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ラーゴの町 - 冒険者ギルド

 兵士さんに聞いた宿で1泊。

 接客や部屋、食事は普通といった感じ。お風呂もあったし、北門の近くで大通りにある割には価格は安いかな? 


 兵士さんとしては職業柄、誰でも泊りやすい価格で文句の出ないぐらいの宿を教えるのだろう。


 翌朝、宿で冒険者ギルドと商人ギルドの場所を聞いてから、大通りへと出る。

 商人ギルドはこのまま大通りを進んだ広場にあるそうだ。冒険者ギルドは西門のすぐ近くらしいので、先に商人ギルドへ寄ることにした。


 街並みはガルディアと似ているが、大通りでも平屋の建物が目立つ。

 午前3(午前9時)の鐘と共に宿屋を出たのだが、まだ開いていない店がちらほらとあった。


「とりあえず商人ギルドから行こうか」

「分かりましたわ」


 大通りを南へと歩くと、噴水の設置された広場があった。通称は『北広場』。

 宿屋で聞いた話では、この北門から南門までの大通りには3分割するように2つの広場がある。商人広場があるのはもう1つ先の『南広場』と呼ばれる方だ。


 北と南、どちらの広場からも、東西へと道が伸びていて西門や東門方面へと向かうことが出来る。


「お姉ちゃん、あれ!」


 クレアが指さしたのは、噴水の真ん中に石像。町へ来る途中に見たハーミと呼ばれるヤドカリと瓜二つの石像だった。

 左右の爪を天に向け威嚇しているような恰好なのだが、よく見ると愛嬌があって可愛い。


「思った以上に神聖視されてるみたい?」

「守り神というのも本当のようですわね」


 しばらくヤドカリの石像を眺めてから、南の広場へと向かった。

 北広場から南広場への通り、西区の中心とも言える場所なのだけど、まだ準備をしているようで店員さんはいるが開いていない店が多い。


「観光地なので開店が遅いのかもしれませんわね。ラディス島のお店も、開店する時間は少し遅かったように思いますわ」

「あまり早く店を開けても客が来ないってこと? リルファナちゃん」

「そうそう。きっと閉まるのも早いよね……」

「そうなりますわね……」


 日本の観光地と同じようなものだろう。

 開店は観光客が来る時間にあわせて店を開ければ良いことだし、夕方を過ぎていなくなったら店を開けておく必要もない。


 観光客が立ち寄る可能性のある、宿屋周辺の店なら少し遅くまで開いてるかもしれないね。

 どちらにせよ土産などの買い物したければ早めに済ませた方が良さそうだ。


 南広場が見えてきた。

 北広場と同じように噴水があり、東西への道が伸びている。


「こっちにもあるんだ」

「でも形が違うよ、お姉ちゃん」


 噴水にはハーミの石像が据え付けられているが、先程見たハーミの石像とは背負っている貝が違った。

 実際のハーミを再現しているのかは分からないが、大きさも違う気がする。


「あれ、さっきとは違うのかな?」

「ハーミは個体名かと思いましたが、種族名なのかもしれませんわね」


 そうなると、あの愛嬌のあるヤドカリがどこかに集まっているかもしれないということか。

 どこどこに魔物が出たぞ、などと会議とかしているかもしれない。


「可愛い!」


 わたしと同じように、何か想像をしたのかクレアが言い放った。

 わたし的にはハーミが並び、一斉にハサミを持ち上げているというシュールな映像なので少し違う想像をしたのだろう……。



 商人ギルドは東門への通りとの角にあった。木造の3階建て、町中ではかなり大きい建物で目立っている。


 入口には歯車を背景に、ツルハシとくわが交差した紋章がかけられていた。商人ギルドの紋章は、その国の特色を表すため歯車の背景以外は国によって違うらしい。

 ソルジュプランテは鉱山と農業を表現しているのだろう。


「おはようございます。本日のご用件を承ります」


 窓口の並んだ広いフロアになっている。どこで聞こうかと中に入ってキョロキョロしていると、若い男性の係員がすぐに話しかけてきた。

 男性はややゆったりした商人ギルドの制服に、円形のバレットをかぶっている。


 いくつかある窓口の方を見ると、数人ずつの列が出来ていた。


「ええと、ギルドマスターさんへの手紙を預かってきたのですけど」

「拝見してもよろしいでしょうか?」


 マジックバッグから手紙を出し、職員の男性に渡す。男性は裏に書かれた差出人を確認した。


「ええと、ガルディアの冒険者ギルドからですね」

「はい。返事は不要と聞いてますので、預かって貰えれば大丈夫です」

「分かりました。ではお預かりしますね」


 直接手渡しに行くのも面倒だし、預かって貰えるなら丁度良かった。


「そういえば、冒険者を見かけなかったね」


 外に出てから思い出した。


 ラーゴの町だと商人ギルドで冒険者向けの依頼を受けられるって聞いているけど、どこで受けられたんだろう?

 入口からは、冒険者ギルドにあるような掲示板は見当たらなかったし、冒険者だと分かる格好の人もいなかった。


「向こう側にも入口があったから、あっちじゃないかな?」

「出入りしている方もいましたわね」


 広場から東通りの方をクレアが指さすと、リルファナが頷く。

 商人相手と冒険者相手では業務内容も違うから、入口から分けているのかな。


 商人ギルドから出て、もう1通の手紙を届けるために冒険者ギルドへ向かうことにした。



 西門の方へと歩いていくと、通りには観光客相手の食事処やお土産屋さんが並んでいた。

 そして、門のほぼ正面に冒険者ギルド。……かな?


