ラーゴの町 - ガルディア到着
翌日、朝早くから開いている店で軽く買い物をしてから、ラーゴの町を出発。
来た時と同じように、途中の駐屯所で1泊してガルディアへと戻った。
冒険者ギルドで鍵を受け取るついでに、レダさんに手紙の配達をしてきたことを伝えて帰宅。
ついでのつもりだったけど、ギルドの依頼という形にしてくれていたようで、少しだが報酬も貰った。
お土産や素材を出して、再確認する。
並べた中にハーミのぬいぐるみが3つあったんだけど、クレアとリルファナが買ったのかな。
それぞれ背中の貝が違うという手の込みようだ。
「じゃあ、これはリルファナに任せるね」
「分かりましたわ」
翼猫の毛をリルファナに渡す。
「そういえば、お姉ちゃん。新しい技を覚えたんだね」
他の素材をどうしようか考えていると、クレアが思い出したように言ってきた。
ええと、なんのことだっけ……?
「ミーナ様、ワニを倒していた技ですわ」
「ああ、あれは違うよ」
魔法剣のスキルと分からないように、雷剣を使いながら、別名のスキルを言っていただけだと説明する。
今のところ、わたしに雷斬は使えない。基本技である斬撃は使えるので、練習すれば使えそうな気もするけど。
「……リルファナちゃん、できる?」
「いえ、わたくしには無理ですわ」
「あれ、無詠唱でスキル使って違うことをしゃべるだけだよ?」
詠唱しなくてもスキルは使えるのだから、別の言葉を発しても使えるというわたしの考えは全く違うようだ。
「ええと、お姉ちゃん。そもそも無詠唱の魔法だってすごい難しいんだよ?」
「クレア様と魔法を使えるか試したことがありますが、威力が3割ぐらい落ちましたわね」
「私はなんとか発動するだけって感じだったよ」
現実となったこの世界では、魔法的な力である『言霊』の力も強く働くそうだ。
言霊とは、言葉に宿ると言われる力。魔法やスキルと呼ばれる能力は言霊による影響を受けている。
言霊には、魔法やスキルを放つときに詠唱を加えることで、成功確率を上げるだけでなく、威力自体を上昇させる効果もあるらしい。
別のスキル名を発してしまうと、その言霊が邪魔をしてしまうため、使おうと思ったスキルは撃てないという。
生活魔法については、元々難易度が低いことと、日常で繰り返し使って慣れていることが多いため、無詠唱で使える人もそれなりの数いるとか。
ちなみに、言霊の力を主として使うのは、巫女の使う祝詞や、呪い師が使う呪術の魔法である。
祝福の祝詞と、呪詛の呪術。
結果としては真逆の効果を発揮するが、どちらも言葉の力を現実のものとするというのは同じだ。もちろん魔力なども作用しているけどね。
「そうなんだ」
「お姉ちゃんは、やってることの凄さが分かってない!」
わたしのあっさりとした反応に、珍しくクレアが熱く語っているけど、使えてしまうのだから仕方ないと思う。
むしろ、魔法剣をカモフラージュしやすいので便利かも。
「ちょっとよく見せてよ!」
「わたくしも見たいですわ!」
見せるぐらいいかとクレアに引きずられて、庭まで行くことにした。
「斬撃」
と言いながら貫通。
「貫通」
と言いながら斬撃を使って見せる。
「あれ? 魔力が出てる……?」
「スキルなのに、魔法のように使っているようにも見えますわね」
クレアがぶつぶつ言いながら、わたしのスキルを見ている。なんだか動物園の動物になった気分……。
リルファナも何か考えているようだ。
「ただいま。おや、ミーナちゃん珍しい技を使えるさね」
「おかえりなさい。……すみません、夕飯はこれからなので、少し待っててください」
クレアがなかなか納得しないので何度もスキルを使っていたら、随分と時間が経っていた。
夕飯の支度ができていないのに、レダさんが帰ってきてしまったので、これ幸いと家に入る。
「あの、レダさん、お姉ちゃんの技を知っているのですか?」
「隠蔽の能力の一部だと思ったけど、違うさね? 冒険者時代に何度か見たことがあるさね」
