短剣と片手剣の売却
ガルディアの町に着いたのは、午後1の鐘が鳴る頃。
今回は父さんと母さんももいるのでゆっくりと歩いてきた。
家の鍵を受け取るために、冒険者ギルドへ寄る。
受付にレダさんは見当たらなかったが、家の鍵を受け取っておけば夕飯頃には帰ってくるだろう。
その間に、父さんは受付でギルドカードにお金を入れて貰っている。
ついでに、村長さんからの用事で商人ギルドにも寄っていくそうなので、わたしは先に夕飯の材料を買って帰ることにした。
ガルディアの商人ギルドは、冒険者ギルドと同じように中央広場にある。
わたしは商売をする気はないし、用事も無いので素通りしかしてないけどね。
「私も行く!」
クレアは興味があるらしく、父さんたちに付いていくようだ。クレアが一緒にいた方が、家の場所を間違えないだろうし丁度良いかもしれない。
「じゃあ先に帰ってるね。まだ時間もあるし買い物とかしてきても良いんじゃないかな」
「うん!」
リルファナと食材を買って帰宅した。
夕飯を作り始めるにはまだ早い時間だ。1週間出ていたせいか埃っぽく感じたので2人で窓を開け軽く掃除をしておく。
「ただいまー」
夕方になるとクレアたちが帰ってきた。
「ふー、商人ギルドは混んでたよ」
クレアは商人ギルドのシステムを聞いてきたらしい。
ガルディアに限らず、各町で商売をするときは商人ギルドへの登録が必要なようだ。
目安としては一月で大銀貨5枚以上の稼ぎになる場合は登録必須とのこと。
登録料や維持費がかかるが、何かあったときには商人ギルドが相談に乗ってくれるし、内容によっては介入してくれたり、保証してくれるそうだ。
わたしは冒険者ギルドに短剣を卸したが、小規模なので登録の必要は無いみたい。
また新しく開発した製品の権利などを管理しているのが商人ギルドだ。
この世界でどこまで守られているのかは知らないが、著作権みたいなものだろう。
ちなみに父さんは、村の醤油の売買の件で相談があったらしいが、クレアと母さんは部屋の外で待っていたので内容は知らないとのこと。
「帰ったさね」
クレアの話を聞きながら夕飯を作っているとレダさんも帰ってきた。
「おや、マルクとジェッタさんも一緒かい」
「ああ、娘から小遣いを貰ったんだが多すぎて預けにな……」
「冒険者でも商人でもなさそうなのに大金を預けていった人がいるって報告があったけど、マルクだったのかい」
お金関係は犯罪につながりやすい。珍しいことがあったときは報告が入るらしい。
「そうそう、リルファナちゃんに手紙さね」
「あ、叔父様からですわ」
レダさんがリルファナに封筒を渡すと、リルファナが中身を取り出して読み始めた。
「ヴァレコリーナの最近の情報ですわ。ただ、特にこれといって変化は無いようですわね」
吸血鬼騒動は、まだ完全には収まっていないようだ。
情報が全く無いよりは、連絡して貰えるだけでもありがたい。
「返事があれば、あたしが預かるさね」
「後ほど書いておきますわ。防具のお礼もしていませんもの」
「あいよ」
お礼の手紙の方はリルファナに任せることにしよう。
「それと、遺跡調査中に見つかった魔道具の使い方が分かったと連絡が来たさね」
わたしたちのは冷蔵庫だったから、ドゥニさんたちが見つけた方だね。
「必要なければ買い取るとのことで、冷蔵庫の方もまとめて支払うと言っていたさね」
「冷蔵庫はもう1つか2つは欲しいです。ドゥニさんたちの見つけた方はどんな道具か分かりますか?」
「薬品の精製に使うガラス瓶や道具ってことだけど、詳しくは聞いてないさね」
ビーカーか何かかな?
