ウイングキャット装備
クレアとリルファナが作ったサンドイッチを食べながら、先ほどのカルファブロ様と出会った話をした。
「お姉ちゃんだけずるい! 私も行きたかったな」
「一緒にいれば行けたかもね。……次は早くても2年後だけど」
「むむむ……」
本気で付いてくるつもりなのか、クレアが日付をメモをしている。
「ええと、午後は図書館に行ってくるね。お姉ちゃん」
「はいはい。今日も雨が降りそうな天気だし、傘は忘れないようにね」
「わたくしはもう少しで作り終わりそうなので、作業を続けますわ」
1日で完成するぐらいの装備だったみたいだね。
わたしは炉の様子見がてら短剣の制作かな?
◇
とりあえず短剣を1本作ったが、カルファブロ様の炉の消費魔力は実感しにくかった。
減ったと言われればそうかなと思うぐらいで、現時点ではほとんど減っていないような……?
カルファブロ様によると、基礎的なことを覚えるだけでも消費量が減るということだ。
作るときの工程を魔力に任せず、しっかり意識してみることにした。これだけでも基本的な鍛冶の勉強にはなるだろう。
リルファナが作ったポーションを飲みながら、追加で3本の短剣を作製。
最後の3本目が完成したとき、いつもと作り上げた感覚が違った気がした。
見た目は他に作ったと短剣と変わらない。
「んー?」
カルファブロ様の調整ミスで、また魔法門でも開いたのではないか、と辺りを見回すがそんなことはなかった。
ふと鑑定のルーペの存在を思い出したので、使ってみることにした。
「『鑑定』」
鉄の短剣。良質。投てき貫通力上昇(小)。
補正効果が付いてる!
それと『良質』というのは何だろう。前に鑑定したときは何も出てこなかったんだけど。
気になったので他の短剣を鑑定してみると、もう1本良質という効果がついていたものがあった。
単純に質が良いだけの場合は、鑑定の結果には出なかったので、質を上げる補正効果がついたのかな?
もしそうなら、補正効果は付きにくいとされているのに、2つも付いたのは運が良い。
『良質』の効果については、次にギルドで売却するときに聞いてみよう。
たくさん作ってみると、魔力消費が軽減された実感が出てきた。
そのおかげで少し余裕があるので、売却用にもう1本追加で作る。
投てき貫通力上昇が付与された短剣は、魔法付与してからリルファナに使ってもらうことにする。
珍しいものが出来たのだから、自分たちの装備が優先だよね。
◇
短剣も作り終えて、夕飯の買い物へ。
お昼は2人に作ってもらっちゃったので、夕飯は作らないとね。
ラーゴの町で買ってきたスパイスを使ってカレーを作ってみよう。
「降り出しましたわね」
「クレアが帰ってくる頃には止むと良いんだけど」
台所で夕飯の支度しているとリルファナが下りてきた。
外を見ると、ザーザーと音がするほど強く降っている。
「一応、お風呂を入れておきますわ」
「うん、お願いね」
しばらくすると徐々に風も出てきたようで、リルファナと大慌てで窓を閉めた。
雨期でも、風が強くなるのは珍しい。
「普段なら、そろそろ帰って来る時間ですわね」
「ただいまー。うう、びしょびしょだよ」
リルファナと話していたらタイミングよくクレアが帰ってきた。
「あれ、傘持っていたんじゃなかったの?」
「近くまで来たら風が強くなって、あまり役に立たなかったんだよ」
「お風呂の準備はしてありますわ」
「ありがとう、リルファナちゃん」
クレアがお風呂からあがる。
レダさんが帰ってくる時間までは、今のように台所で3人、だらだらしていることも多い。
「はい、水」
「ありがとう、お姉ちゃん。そういえば、鍛冶の本なら図書館にあったよ」
「え、ほんとに?」
「ざっと目を通したけど、基礎的な内容なら十分じゃないかな?」
「明日、見に行ってみるよ」
クレアに置いてある棚のおおよその位置を教えてもらった。
普通なら外部に情報出すなんて考えられないと思うのだけど、どんな本なんだろう?