「ええと、ここかな?」

「……多分?」


 こじんまりとした小さな家屋で、冒険者ギルドの紋章がなければ見逃すところだった。

 クレアも微妙に自信がなさそうなほどの普通の家だ。扉は開け放たれているので勝手に入って良いのだろう。いや、ギルドだし当然ではあるのだけど。


 冒険者ギルドに入ると、すぐにテーブルの置いてあるリビング。10人も入ったらいっぱいになってしまいそうな部屋だ。

 部屋の奥にあるカウンターには、『用事のある方は鐘を鳴らしてください』と書かれた紙とベルが置いてあった。その裏に扉と廊下が見えている。


 この世界(ヴィルトアーリ)……かは不明だけど、少なくともソルジュプランテでは、玄関やホールがあるのは貴族や大きな商人の家だけで、民家はこのような造りになっている。


「これは、普通の民家を使っているようですわね」

「小さいって聞いたけど、ここまでとはね」

「お姉ちゃん、リルファナちゃん、こっちに依頼の掲示板があるよ」


 小さなコルクボードに、いくつかの依頼票が貼られている。

 さっと流し読みしたところ、全ていつでも受け付けている常在依頼。依頼は商人ギルドで受け付けていますといった告知も貼られていた。


「完全に商人ギルドに任せっぱなしって感じだね」

「うん、大丈夫なのかな?」

「ここではそれが普通なのでしょう」


 依頼を見ながら3人で話していると、カウンターの後ろにあった扉が開いた。


「うーん? こんな時間から来客とは珍しい」


 眼鏡をかけた女性が出てきた。寝ぐせがそのままで、Tシャツにスラックスといったラフな服装だ。

 さっきまで寝てたんじゃないかという感じで、服の方もしわだらけだけど……。


「お邪魔してます」

「冒険者ギルド、ラーゴ支店にようこそ。初めて見る顔だけど……、この町での依頼は商人ギルドで受けられるようになってるのよ。こっちに来るのは新人の登録か、冒険者ギルドへ何か報告がある人のみかしらね」


 眠そうな顔で商人ギルドにどうぞと、ひらひらと手を振っている。


「ええと、ガルディアの冒険者ギルドから手紙を預かってきたんですけど」

「え、そうなの。なんだ、先に言ってくれれば良かったのに」


 渡せといわんばかりに手を出された。


「ギルドマスターに直接渡してくれと頼まれてます」

「ああ、言ってなかったわね。私がラーゴの支店長……じゃなくてギルドマスターよ!」


 どやっと胸を張る自称ギルドマスター。さっきまで明らかにやる気なさそうだったんだけど、本当かな?

 裏から出てきたから関係者だとは思うけれど。


「騒がしいですよ、支店長。やることないなら寝てても良いですけど、近所迷惑はやめてください」


 廊下の方からエプロンをした小さな女の子が、頬を膨らませて出てきた。全体的に線が細く、両耳が少し尖っていることからハーフエルフだと思う。

 エプロンで濡れた手をぬぐっているので、何か家事でもしていたようだ。


「えぇ……、お客さんが来てたんだよう」

「あら、珍しい」


 手を拭き終わるとエプロンを外して、カウンター裏に引っかける。

 エプロンの下にギルドの制服。ギルドの職員のようだ。


「新人登録……にしては良い鎧着てますね。ええと、どのようなご用件でしょうか」


 職員さんに再度同じ説明をするはめになった……。


「そうは見えないと思いますが、こちらがギルドマスターで合ってますよ」

「そうだよ、そうだよ」


 眼鏡の女性、ギルドマスターがうんうんと頷いている。


「はあ……。ええと、返事は不要だそうです」


 預かっていた手紙をギルドマスターさんに渡した。


「ふむ、こんな辺境に何の用だろう?」


 ギルドマスターさんは、わたしから受け取った封筒の封を切り広げた。

 部屋に戻って読まなくて良いのかな。まあ、滅多に人も来ないみたいだから、ここで開けても良いのだろう。多分。


「ふむふむ、伝達事項かあ……」

「では失礼しますね」

「はーい。おつかれさまー。依頼を受けるときは南広場の商人ギルドに行ってみてね」


 手を振ってそれだけ言うと、ギルドマスターさんは手紙へ視線を戻す。

 ハーフエルフの職員さんはエプロンを着けなおすと、お辞儀をして出てきた廊下へと戻っていった。


「なんだかのんびりしたギルドですわね」

「ガルディアと全然違ったね、リルファナちゃん」


 ギルドから出ると毒気を抜かれたような顔でリルファナが呟いた。

 本来、冒険者ギルドで行われるはずのほとんどの仕事を、商人ギルドが扱っているから実際に暇なんだろうね。


「レダさんに頼まれた用事も済んだし、湖を見に行ってみようか!」

「うん!」

「分かりましたわ」


 冒険者ギルドのすぐ前にある西門から出れば湖に面した区画だ。

 ラーゴの町へは遊びに来たのだから、ギルドのことは置いておいて観光に行こう。

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