真ん中に金色の細工が入った綺麗な大きい箱が置かれていた。宝箱でないというなら一体何なのかというぐらいそれは宝箱であった。


 ミレルさんが宝箱に罠がないかを調べている。


「罠は無い。鍵もかかってない。開ける」


 宝箱を開けると、少し小さいだけの同じ装飾が施された宝箱だった。

 再度罠と鍵が無いことを確認して、開いた。再び、一回り小さい宝箱が入っていた。


 ――マトリョーシカ!


「……なにこれ」


 ミレルさんが戸惑っている。A級冒険者でもこのパターンははじめてらしい。繰り返すこと10回。

 最初は広げた両手で包むことも出来ないぐらいのサイズの箱の中身は、手の平に乗るぐらいのサイズの宝箱になっていた。


「金貨1枚……」


 最後の小さな箱にはわたしとクレアが見つけたのと同じ金貨が入っていた。ジーナさんもアルフォスさんも父さんも期待外れに同じような顔を見合わせていた。


 イラっとしたらしいミレルさんが宝箱を蹴りつける。


 ……ん? 箱が揺れたときに床で何か反射したような?


「ミレルさん床との隙間に何かありませんか?」

「ん? 箱には何もなかったと思うけど……」


 ガタガタとミレルさんが宝箱を揺らしている。何かに気付いたようだ。


「押せそう。手伝って」

「中身を出せばいいんじゃないか?」


 父さんがそう言いアルフォスさんと2人で空箱を全部外に出す。ジーナさんとミレルさんで箱を思いっきり押し始めた。なかなかの重さだったが、わたしも手伝いに加わると少しずつだが箱が動いた。


 箱を少しずらすと箱のあった場所の下にくぼみがあり、金貨の入っていたのと同じサイズの宝箱が置いてあった。光が反射したのはこの箱だったようだ。


「上が全部フェイクかよ」


 アルフォスさんがぼやいたのが聞こえた。どっちにしろこの箱の重さでは全部開けて取り出すようだったと思うけど。


 ミレルさんが調べたあと、宝箱を開ける。金貨が小さい箱にぎっしり詰まっているようだった。


「金貨だけで30枚ぐらいはありそう」

「ミーナちゃんのお手柄だな」

「指輪もいくつか入っていた。後で鑑定する」


 アルフォスさんに褒められた。


 『鑑定』のスキルを持っていれば魔力と引き換えに装備や道具の能力を調べることが出来るらしい。


 人間や魔物などの生物は鑑定できないそうだ。スキルが無い場合は冒険者ギルドや鑑定屋で調べてもらうか、鑑定のスキルが付与された魔道具マジックアイテムを使うことで代用出来る。


 駆け出しが外れるぐらいになった冒険者は魔道具マジックアイテムを持っていることが多いようだった。さほど高いものでもないらしい。


 ほとんどタダ働き覚悟だったのに思ったよりも収入があったとアルフォスさんたちはほくほく顔だ。


 そんな感じでダンジョンを探索していった。残念ながら宝箱はこの1つだけだった。


「次で最後」

「ボスはいるのかしらね」

「放置されていたダンジョンなら十中八九いるだろうな」


 アルフォスさんたちは気楽に話している。やっぱこの世界、ダンジョンの奥にボスがいるのが普通なようだ。


 ダンジョンと言ったらボス。ボスと言ったらダンジョンである。


 ……そうでもないか。


 今までで一番大きな広場になっている場所、扉があり、その手前には鎧が浮いていた。暗い色のプレートアーマーで、兜のスリットの目にあたる部分が光っている。右の手甲には光り輝く剣が、左の手甲には大きな盾が握られている。


 あれはリビングアーマーだね。魔力によって動く甲冑で彫像リビングスタチューなんて比べ物にならないぐらい手強い。


 うーん、レベル50ちょっとぐらいだったかな?


「マルク、ミーナちゃんを頼んだ!」


 ここまでずっと前衛の2人に任せっぱなしだったアルフォスさんが前に出る。バーゲストを一刀で倒せるジーナさんでもきついのかな? と思っていたらミレルさんが下がってきた。


 短剣と弓しかないミレルさんには防御力が高い魔物を相手にするには相性が悪いので、入れ替わったようだ。


 ジーナさんが両手剣で斬りかかるとリビングアーマーは盾で防ぐ、その隙をついてアルフォスさんがジーナさんの後ろ、リビングアーマーの死角になる位置から槍で突いた。槍は属性を持っているようで穂先は凍り付いたように冷気がまとわりついている。


 死角から突かれたリビングアーマーが体勢を崩した途端、ジーナさんが剣を振るう。剣に魔力が流れ刀身が燃え上がった。


 一瞬、魔法剣に見えたが、マジックアイテムに分類される武器の一種らしい。

 属性攻撃の方法を持っておくことは無属性では戦いにくい相手に対して使う冒険者の切り札でもある。高ランクの冒険者になれば、多様な戦い方を求められるため切り札というほどでもなくなるのかもしれない。


 金属同士のぶつかる甲高い音が響く。リビングアーマーは剣と盾を巧みに操りアルフォスさんとジーナさんの連携技を防御していく。


「行くよ!」

「「おう!」」

「『暴風矢トルネード・アロー』!」


 合図と共にアルフォスさんとジーナさんが左右に分かれ、ミレルさんが暴風をまとった矢を放った。


 リビングアーマーは咄嗟に盾で受ける。


 矢には凄まじい魔力がこめられているようで、そこで止まらない!


