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ラーゴの町 - 湖

 西門を抜けても、あまり変わらない街並みが続いていた。

 湖まではもう少し距離があるようだ。


 門ではわたしたちは身分証の提出を求められたが、素通りしている人たちもいる。この門をよく使う顔見知りの住人なのだろう。


「パンフレットをいただきましたわ」

「ちゃんと印刷されてるね」


 どうやら湖のパンフレットがあるようで、観光に来たと言ったら門の兵士さんに渡された。

 渡されたパンフレットは、1枚の用紙に刷ったものを4つ折りにした簡易的な物だけど、しっかりと印刷されている。


 この世界(ヴィルトアーリ)には一般市民でも買える程度の本屋があるように、印刷技術はそこそこ広がっている。しかし、無料でチラシを配れるほど発達しているようには思わないんだけど、どうやって作ってるんだろう?

 手書きなら分からなくもないんだけどね。まあ細かいことを気にしても仕方ないか。


 パンフレットによると、湖の名前はパグロ湖。

 守護獣であるハーミによって守られた湖で、ラーゴの町の近くにある小さな島には古い神殿が建っているらしい。「らしい」というのは、建物のある島の近くまでは行くことが出来るのだが、それ以上は結界ふしぎなちからで近付けないそうだ。そのため本当に神殿なのか確認できていないという。


 湖までの道中、ハーミがちょこちょこと歩いているのを何度か見かけた。


「町中にもいるんだね……」

「え、ええ。町中を歩いているとは思いませんでしたわ」


 ハーミは個体差が大きいようで、サイズもサッカーボールぐらいの大きさから、わたしたちの膝上ぐらいの大きさまで様々だ。

 それに、背中の貝の種類も全く違う。貝はヤドカリのように拾ってきたものではなく、最初から背負っていて成長と共に大きくなるらしい。その辺りはカタツムリに近いのかもしれない。


 さすがにクレアとリルファナも、時々歩いているハーミとそのことを特に気にしていない町民に驚いている。

 守護獣って言われるぐらいだから、もっと陰からひっそりと見守ってるものじゃないのかな。


 ハーミとすれ違った町の人は挨拶をしたりもしているが、ハーミもそれに爪をあげて返事をしている。


 人間の言葉、分かってるみたいだね……?


