魔法と物理スキル
ラーゴの町で買ったスパイスを使ったカレーは好評だった。
「お姉ちゃん、ご飯だけ頂戴」
「はいはい」
「辛いけど、どんどん食べたくなる味さね。あたしも足しておくれ」
前に村で作った、家にあるもので作ったカレーよりも、本格的なスパイスがたくさん入れてあるからか、舌を刺すような辛さだ。
スパイス特有の辛さに慣れていないせいか、コメの方がどんどん無くなるみたいだね。
果物を足して少し甘くするのもありかな?
「そうそう、東の森に新しい迷宮が見つかったって話は聞いてるさね?」
「いえ、初耳です」
「興味があるなら冒険者ギルドで確認できるさね」
前に遺跡の調査をした場所の近くのようだ。
まだ見つかったばかりで、ほとんど探索されていない迷宮だから何か見つかるかもしれない。
休み明けに聞いてみて、探索しに行くのも良いかな。
◇
――翌日。
今日は図書館で鍛冶について調べる予定。
図書館に行くのは久しぶりだ。村でも教会で勉強していた癖なのか、クレアはよく図書館に通っているけど。
お昼までに家に帰ろうと、早めに図書館に出かける。
クレアとリルファナは家にいるそうなので今日は1人だ。
クレアに聞いていた本棚から、いくつか鍛冶に関係している本を見つけた。
『出来る! 鍛冶入門』、『ペキュラでも分かる鍛冶の基礎』、『武器の作り方』、『金属との対話』、思っていたよりたくさんある。
タイトルから見るに転生者の書き残した本だろう、これ……。
ぱらぱらとページをめくってみたが、年季の入った本で紙の質が悪い。内容はどれも似たような感じだった。
『金属との対話』という本だけは、融点などの数値もたまに載っているので、元々専門職だった人が残したのかもしれない。
この世界では温度計自体が滅多にない。あっても金属が溶けるほどの高温を測ることはできないので、あまり意味はなかったりするのが悲しいところ。
分かりやすそうな本を開いてざっとメモを取る。
道具の使い方から、金属の溶かし方など詳しく丁寧に載っていた。
ここにある本と設備があれば鍛冶ができるかと言われると無理だと思う。
しかし、わたしの場合は生産時に勝手に身体が動くので、抜けている部分も実践を繰り返せばなんとなく習得できるだろう。
メモを取り終わったあと、本屋に寄って、今日の分の食料品を少し買ってから帰宅した。
さすがに本屋に鍛冶の本は売ってなかったけど、小説の新刊が手に入ったので良しとしよう。
「お帰り、お姉ちゃん」
クレアは粉砕した貝殻を使って何かしていた。
リルファナが多めに買っていたのは、クレアも使うからだったみたい。
作業を見ていると、小さく砕いて魔法で乾燥させている。
乾燥させ終わったら更に粉々にするらしい。錬金スキル上げで肥料を作っているようだ。
「お昼はカレーを温めますわね」
「うん、お願いね」
午後は庭で剣の稽古。クレアも横で棒術の練習をしていた。
ついでに、昨日作った霊銀の剣の試しぶりもしておく。
「うーん……」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「魔法剣で属性が乗せられるなら、属性系の斬撃系スキルも全部使えるんじゃないかと思って」
「……そんな単純なことなの?」
セブクロでは魔法剣は魔法に分類され、斬撃系のスキルは物理スキルに分類されている。
そう、魔法と物理スキルは全く違うものとして分けられているのだ。
もちろん、ゲーム上では当たり前のことである。
魔法でどんなスキルでも扱うことができるのならば、戦士職はいらないとなってしまう。ゲームバランスの崩壊だ。
一方、この世界では魔法も物理スキルも、その源は魔力で統一されている。
これは、ジーナさんやミレルさんの使う属性付きのスキルを見ていて気付いたことだ。
