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ラーゴの町 - 宿屋にて

 ボートで島から戻る間、クレアとリルファナに妖精のことを話した。


「もしかしたら、あそこの家の主が見守っていたのかもしれないね」

「亡くなってもハーミたちを見守っているなんて、素敵なご主人様ですわ」


 ハーミが家の鍵をわたしたちに渡したのも、妖精が主だと分かっていた可能性もあるね。

 などと3人で色々な推測を話し合っていると、岸にあるボート屋が見えてきた。


 桟橋にボートを停めて、貸しボート屋にボートを返却。

 屋台で気になったものをつまみながら、お土産を見て回ることにした。


 町に戻ってもうろうろしているハーミを見かけるので、島に集まった10匹ぐらいで全てというわけではないようだ。


「ハーミ様の影響か貝を加工したものが多いですわね」

「うん、このネックレスはリルファナちゃんに似合いそう!」

「こちらはクレア様に良さそうですわ」


 クレアが指さしたのは、光沢を放つ白いシンプルなネックレスだった。ただの貝でも、磨くとこんなに綺麗になるのか。

 お返しとばかりに、リルファナが指さしたのは赤みがかった大きな一枚貝のネックレス。


 その横にある食べ物のコーナーには、袋詰めにされた貝の干物があった。なかなか美味しそうだ。


「お姉ちゃんはやっぱり食べ物だよね」

「ふふ、そうですわね」


 干物は乾燥した場所に置いておけば、1ヶ月ぐらい大丈夫だそうなのでお土産に何種類か買っていこう。


「そういえば、貝殻は薬の材料になるものもありますわ」

「でも、加工していない貝はなさそうだね」


 お土産屋ということもあるのだろうけど、アクセサリーしか置いていない。


「加工前の貝殻なら、東区で取り扱ってる店があるよ」

「明日、見に行ってみますわ。ありがとう」


 わたしたちの会話が聞こえていたようで、干物の代金を支払うときにお店の人が教えてくれた。


 ふらふらと土産屋を見ながら、夕方になる前に南広場へ戻る。

 見つけた資料も、ある程度は読んでしまいたいので、少し早いが宿屋を探すことにした。


「お姉ちゃん、ギルドに島のことは報告しないの?」

「うん、見つけた資料とか渡すようになっちゃうと思うし……。報告はしなくても良いかな」


 資料は返さなくて良いと言われたが、必要な分のメモを取って、またラーゴの町に来たときにでも返しにいくつもりだ。


「うーん、いいのかな?」

「新発見の報酬や名声を考えれば、わざわざ隠す冒険者はいないと思いますけれど、危険性は無いですし、報告の義務はありませんわね」

「わたしとしては、ハーミたちはそっとしておいてあげたいというのもあるかな?」

「そっか……。うん、そうだね!」


 わたしたちが報告して調査などが行われれば、あの島の周囲も人が集まるだろう。

 クレアも納得してくれたみたい。


 それとは別に、ギルドに報告してしまうと島に自由に出入りできるわたしたちが、率先して調査に向かわされそうだということ。

 他にも、なんだか色々と面倒なことになる可能性もありそうだ、という理由もある。


 南広場の商人ギルド付近に見つけた宿に泊まることにした。



「広い部屋だね!」

「クレア様、お風呂も広いですわ」


 部屋に入ると、クレアとリルファナがあちこち見て回っている。

 2人は宿屋の部屋に入ると色々探す派のようだ。わたしも気になるものは見てみるけど。


「ヴァレコリーナにいるときは、こんなことできなかったので我慢するのが大変でしたわ」

「たしかに、貴族だと色々面倒そう」


 貴族という立ち場だと、通された部屋をあちこち物色しはじめるわけにはいかないよね。

 御付きの人とかもいるだろうし、わたしでは耐えられないと思う。


 今日選んだ宿は、食事付きで1人当たり大銀貨4枚とそこそこ良い宿だ。

 雨期の時期は観光客が少ないから、少し値引きした額になっているらしい。


 今回は遊びに来ているので、ちょっと高いぐらいなら良いだろう。

 流石に、ギルドのおごりで泊まったような金貨クラスの宿屋を選ぶ勇気はない。泊まったとしても、逆に落ち着かなそうだしね。


 夕飯までは時間があるので、ハーミの主の残した日記から読むことにした。

 書類の方は、わたしには役立つか分からないって言われたから後回しだ。


 残された文章から推測を織り交ぜつつ、分かることをまとめていく。


 ハーミの主がこの世界(ヴィルトアーリ)に来たのは、転生者プレイヤーだと思われる英雄たちが、現れ始めてから少し経ってから。

 英雄がたくさん現れたのが300年前ぐらい。何人かの英雄たちとの面識もあるようなことや、書かれた状況から遅くても280年前といったところ。


 ラーゴの町に来た具体的な理由は分からなかったが、3年はあの島に住んでいたみたい。

 長期滞在することが分かっていたので、元の住居からハーミを2匹連れてきたようだ。こちらに来てから、いつの間にか増えたと書いてあった。


 日記の中で、名前が良く出てくる人が1人いるので、一緒に行動していた仲間だと思う。

 その人も転生者プレイヤーかどうかは分からなかった。


 また、転生者プレイヤー同士の、情報交換ネットワークというものがあったみたい。

 どのような手段なのか不明。今も残っているのかな?


