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霧の枝 - 王都出発

 コアゼさんに夕飯にハンバーグの作り方を教えると約束した。


 そろそろお昼を食べに行こうと言うミレルさんに、わたしとクレア、リルファナで付いていく。

 意外と家から近いようで、体感で10分も歩かないうちに立ち止まった。


「ここ」


 ミレルさんが指さした店は、ファンシー系の飲食店だった。

 柴犬をデフォルメしたキャラがマスコットのようで、あちこちに書かれている。ぬいぐるみなども置いてあった。


 中にいるお客は、ほとんど若い女性ばかりだ。

 普段着のお客さんも多いが、軽鎧やローブを着ている人もちらほらといるので、冒険者も多く立ち寄る店なのだろう。


「ここのご飯が美味しいって、後輩の冒険者から聞いた」


 店の雰囲気やキャラクターよりも、美味しいという料理が気になっているらしい。


 ミレルさんは背も低いし、父さんと冒険していたのだから、わたしたちよりも15歳以上は上のはずなのだけど、かなり若く見える。

 店にいても違和感はなさそうだけど、1人で来るのは勇気が必要で、誘ったジーナさんたちは嫌がったのだろう。


 席に通されるとテーブルにはマスコットキャラのテーブルクロスが敷かれ、椅子の背もたれも犬耳の形になっている。

 置かれたクッションも犬の顔型だ。


「お姉ちゃん、可愛い店だね」

「そうだね」


 うーん、こういう高校生向けぐらいのお店は日本でも行ったことがない。

 クレアは楽しそうにきょろきょろしている。あちこちに色々な犬のキャラクターが隠れているようで見ているだけでも楽しい。


「こちらがメニューです。決まりましたら呼んでください」


 エプロンは犬の刺繍が入った愛らしいものだが、店員さんのしゃべり方やメニューは普通の洋食店のような内容だった。

 店に入ったときからメイド喫茶の亜種みたいなものなのかと思っていたが、流石にそこまで凝ってはいないか。


 わたしとミレルさんは週替わりのランチセットを選んだ。

 クレアはオムライス、リルファナはチキンナゲットがメインのセットにしていた。


「お待たせしましたー」


 運ばれてきた料理だが、ランチセットは犬型プレートの上にベーコンと目玉焼き、チーズ、ドレッシングのかかった野菜などが載っている。

 女性向けにしては量が多めだったが、残してしまっても入れるための箱代を払えば持ち帰りも出来るそうだ。


 冒険者のお客さん向けに量も多くしているのかもしれない。


 クレアのオムライスはケチャップで犬の絵が描かれている。

 リルファナの頼んだ定食は、器の形を除けば普通の小判型のナゲットとコメの定食のようだった。


「おお、これは美味しい」


 ミレルさんがびっくりしている。


 そんなに美味しいのかとわたしも食べてみると、日本の洋食屋で出てくるような味だ。

 この世界(ヴィルトアーリ)の食事は、転生者プレイヤーの頑張りのおかげなのか、それなりに美味しいものも多い。しかし、それと比較してもこの店は上位に入るだろう。


 店のコンセプトや味付けから、元々は転生者プレイヤーが開いた店なのだろうか。


「卵がふわふわだよ、お姉ちゃん」

「カリっとしていて美味しいですわ」


 オムライスもナゲットも美味しそうだ。王都に寄ったときはまた来ても良いかもしれない。


「ありがとうございましたー」


 しばらくのんびりしてから店を出た。

 付き合ってくれたお礼といって、昼食代はミレルさんが奢ってくれた。


「満腹。やっと行けた。ありがとう」

「いえいえ、美味しい店が知れたので良かったです」

「このあと、ミーナたちは用事はある?」

水の()区の店に行こうかと思ってます」


 前に寄った店で剣の柄を買っておきたい。


 ミレルさんはジーナさんと実家に顔を出しに行く予定だそうなので、そこで別れた。


 ……あまり似てないけど姉妹だったのか。


「お姉ちゃん、そういえば味噌も買わないの?」

「あ、そうだね。王都じゃないと買えないか」


 クレアに言われて思い出した。

 帰りにでも前に寄った風の(西)区の店で味噌も購入していこう。



 近くの乗合馬車を使い水の()区まで移動した。


 やはり王都の広さは移動に時間がかかる。

 ふらふらと他の店に寄っていると、アルフォスさんのチームの家のある風の(西)区に戻る頃には、暗くなってしまいそうだ。


「ここですわ」


 わたしはうろ覚えだったが、リルファナがしっかり店の場所を覚えていてくれたようだ。


 柄以外の素材も色々と売っていた武器屋に入る。

 まだ扱っているか心配しつつも、剣の柄のパーツのあったコーナーへ。