 門の前の道を歩いていると、小さな屋台が増えてきた。遠くには別荘のような建物が並んでいる。


 そろろそかなと思っていると、目的のパグロ湖が見えてきた。


「すごいね、お姉ちゃん、リルファナちゃん」


 思っていた以上に広く、反対岸は全く見えない。

 一見、海のようだけど潮の独特なべたつきや香りがないことから、湖だと分かった。


 すぐ近くには桟橋があり、ボートの貸し出しも行われているようだ。


「お姉ちゃん、ボートに乗ってみたい!」

「楽しそうですわね」


 神殿のある島以外にもいくつか島があるが、そちらは自由に上陸して良いことになっている。


「屋台で何か買ってから乗ってみようか」

「うん!」


 小腹も空いてきたし、ボートに乗っている間にお昼になるかな。

 何か買い込んで、島で昼食というのも良さそうだ。



 屋台で売っていたサンドイッチやホットドッグ、お菓子を買い込んで、貸しボート屋さんへ。


「いらっしゃい。3人だと大きい方だね。夕方までで小銀貨1枚だよ」


 恋人や夫婦で乗れる2人用の小さなボートと、友達や家族用で4人まで乗れる大きなボートがあった。

 それ以上大きくなってしまうと、素人では動かしにくいのでその2つしかないようだ。


 貸し出し前に、店員さんから利用上のルールを教えてもらう。


 まず貸しボートは湖内の一定距離までしか行けず、その範囲を出ようとすると自動的に戻ろうとする仕組みになっているらしい。

 他は、日が暮れる頃までには戻ってくること、島に停めるときはちゃんとロープで繋ぐこと、といった感じで普通の内容だった。


「それとどうしても戻れなくなったら、ボートの中央横についているボタンを押しっぱなしにしておくれ」


 ボタンを押しっぱなしにすることで、自動的にここまで戻って来られるそうだ。

 どうやら魔導機が組み込まれているボートみたい。


 ……この機能で帰れば、戻るのは楽なのではないだろうか。


「ああ、電池を消耗するから別途費用を貰うことになるよ。急病や怪我なら仕方ないから構わないけれど、それなりの価格になるから注意しな」


 そう上手くはいかないようだ……。


「そういえば、リルファナはボート漕げる?」

「いえ、乗ったこともありませんわ」


 わたしもクレアもボートなんて漕いだことはない。リルファナも経験がないようだ。


「嬢ちゃんたち、初めて乗るならこっちに声が届く範囲で少し練習していきな」


 3人でボートに乗り込む。


「わわ、結構揺れるね。ありがとう、リルファナちゃん」


 乗り込むときに、クレアがバランスを崩しそうになったが、リルファナが支えていた。

 リルファナは、トリックスターの能力を持っているおかげか、バランス感覚が優れているようだ。


 とりあえずわたしが漕いでみることにして、オールを握る。

 そっと漕ぎ出すとボートが水面を走り出した。


「大丈夫そうだな。いってらっしゃい」


 湖の上をぐるっと回って桟橋に戻ってくると、店員さんがそう言って建物に戻っていった。


 思った以上に簡単に操ることができたけど、これは多分セブクロの影響だ。


 セブクロでのキャラクターは、水泳や乗馬など冒険者に必要な基本的な技術は持っている設定だった。

 ボートの操船も含まれていたのだろう。今考えればテントを張るといった野営の技術も、父さんに1回教えられただけですんなり習得していたと思う。


「じゃあ、あそこの島まで行ってみよう」

「うん!」


 近くに見えている島に向かってボートを漕ぐ。

 ぐんぐんと島が近づいてきて、あと半分ぐらいだろうか。


 ……なんだか景色がおかしい。


「お、お姉ちゃん?」

「ぐるぐる回ってますわ!」

「あれ……?」


 何故か前に進まず、円を描くように同じ場所を回ってしまっている。


 漕いでも漕いでも前に進まない。もしかして、あの島が結界ふしぎなちからのある島なのだろうか。

 パンフレットだとこんなに近くなかったはずなんだけど……。


「一旦離れるね」

「う、うん」


 前に進めないので、桟橋の方へ戻るように漕ぎなおす。


「まだ回ってますわ」

「むむむ?」


 仕方なく、ボートを停めた。


「……」


 なんとなくクスクスと小さな笑い声が聞こえた気がする。


「そこだ!」


 オールの近くの船縁ふなべりに手を伸ばし掴んだ。

 すると、一瞬光がはじけて掴んだものが見えるようになった。


「わ、見つかっちゃった!」


 わたしが掴んだのは、女の子らしい妖精だ。

 前に出会った妖精の女王ティターナのおかげで、妖精が言っている内容も理解できるようになっている。


「妖精さんですわ」

「全然分からなかったよ」


 本気で隠れるとリルファナだけじゃなくて、魔力で感知できるクレアにも分からないみたいだ。


「むう、こんな簡単に見つかっちゃうなんて」


 わたしが捕まえた妖精が、少しむくれたな顔で言う。


「ええと、何か用事? いたずらしにきただけ?」

「わわわ、苦しい苦しい」


 ぎゅっと掴む力を強くすると、ぺしぺしとわたしの手を叩いた。


「ええと、たまたまミーナたちを見かけたからからかっちゃった!」

「ふぅん」


 さらにぎゅっと掴んだ。

 妖精が慌てて抜け出そうとするが、そう簡単には逃げられない。


「わわわ、そういえば女王がいつになったら来るんだって言ってたよ!」

「あー……」


 妖精は掴んだわたしの手をぺちぺちと叩きながら、情報を追加した。


 そういえば去り際に、ソルジュプランテに入口があるから妖精の女王の聖域を探してみてねって言ってたっけ。

 忘れていたわけでもないんだけど、まだ自由に探せるほどまとまった時間がないんだよね。


「わー! 捕まったー!」


 またいたずらされても困るので、とりあえず妖精をロープで結んでボートに転がした。

 妖精はじたばたと静かに暴れている。なんだか矛盾しているような気もするけど実際にそんな感じなのだ。


「お、お姉ちゃん……」

「い、いいんですの?」


 クレアとリルファナがちょっと呆れ気味にこちらを見ている。


 妖精が本当に嫌なら、ロープなんて透過できるから遊んでるんだと思う。

 と言っても、妖精の言葉が分かるのはわたしだけだから、2人には急にわたしが妖精をロープでぐるぐる巻きにしたように見えたかもしれない。


 妖精のいたずらがなくなったので、すぐに近くの小さな島へと辿り着いた。

 島にも桟橋があるので、そこに船をロープで結び係留する。


「ベンチがあるね、リルファナちゃん」

「そ、そうですわね!」


 わたしが妖精を吊るしながら歩いていると、2人がちらちらこちらを見ながら話している。


「たとえ体は捕まえられても、心までは奪えないんだから!」


 どこでそんなセリフを覚えたんだ、この妖精。

 というか妖精と話せる利点ってあまりないんだろうか……。


 そろそろお昼の時間だ。このままベンチで昼食にすることにした。

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