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ラーゴの町へ - 1日目

 ガルディアの南の丁字路。

 東へ進めばフェルド村だが、今日は南へ進む。


 しばらくは丘を眺めながら草原を通る街道を歩くことになる。

 途中から左手にフェルド村の南の森が見えてくるだろう。


 昨日降った雨粒が残っていて、草花が太陽光を反射しキラキラと輝いていた。


「晴れて良かったね、お姉ちゃん」

「うん。しばらく降らないと良いんだけど」


 街道は見通しも良いし、リルファナの探知スキルもあるので気楽だ。


 霧の枝(ネビアラーモ)から帰った後、なんだか疲れていたようなのでリルファナに探知スキルについて聞いておいた。

 探知スキルはほぼ無意識に発動してしまうもので、このスキル自体で魔力を消費したり、特別に疲れることは無いらしい。アルフォスさんやコアゼさんといった、慣れない人とずっと一緒にいたので気疲れが大きかったようだ。


 ぽつぽつと魔物除けの石柱が立っている街道を歩いていく。今のところすれ違う人もいない。


「野営地を見かけませんわね」

「そうだね。国境へ向かう道でもあるから警戒してるのかな?」


 王都やアルジーネへ向かう道は少し歩くだけでも野営地が点在していたが、やはり国内の町同士をつなぐ街道だったからなのかな。

 魔導機の発達で戦争がなくなったとは言え、他国から絶対に攻められないとは言えない。300年ぐらい前の事とはいえ、隣国のヴァレコリーナとは険悪だったようなので余計そうなのだろう。


 リルファナがソルジュプランテに送られたのも、そういう敵国へ送ってしまえという考えからなのかもしれない。

 昔からヴァレコリーナの影で暗躍する吸血鬼ヴァンパイア。考えが古いのだろう。


 現在の二国間では国交や交易もあるし、冒険者や商人たちは気軽に移動しているのであまり意味はない。

 費用や手間を考えないなら、西方へ送った方が帰って来ない確率は高いと思う。


 まあ、そんな古臭い考えの吸血鬼ヴァンパイアのおかげでリルファナと出会えたのだから、別に良いのだけど。


「すれ違う人がいないのは野営地が少ないからかな?」

「うん。それと雨期だからというのもあると思うよ、お姉ちゃん」


 野営地が少ないから、すれ違う人がいなかったことに気付いた。


 あちこちに野営地があれば休憩や宿泊する人たちも分散するため、街道を移動している人も分散する。

 逆に、野営地が少なければ、大体みんな同じ場所から同じ時間に出発するので、まとまってすれ違うことになる。


 馬車と徒歩などで少しは時間がずれるが、長距離を移動する馬車は馬の体力や怪我に気を付ける必要があるので、徒歩と比べても圧倒的に早いものでもないのだ。

 もちろん速達の手紙に使われる馬や、軍馬は別だけどね。


 もちろんクレアが言う通り、雨期だからというのもあるだろう。

 雨が降りやすいと分かっているのに長距離を移動をする人は少ない。濡れると困る織物や食品、魔動機を扱う商人は移動しないだろうからね。


「あ、お姉ちゃん、リルファナちゃん。あそこに野営地があるよ」


 クレアが指さした場所、街道沿いの小高い丘になったところに野営地があった。

 片面に簡易的な壁があるだけの屋根付きの小屋、地面が少し焦げた跡のある火を起こすための区画、テントを張る区画と分かれている。区画分けがしっかりされていない野営地もあるけど、設備自体は他の野営地と変わらないようだ。


 まだお昼前という時間なので、野営地には誰もいない。

 少し早いけど、野営地が少ないならここでお昼にした方が良いか。


「ここでお昼にしていこうか」

「うん!」


 野営地のすぐ近く、丘の下を見渡せる場所を見つけた。

 生活魔法で草花に残った水気を払ってから座る。やっぱり生活魔法は便利だね。


 マジックバッグから広場で買ったお弁当を出す。


「あら、ハンバーグ弁当とは珍しいですわね、ミーナ様」

「うん、たまにはね」

「リルファナちゃん、これは何でしょう?」

「ええと、分かりませんわ……」


 わたしの出したお弁当箱を言い当てたリルファナに、クレアが自分の弁当箱を見せている。

 クレアが「むむぅ……」と残念そうに弁当箱を開けると、サンドイッチが入っていた。


 リルファナがパッケージを見ただけで中身が分かるのは、肉系の弁当だけのようだ……。



 お昼を食べて軽く休憩したあと、再び街道を歩き出す。

 左手側の森が近付いてきた。道が徐々に東に寄っているみたい。


 おやつの時間だろうかといったところで、次の野営地があった。

 普通に歩いていると、ちょうど夕方になるタイミングの野営地だと思う。わたしたちの移動が速いので中途半端な時間だ。


「うーん、テントを張るにはまだ早いよね」

「ええ、ただ野営地が少ないので、次の野営地まではたどり着けないかもしれませんわね」


 野営地は地面が平らになっているし、安全に火を使える場所も決まっているので楽ではあるが、無理に野営地にこだわる必要もないか。


 見つけた野営地をスルーして、森に沿った街道を進む。

 日が傾きはじめてしまったが、予想通り次の野営地が見つからない。


「もう少しだけ進んでみて、テントを張る場所を決めようか」

「うん、暗くなっちゃうと大変だもんね」


 照明トルチャの魔法があるので、暗くなってからでもテントを張れないわけではない。

 しかし、辺りが完全に暗くなってから野営の準備を始めるのは危険だ。明りにつられて森から何か出てくるのも嫌だからね。


「前の方に煙が見えますわ」

「ん? 本当だ。なんだろう?」


 前方に目を凝らすと、街道の分岐点が見えた。

 右に行くとヴァレコリーナの国境、左に行くとラーゴの町だ。ガルディアとは真ん中ぐらいといったところ。


 その分岐点に石造りの建物があり煙突から白い煙があがっている。火事などでは無さそうだ。


 建物に近付くと、はっきりと建物の全容が見えてきた。

 石壁で囲われた要塞のような2階建ての建物と小さな塔がある。2階には小さなバルコニーがあり、紋章が2つかかげてあった。


 片方はガルディアでよく見かける紋章で、ガルディアを治めるハウリング家の紋章。

 もう1つも見覚えはあるけど、どこで見たんだったかな?