 メキメキと音がして盾にひびが入っていく。その一撃にリビングアーマーが硬直する。


「『強打スマッシュ』!」

「『貫通ピアース』!」


 左からアルフォスさんが槍を突き込み、右からはジーナさんが上段から振り下ろした。


 強打スマッシュの追撃によって盾が砕け散り、隙を突いて入った槍が鎧を切り裂く。


 リビングアーマーはまだ動いていた。目の光はちかちかと点滅しかけている。


 『強打スマッシュ』も『貫通ピアース』もゲームなら初期から使える基本のスキルだ。『暴風矢トルネード・アロー』は遠隔物理の中級職になると覚えられたはず。


 これは属性が付与されているタイプのスキルだ。


 魔法剣と似てはいるが、発揮する効果は全く違い、スキルの属性がダメージ計算時に必ず乗ってしまうという欠点がある。『暴風矢トルネード・アロー』であれば風耐性を持つ魔物には効き辛くなるということだ。


 魔法剣は発動しっぱなしにしていても意志で属性を乗せるかどうかは自由に切り替えられる。


 ゲーム的には魔法剣の属性有りのダメージと、属性無しのダメージと、武器が本来もつ属性のダメージを計算して、一番高いダメージが出せる。また武器が本来持っている属性と魔法剣の属性を同じ属性に合わせることでダメージが更に跳ね上がる効果もあった。


 A級冒険者なのに基本スキルで戦うんだね。大技は使う必要もないってことかな。


「折角だしマルクとミーナちゃんでやってみるか?」

「経験は大事」


 アルフォスさんが下がってきた。ミレルさんも同意している。ジーナさんは動きの鈍くなったリビングアーマーの攻撃を受け止めていた。


 パワーレベリングというやつかな?


 ……パワーレベリングとは強い人に守ってもらいながら普通ではありえない速度でどんどんレベルを上げる行為だ。


 ゲームによっては普通に遊んでいるプレイヤーの邪魔になりやすく、マナー違反とも言われることもあるようだが、『セブクロ』ではフィールドが広く狩場が多かったり、パーティ単位で入れるインスタンスダンジョンなどもあったので特に問題になるようなことではなかった。さすがにこの世界にインスタンスダンジョンは無いだろうなあ。


 もちろん、この世界でパワーレベリングが出来るのかは知らない。


「ミーナやれるか?」

「うん!」

「ミーナは右から攻めろ」


 父さんがやる気みたいなので、わたしは鉄の剣を握った。動きが鈍くなっているとは言え武器を持っている左側の方が危ないので父さんがそちらを担当してくれるようだ。


 前進しジーナさんと入れ替わり、父さんとリビングアーマーを攻撃する。


 父さんは器用にリビングアーマーの攻撃を防いでいる。剣にうっすらと魔力が乗っているところを見ると、あれもマジックアイテムの剣のようだ。風や炎に比べて地味、というか見た目が変わらないけど土属性かなんかなのかな……?


 その隙にわたしも右から胴体目掛けて斬りつけた。


 ――かたーい!


 金属同士がぶつかる音がして、ダメージが通っていないように感じる。手が痺れた。


 ……わたしのはただの鉄剣だもんね。


 父さんが注意を引きつけてくれているので、わたしは殴り放題なんだけどダメージが通らない。アルフォスさんの切り裂いた部分を狙ってみたけど、上手く当たらない。


 魔法剣なら斬れると思うけれど、練習で使って良いものか……。


 父さんをちらりと見てみるが、ダメージの通っていないこちらを気にしていなさそうだった。案山子かかし相手に練習しているみたいなものってことでいいのかな?


 練習のつもりで、しばらく戦っていると父さんの動きがどんどん良くなっている。冒険者時代の勘が戻ってきたのだろうか。徐々に父さんの攻撃だけでダメージが入り始めた。


「ミーナちゃんはスキルを使わないのかい?」

「実戦経験がほとんど無いのに覚えていないと思う」

「リビングスタチューを斬った技はあると思うんだけどなあ」


 アルフォスさんがニコニコとわたしを見ていた。


 ……うーん、アルフォスさんにはわたしが倒したの見抜かれてるっぽい?


 いや、そもそも正直に倒したって言ってるけどさ。


 ちらりと父さんを見ると、こちらを向いて頷いた。使っても良いってことだよね。アルフォスさんたちには無理に隠す気もなさそうだったし。


 わたしは鉄の剣を腰に戻し、木剣を構える。練習で鉄の剣を壊すのは父さんに悪いよ。


 木剣を構え、魔力操作に集中する。今回は父さんが注意を引いているので楽だ。


「『闇剣ブイオ・スパーダ』!」


 光のダンジョンらしいし、ゲーム的に弱点は闇だよねと闇属性をまとわせた木剣で攻撃することにした。木剣が真っ黒な雲のようなもので覆われ、ぱちぱちと黒い稲妻が走っている。


 斬った手ごたえをほとんど感じず、リビングアーマーを斬り裂く。


 さきほどまでの練習で相手の速度や動きの癖はなんとなく分かっている。後ろに回りこみ、振り向き様に頭から斬り下ろした。


 頭から股まで真っ二つになったリビングアーマーはそのままがらがらと崩れて動かなくなった。魔法剣になった途端、石も鉄も切り放題だね。


「これほどとは……」


 アルフォスさんたちが驚いて固まっている。父さんは悪戯成功とにやにやしているかと思ったら一緒に固まっていた。


 ……あれ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  最初は広げた両手で包むことも出来ないぐらいのサイズの箱の中身は、手の平に乗るぐらいのサイズの宝箱になっていた。 ↑ エジプト王の棺もそんな厳重なのやってたらしいからまぁ、とか思ってたら………
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