 そのあとは、実験や研究などの進行度などが喜びや、愚痴などと共に書かれていた。

 最後の方には『西の聖王国へ向かうことになりそうだ。ヴァレコリーナは、キナ臭いので北回りか』と残されていた。


 更に気になる記述があった。


 『噂レベルだが日本へ戻る方法があるらしい?』と書かれた上に、斜線が引かれ『デマかも? あんなところに帰るつもりはないからどちらでもいい』というメモ書きがあった。

 その他には何も書かれていない。噂だけで終わってしまったのか、帰る気がないから特に調べなかったのか。


 ……日本への帰還方法があるかもしれない。


 噂レベルで、デマかもという上書きがあるので過度な期待はできない。それでも、もしかしたらという気持ちも湧いてくる。

 後でリルファナにも教えないとね。


「うう、リルファナちゃん強すぎるよ」

「なんだか出目が良いですわ!」


 いつの間にか、2人は持ってきたボードゲームをしているようだ。


 細かく読むのはまた後日にして、わたしもゲームに混ぜてもらうことにしよう。

 日記を片付けて、そっと近づく。


「わたしも入れて」

「あ、お姉ちゃん。もういいの?」

「うん、日記の方は一通りは読めたから」

「早いね。わたしも古代語を覚えようかなあ」


 クレアが脇に退いてくれたので、横に座る。


「ではやり直しましょう」


 リルファナの強運で、ほぼ勝負が決まってしまっているようだ。

 ゲームの途中だが、広げたコマを片付けて3人でゲームを始めることにした。



 夕飯も済ませ、クレアがお風呂に入っている間。


「日本へ帰る方法ですの?」

「うん、他には何も記述がなかったし、微妙なところだけどね」

「……仮定の話ですが。もし帰る方法が見つかったら、ミーナ様はどうしますの?」


 リルファナに尋ねられる。


「うーん……。半年前だったら帰るって即答してたと思う。今は悩むかな。リルファナは?」


 リルファナは、多分帰るだろうと思いつつも尋ね返した。

 こちらの両親も亡くなっているし、最近は忘れがちではあるものの、奴隷としてこちらにいるぐらいなら日本へ帰りたいだろうからね。


「わたくしは……。ミーナ様に付いていきますわ」

「え?」

「こちらの世界に来てから色々とありましたけれど、ミーナ様に出会ってからは楽しくやっていけていますもの」


 したってくれるのは嬉しいけど、わたしの選択がリルファナの一生まで決めることになるのは困るよ。


「と言ってもミーナ様には迷惑ですわよね。考えておこうとは思いますわ。ふふ」


 そう言って、リルファナはほほ笑んだ。……冗談だったのかな?


「うん、自分で決めた方が良いよ」

「ええ。でも、ミーナ様もどうしたいか考えておいた方が良いと思いますわ。小説ラノベなどでは、今すぐ決めなければもう帰れないという展開もありますもの」

「たしかに……」


 昔の噂話だし、そんな道具や魔法だったらもう帰れなくなっている可能性も高いと思うけどね。


「お姉ちゃん、出たよー」

「はーい」


 クレアがお風呂から出てきたようだ。

 着替えを持って、入れ替わりで浴室に入る。


 身体を洗って、備え付けの浴槽に身を沈めた。ほぅと一息。


「いつの間にか、今のこの生活が普通になってるよね……」


 日本に帰りたいかと言われると、正直分からない。


 ハーミの主のように、日本の生活に不満があったわけでもないし、生活面では不便だったり無いものも多い。

 それでも魔導機のおかげで、そこまで生活水準が落ちなかったからか、徐々に慣れてしまうものだ。


 それと、なんて言えば良いのか分からないのだけど。

 この世界(ヴィルトアーリ)の、今の生活の方がどことなくしっくり来ているような気もするんだよね。


 急ぎで決めなければならないとなったら、こちらに残ることを選びそうだ。


 ……でもそれで良いのかな?


 リルファナの言う通り、そのときのためにしっかり考えておくべきなのかもしれない。


「ミーナ様入りますわよー」

「あれ?」


 そう言ってリルファナがお風呂に入ってきた。

 そこそこ良い宿屋ということで、2人ぐらいなら余裕で入れる大きさではあるが、普段は交代で入っているのに。


「どうしたの?」

「クレア様が、ミーナ様の顔色がおかしかったと心配してましたわよ」


 リルファナが身体を洗いながら説明した。


「え、そんなに変だったかな?」

「いえ、わたくしには分かりませんでしたわ」

「うむむ……」


 唸っているとリルファナも浴槽に入り、わたしの横に並んで座る。


「帰還については考えておいた方が良いとは言いましたけれど、あまり深く考えすぎても仕方ないと思いますわ。そのときの気分で決めてしまうのも悪いことではないと思いますし」

「そ、そうかな?」

「きっと、どちらを選んでも少なからず後悔するでしょう? なら、そのときの運命に任せてみるのも手ですわよ」

「……そうだね。どっちにしろ、まだその方法の片鱗すら見つかってないもんね」


 状況などによっても判断が変わるだろう。


 もし3人で探索中、危険な遺跡の最奥でそんな機械を見つけたとしても、遺跡から1人で帰るはめになるクレアを放置して使うことはできない。


「うん。ゆっくり考えることにするよ」

「ええ、そうしましょう」


 不意に『日本に戻る方法』と書かれていたので、動揺して焦ってしまったのかもしれない。

 英雄と呼ばれる転生者プレイヤーたちの中でそんな噂が広がっていたのなら、過去の英雄について調べてみるのもありかなと思いついた。


 少し長く湯につかり過ぎたのか喉が渇いた。

 お風呂から出て、部屋に置かれている飲料用の水をぐいっと飲む。


「お姉ちゃん、もう大丈夫そうだね。リルファナちゃん、ありがとう」

「ふふ、ではもう少しゲームでもしましょうか」

「うん! どれで遊ぼうか」


 クレアがマジックバッグから、持ち歩いているボードゲームをいくつか出した。


 今日ものんびりと夜が更けていく。


 明日は、東区の港を見に行く予定だ。

 東の島と貿易もしているそうなので、大きな船も停泊していたりするかな?

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