 前は短剣と片手剣用の2種類だけだったが、両手剣用の大き目のものや刀用なども少し置いてあった。

 しかし、数は前よりも少ない。売れないから減らしたのだろうか。


「ああ、前にたくさん買っていった嬢ちゃんか。作ってた職人が、最近は柄だけじゃなくて刀身も作るようになったんだよ」


 店員さんに聞いてみると、どうやら製作者が自分で使うようになってしまったみたい。

 うーん、鍛冶スキルが上がってきたからか、わたしも自分で作れそうな気もする。でも、スキルが自動的に柄にあわせて作ってくれるので、買ってしまった方が楽なんだよね。


「売れたときは喜んでいたし、柄がもっと必要なら注文は受けると言っていたよ。すぐ裏の工房だから行ってみると良い」

「必要になったら行ってみますね」


 今のところは前に買った残りもあるし、急ぎで必要ということもない。注文しても王都まで取りに来るのも大変だし、今度でいいかな。

 売っている分だけ全種類購入して、買い物をしつつアルフォスさんたちの家に戻ることにした。


 風の(西)区に戻ったところで、母さんも使うだろうと味噌を多めに購入。

 ついでに、コアゼさんにハンバーグの作り方を教えるためのハンバーグの材料も買った。


 帰宅すると、ブコウさんも帰ってきていた。


 刀の修理や点検を頼んでいる知り合いの鍛冶師の所へ、顔を出しに行っていたらしい。

 帰ってくるたびに刀を見てもらっているのかな。


 今日の朝、ミレルさんたちがゲームをしていた席で、のんびりと緑茶を飲んでいる。

 コアゼさんも一緒にいたので、丁度良いと夕飯の準備をすることにした。


「おかえり」


 平屋に入るとジーナさんとミレルさんがソファに寝転がっている。2人とも実家から帰ってきているようだ。


 普段はこちらの平屋にいる人が多いみたいだね。


 日頃から料理する人ならハンバーグを作るのはそんなに難しくない。

 簡単に言ってしまえば、材料を全部混ぜたら固めて焼くだけだ。


「両手で往復させてぺたぺたと空気を抜いてください。ただ、焼いた後にソースと一緒に煮込みにするなら不要です」

「ふむふむ」


 コアゼさんがメモを取りながら、一緒に作っていく。

 最初はクレアとリルファナもいたのだが、途中でロダウェンさんに手伝ってほしいと呼ばれて何処かへ行ってしまった。


 10人分作るので、大きなフライパンを2つ並べてどんどん焼く。

 片方を普通に焼き、もう片方を煮込みハンバーグにしよう。


 焼いている間に、クレアたちが戻ってきた。

 大きな樽を2つ転がしてきたようだ。


「倉庫からグレップのワインとジュースを運んできた」


 たしか、グレップはブドウのことだ。

 この世界(ヴィルトアーリ)では、ワインやジュースに加工されることが多い。産地ではそのまま食べることもあるようなので、保存の問題からだと思う。


 普段から夕飯の時間なのか、日が沈む前にはぞろぞろと食堂に集まってきた。

 依頼で、朝早くから出ることも多いので夕飯も早めの時間みたい。


「やっぱりミーナの作るハンバーグは美味しい」

「思った通りワインが合う」


 ミレルさんが食べながら褒めてくれた。

 ロダウェンさんはワインを片手にゆっくりと味わっている。


「確かに店のより美味いな」

「破裂しないように空気を抜くとか、少し蒸し焼きにするとか細かいながらも技術がつめこまれていたわね」


 ディゴさんが驚き、コアゼさんが説明した。

 わたしは普通に作っただけだが、知らない人にはそう見えるのか……。


「ええと、明日の朝にはガルディアに戻りますね」

「あら、早いのね」

「もっとミーナの料理を色々食べてみたかった……」


 思っていたよりも霧の枝(ネビアラーモ)から早く戻ってこれた。

 明日王都を出れば、ぎりぎり5月中にフェルド村に帰ることも出来そうだ。



 ――翌朝。


「助かったよ、ありがとう」

「呼んだのがミーナさんたちじゃなかったら、もっと時間もかかってたわ」

「もしヒヒイロカネが見つかったら、ガルディアに連絡するからの」


 アルフォスさんたちに南門まで見送られ、ガルディアへと出発だ。

 A級冒険者が総出で見送りに出ているので、何事かと周囲の人の注目を浴びている気もする……。


「王都に来たらまた顔を出しますね」

「ええ。マルクもいるし、フェルド村にもまた行きたいわね。剣もありがとうね」


 報酬と依頼完了を証明する紙も受け取っている。

 わたしが、鍛冶でがばがば魔力ポーションを使ってしまったので、素材を採取しながら帰ることにした。

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