製薬に使うならば、リルファナが使えるだろう。
「詳しく聞いてからだけど、1セットは道具で欲しいかもしれません」
「分かったさね。後で詳細を書いたメモをケレベルから貰ってくるよ」
「お願いします」
父さんと母さんもいるので、夕飯はフェルド村にいたときとあまり変わらない賑やかさだ。
夕飯後に簡単に遊べるボードゲームをして、その日はお開きとなった。
◇
――翌朝。
今日は依頼を受ける予定はないので、母さんと父さんを南門まで見送った。
「とりあえずギルドで武器を卸してくるね」
「うん。下で依頼票でも見てるよ」
クレアとリルファナを1階に残して、わたしだけ3階の装備屋に上がる。
「あ、短剣の買取ですか?」
カウンターにいたのはこの間、買い取りをしてくれた店員さんだった。話が早い。
「短剣と片手剣を作ってきました」
「助かります。この間の短剣が、値段の割に性能が良いと評判になりまして。駆け出しだけでなくC級の冒険者も、解体用や予備にと買っていってしまったので、すぐ売り切れてしまったんですよ」
そんなに良いものだったのか。
断られても良いかと短剣は多めに10本、片手剣は5本作ったのだけど足りるだろうか。
「これで全部です」
「すぐに査定してきますね!」
店員さんはすぐに戻ってきた。
買取がほぼ確定しているからか、短剣などは持ってきておらず手ぶらだ。
「短剣は大銅貨5枚、片手剣が小銀貨1枚でよろしいでしょうか」
「あれ、この前より高くないですか?」
「ええ、安いとC級の冒険者たちに買っていかれてしまうので、駆け出しには値引きするという形で売ろうかと考えています」
本来、ガルディアの冒険者ギルドでは新人冒険者向けとして、並程度の品質の物を安く売っている。C級冒険者が買っていくなら、値札の表記は良品という形にして値上げすることにしたらしい。
安い短剣も並べておき、新人がそちらを持ってきても、わたしの納品した短剣を同じ値段で売るつもりのようだ。
「分かりました。それで良いです」
「では大銀貨1枚に、小銀貨1枚もつけておきますね」
1割も多いけど、値札にはかなり高く書くつもりなのかな。
新人ばかりに売れると損してしまうが、店員さんはその値段でもC級冒険者に売れると思っているのだろう。
「これもすぐ売れてしまうと思うので、また作っていただけると助かります」
「また持ってきますね」
買い取ってもらえるなら片手間に作れるし、鍛冶のスキル上げにも丁度良いだろう。
店員さんはわたしが本職ではないことを知っているので、納期や本数といった細かいことは言われなかったが、また作って来ようと思う。
お金を受け取って1階に下りる。
少し遅い時間なので、わたしたち以外の冒険者はほとんどいない。クレアとリルファナはまだ依頼の書かれた掲示板を見ているようだ。
「討伐依頼が少ないね、リルファナちゃん」
「ネーヴァ様の影響がまだ残っているのでしょう。採取依頼は多いですわ」
雨の影響で、この時期だけ採れやすくなる植物も多いみたい。
告知のスペースには、「青竜の活動範囲が広がっていますが問題はありません」などと書かれていた。
「お昼はミートサンドにしようか」
「賛成ですわ!」
ジャンクフードっぽいミートサンドは、たまに食べたくなる味だ。
持ち帰り用のミートサンドを買って家に戻る。お昼に帰ってくるか分からないけど、レダさんの分も一応買っておく。
お昼まで時間もあるし、少し短剣を作っておこうかな。
◇
レダさんは来なそうだけど、お昼になったので3人でご飯にする。
「どこか遊びに行こうかと思うんだけど、どうかな?」
「お父さんに聞いてた話?」
「そうそう」
「うーん。ラーゴの町だっけ。湖は見てみたいな」
クレアが母さんたちの話を思い出しながら話す。
「あと、ラーゴの町じゃないけど王都の図書館も行ってみたいかな」
「わたくしも王都のお店をゆっくり回ってみたいですわ。でもリゾート地も気になりますわね」
クレアは王都の図書館が気になるようだ。リルファナも王都での買い物が気になるみたい。
短剣が売れることが分かったし、わたしもついでに武器の柄を補充しておきたいな。
「じゃあ、今月はラーゴの町に行って、そのあと時間があれば王都に行こうか。ついでに、町のギルドで1件ぐらい依頼を受けるようにしたいかな」
「うん!」
「分かりましたわ」
「出発は明後日で、雨の様子次第で延ばそうかな」
王都とラーゴの町は方向が逆なので、それで6月が終わるだろう。
さすがに1か月間、依頼を全く受けないというのも気が引ける。ついでに出来そうな依頼を受けながら遊びに行くことに決めた。