「ハウリング家の建物のようですわね」

「えっと……、もう1つの紋章は?」

「お姉ちゃん、もう1つはソルジュプランテの国章だよ……」


 ああ、王都で見かけたのか。


「ガルディアでもたまに見かけるからね、お姉ちゃん」

「冒険者ギルドの1階にも、ギルドの紋章の横に掲げてありますわね」


 そうだったのか……。2人ともよく周りを見てるね。


「ハウリング家の紋章なら近付いても大丈夫だよね」

「ええ、駐屯地か何かでしょうか」


 石造りの門まで辿り着くと、甲冑を着込んだ騎士さんが出てきた。

 父さんよりも年上ぐらいの男の人だ。


「おや、誰か近付いてくると見張りに言われたが、冒険者の嬢ちゃんたちじゃないか」


 わたしたちのことを知っているらしい。

 ハウリング伯の騎士ならば、ガルディアの町のどこかですれ違っていても不思議はない。


 ここは騎士さんたちの駐屯所だそうだ。リルファナの予想は当たっていたね。

 1階は冒険者や商人も利用させて貰える宿屋になっているとのことなので、ここで泊まっていくことにした。


「昔は貴族様が使うこともあったんだがな。最近は滅多に使うことがなくなったから、冒険者や商人に開放してるんだよ」


 騎士さんに案内され、建物に入る。

 受付のカウンターと、食事が出来るテーブルが並んでいる。


「おーい、お客さんを連れてきた」

「はいはい」


 奥から女性が出てきたが、騎士鎧を着ている。

 案内してくれた騎士さんは、そのまま奥へと行ってしまった。


「3人だと大部屋かな。1泊1部屋で小銀貨2枚。食事が必要なら1人ごとに大銅貨3枚だけど、保存食を温めるだけだから量も少ないし、そんなに美味しくないわよ」


 女性の騎士さんが、宿屋の担当のようだね。


 うーん、夕飯は自分で作った方が良いかな?

 3日ぐらいなら持ち歩いても大丈夫な食材も多いから、野営で使えるかと材料を持ってきているのだ。


「厨房は使わせてもらえますか? 外で火を使えるならそれでも良いですけど」

「今は上の連中の食事を作ってるから、少し待ってくれれば厨房を使って良いわよ」


 部屋だけ借りて、厨房を使えるようになるまで待ってから自分たちで夕飯を作ることにした。

 ついでに身体を拭くためのお湯も沸かそう。


 まだ少しかかるそうなので、ここで待っていても仕方ない。鍵を受け取り、指定された部屋に行ってみることにした。

 受付の騎士さんは大部屋と言っていたけど、並んだベッドは4つなので4人部屋だ。


「あれ、お姉ちゃん。大部屋じゃなかったっけ?」

「2人部屋と4人部屋辺りで言い分けてるだけなんじゃないかな、きっと」


 騎士さんたちから見れば、宿屋がメインの仕事というわけでもないだろうし、大雑把なのだろう。


 部屋で休憩していると、トントンと扉をノックされた。

 出ると受付の騎士さんが立っている。


「厨房を使って良いわよ。使い終わったら火の始末だけお願いね。一応、後で確認はするけど、宿泊客がいるときはあまり下りてこないようにしてるのよ」

「はい、ありがとうございます」


 騎士さんがうろうろしていると、悪いことをしているわけでもないのに緊張する人もいるので気を使っているのかな。


 厨房に向かうと、出来上がった夕飯を運んでいる数人の騎士さんたちとすれ違った。

 下の階は客用で、騎士さんたちは上の階で食べるみたいだね。


 適当に食事も済ませ、お湯を沸かして厨房の火を消したら部屋まで持っていく。

 わたしたちが厨房を使っている間、騎士さんたちは食事の片づけぐらいでしか下りてこなかった。


「明日にはラーゴの町に着くかな。早めに休もう」

「うん!」


 ――翌朝。


「ラーゴの町に行くのかい? 時期的に川が増水気味だけど、気にするほどではないかな」

「ありがとうございます」

「おう、気をつけてな」


 この辺りの情報を持っているだろうと、騎士さんに何か気を付けることはあるか教えてもらった。

 小さめの建物なので駐在している騎士も少ないのか、ここの騎士さんは気さくに接してくれる気がする。


 駐屯所を出て南東の街道へと足を向ける。

 まだしばらくは森沿いを移動することになる予定。


「あれ、森の中に川が見えるね」


 森をよく見ると、森の中を川が走っているのに気付いた。


「あの川沿いを北へ行けばフェルド村ですのね」

「なんだかそう考えると不思議だね、リルファナちゃん」

「ええ、ここだけを見ると繋がっているようには思えませんもの」


 しばらく森と川を眺めつつ、それ以上は何も言わずに3人で歩き出した。

 今日中にラーゴの町に到着できるといいな。

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