隠蔽は、盗賊や暗殺者などが主に使う特技である。
変装したり、証拠になりうる道具を隠したりといった、他人の視覚や聴覚から対象物を隠す能力全体を指す。
この場合、実際のスキル名を隠しているという扱いで使えるのだろう。
「うーん……、お姉ちゃんのは少し違う気がします」
「隠蔽なら、わたくしも使えますわよ。ほら」
リルファナが、短剣を服の中から出し入れする。
ああ、あれも特技の能力の1つだから、どこから出してるのか分からなかったのか。
「でも、ミーナ様のようなことはできませんわね」
ゲームでは盗賊的な能力として一括りにされた能力だったが、この世界では変装は得意だけど、他は苦手といったこともあるみたいだ。
「うーん。リルファナちゃんのは魔力が出てないね」
「魔法で隠蔽に近いことを、しているということですの?」
「あ、それが近いかも!」
家に入ったが、2人はまだわたしのスキルの検証に熱中している。
セブクロの魔法戦士にはそんな能力なかったと思う。
わたしのありあまる魔力と妄想力で、オリジナルの魔法を作ってしまっている可能性は否定しないけど……。
「冷静に見えるクレアちゃんにも、夢中になることがあるんさね」
1人でご飯を作っていたら、苦笑しながらレダさんが手伝ってくれた。
◇
急ぎで作ったので今日はチャーハンと豚肉多めの野菜炒め。
それとみそ汁をつけた。
「やっぱりミーナちゃんのご飯が一番さね」
「ありがとうございます」
「ラーゴの町はどうだった?」
町ではないが街道の南にある駐屯所の話をしたら、レダさんは宿泊できるようになっていることを知らなかった。
「やっぱり町にいるだけだと新しい情報が入らないさね。少しぐらい町の周囲だけでも歩き回った方が良いかねえ……」
レダさんは年に1度、国内のギルドマスターの会議で王都に行く以外、滅多に町の外に出ないそうだ。
それもあって、周囲の町の話を聞くのを楽しみにしているのかもしれないね。
「ハーミが可愛かった!」
「湖も綺麗でしたわ」
「交易船も大きかったね」
クレアとリルファナがいくつか感想をあげる。
「干物を買ってきたのでレダさんにもどうぞ」
「おやおや、ありがとうよ。酒の肴にでもしようかね」
買ってきた干物から、2袋ほどレダさんに渡した。
ついでに王都に行こうか考えていることも伝えておこうかな。
「1日か2日休んだら、王都に行って来ようかと考えていたんですけど……」
「お姉ちゃん、時間は平気?」
「そうさね。往復1週間とするとあまり滞在できないんじゃないかい?」
王都とガルディアは片道3日。ガルディアからフェルド村まで1日で、移動だけで7日となる。
もう月の半分を過ぎて数日なので、余裕をもって行動しようとすると滞在は3日になりそうか。
用事だけ済ませるなら十分だけど、王都の広さではちょっと忙しい。
「ミーナ様、急ぎでもないですし、来月でも良いですわよ?」
「うん、王都で依頼も受けるなら大変だよ。お姉ちゃん」
2人もすぐ行きたいわけでもないみたい。
これなら、ラーゴの町で依頼を受けても良かったかな。
まあ、ラーゴの町にいる間に、相談しなかったわたしも悪いので仕方ないか。
「じゃあ、2日休みにしてガルディアの依頼を受けようか」
「うん!」
「ギルドマスターとしては、そうしてくれると助かるよ。ここしばらく依頼の量が増えているさね」
今日は依頼の貼られた掲示板は見てこなかった。
どうやら、ネーヴァの影響で減っていた討伐依頼も戻り始めているようだ。C級になってからあまり掲示板の依頼を受けていないので、何か面白いものでもあるかな?
とりあえず、休みの間に予備の霊銀の剣と、ギルドに卸すための短剣でも作ろう。
「わたくしは翼猫の毛で防具を作りますわ!」
「図書館と錬金の練習かなあ?」
「あ、クレア様。染料をお願いしたいですの」
「うん! 後で必要な色を教えてね、リルファナちゃん」
そう告げると、リルファナとクレアも簡単に予定を組み始めた。