ということは、この世界では魔法と物理スキルは、魔力の扱い方が違うだけで、根本的な部分では変わらないのではないか。
この世界に魔術師が少なく、戦士職が多いのは、一瞬だけしか発動させない物理スキルの方が魔法としての難易度が低いからではと。
もちろん、これはわたしの大雑把な予想でしかない。
単純な斬撃のような無属性の物理スキルでは、魔力を感知できなかったりもするし。
まあ、細かいことはどうでもいい。
わたしとしては新しい物理スキルが使えるのか、使えないのかだからね。
「雷斬」
妄想力を駆使して何度か剣を振ってみると、刀身がバリバリと放電した。
「ほら、できた!」
「え、うん……」
数回で成功させてしまったせいか、クレアにドン引きされた。
「要は魔力の使い方なんだと思うんだけど……」
「ということは、私も使えるかな?」
「わたしの予想の理屈上では?」
わたしは魔法を感覚で発動させているので言葉足らずだとは思うけど、一生懸命クレアに説明した。
魔法が絡むからか、クレアも少し興味を持ったようだ。
「得意な属性の方がやりやすいかもしれないね」
「火炎打!」
魔力を意識してクレアが杖を振るう。
しばらく試していたが、そう簡単に使うことはできなかった。
魔力の動きを見ていると、できそうな気もするんだけどな。
「ミーナ様とクレア様は何をしてますの?」
いつもと違うことをしていたからか、リルファナも庭へと出てきた。
リルファナに先ほどと同じことを説明する。
「ええと、クレア様は、そもそも強打を使えませんわよね?」
「う、うん……」
「……ミーナ様の話を聞いた印象ですが。元のスキルを扱うことができれば、魔力次第で属性も乗せられるという気がしましたわ」
確かに、わたしは斬撃は使えるようになっていた。
「そっか。しばらく、強打の練習をしてみるよ!」
「ええ、試しみる価値はありそうですわ」
ふと、リルファナが何か思いついたような顔をした。
「そうですわね。わたくしもやってみますわ」
リルファナがどこからか出した短剣を構える。
「氷短剣投擲」
練習用に置いてある丸太に向かって投げつけた。
確認すると、短剣の刀身が刺さった場所に、凍り付いたような霜が少しだけ付いている。
「できましたわ!」
「リルファナちゃんも、あっさりできちゃった……」
クレアが目を丸くしている。
「基本のスキルさえ覚えれば、工夫次第で属性を乗せられるってことかな?」
「ええ、そうですわね。元々属性のあるスキルは難しいかもしれませんが」
そうすると無属性のスキルをたくさん覚えた方が良いのかな?
ゲーム中ではレベルさえ上げれば、自動的にスキルは習得していた。
色々考えたり、練習することでゲームにも無かった新しいスキルを覚えることができるのは少し面白いと思う。
しばらく新しいスキルは作り出せないかと剣を振っていた。
……何の成果も得られませんでした。
そう簡単に新しいスキルが作れるなら、もっと色々なスキルの情報が出回っているか。
そのあとは、夕飯までハーミの主の資料を読み込んでいた。
主にブリーダーのスキルや、ハーミの飼育方法などが載っているぐらい。少しだけ他職のスキル考察なども載っていた。
すぐに役立ちそうな内容ではなかったけど、いずれ資料は返しに行く予定なので、全てメモに残しておく。
◇
――翌朝。
休みも終わり、今日からガルディアの依頼を受けていく予定だ。
「迷宮が気になりますわね」
「うん!」
「まだ調べ始めたばかりみたいだから、何か見つかるかもしれないね」
レダさんが言うには、迷宮内の調査依頼もあるそうだ。
とりあえず、冒険者ギルドへ詳細を聞きに行くことにしよう。
「おや、一緒に行くさね?」
「はい。早く詳細を聞きたいので」
「かなり広い迷宮だと報告が来てるから、まだ手付かずの宝箱も多そうさね」
仕事で向かうレダさんと一緒にギルドへ行くことにした。