「ミーナ様、クレア様。翼猫の毛を使った装備ができましたわ」
「お、どんなの?」
「もう作れたんだ。染料は大丈夫だった?」
「ええ、ばっちりでしたわ。持ってきますわね」
リルファナが戻ってくるが、後ろ手に隠しているため見えない。
「ふふ、ミーナ様に着けてさしあげますわ」
「ん? うん」
リルファナは、わたしの座る椅子の後ろに回る。
着けてくれるということはアクセサリーっぽい感じなのかな?
リルファナがそっとわたしに何かをかぶせた。
「可愛い!」
それを見てクレアが一言。目を輝かせている。
「はいですわ」
にこにこ顔のリルファナに手鏡を渡された。
この屋敷に置かれていたもので、日本にあった鏡のように綺麗に映るわけでもないが、庶民が使うものよりは映りも良いものだ。
ややぼんやりとしてはいるものの、鏡に映ったわたしの頭部に三角形の耳が乗っていた。
――猫耳。
色もしっかりあわせたらしく、わたしのアイスシルバーの髪色と同じだ。
「お、おう……」
セブクロで人気があった素材だった覚えはあったが、見た目が可愛い装備だったからか……。
「クレア様の分もありますわよ」
「やった!」
嬉々としてクレアが頭に乗せている。
うん、確かに可愛い。
いや、クレアぐらいの歳なら良いんだけどね。わたしの歳だとちょっと恥ずかしい。
いつの間にやらリルファナもかぶっていた。
自分の分も作ったのか……。
「リルファナちゃん、尻尾はないの?」
「残念ながら、翼猫2匹分では素材不足でしたわ」
……別に残念ではないと思う。
むしろ足らないなら、クレアの分だけ作ってあげても良かったのでは。
リルファナに「3人分作るから良いのですわ」とか言われそうだから黙っておこう。
「ミーナ様、何かありますの?」
「いや、何でもないよ」
リルファナは鋭い。
「これでも装飾品扱いなので、兜や帽子と一緒に装備することもできますのよ」
リルファナ殿、これを着けて外を歩けと申すのか!
「なんだか、ものすごい拒否感のある視線ですわ」
「可愛いのにね、リルファナちゃん」
「特に強い装備ではないですし、構いませんけれど。作って欲しかったのではないんですの?」
脳裏で変な口癖になってしまったが、リルファナには通じたようだ。
「何が作れるかまでは知らなかったんだよ……」
リルファナによると、セブクロでの猫耳は防御力1しかない、ただのお遊び装備だったみたい。
ゲーム中では実際の装備と、表示する装備を別にすることができたため、お洒落したい人向けの装備だった。
わたしは魔法戦士の専用装備が好きだったから、ほとんど見た目用の装備とか持っていなかったし、あまり興味もなかったんだよ。
ちなみに、この世界にある冒険者向けの装備は、多種多様なので猫耳をつけていても問題はない。
獣人を馬鹿にしているとか、逆に獣人を神聖視して真似しているとかも思われるようなことはないということだ。
装備している物によっては、ちょっと変わった装備をしているとは思われるだろうけど。
もちろん、貴族のパーティやお葬式といった場所では、自分の衣装も考える必要はあるけどね。
「そうそう、短剣を作ってるときに違和感があってね。鑑定してみたら面白い効果がついてたから、リルファナが使いなよ」
リルファナに、投てき貫通力上昇のついた短剣を渡す。
「生産時にランダムで付与されるのですわね。……『良質』とはなんですの?」
「そっちは分からないから、ギルドに納品するときに聞いてみようかと思って」
そろそろレダさんも帰ってくる時間かな、とカレーを温める。
「美味しそうな匂いだね、お姉ちゃん」
「ラーゴの町で買ったスパイスも入れたんだよ」
レダさんが帰ってきたようで、玄関で音がした。
最近は仕事にも余裕があるようで、帰宅する時間も変わらない。
「ただいまー。なんだか良い匂いがす……それ流行ってるさね?」
すっかり忘れて、猫耳付けっぱなしだったよ!