霧の枝 - レイス
ガタクの王、またはスケルトンの王の部屋の前。
作戦会議を開くことになった。
ゲームではよくある光景だけど、現実となっても通用すると何だか不思議な感じだ。
「ここまで一緒に来たんだ。嬢ちゃんたちが戦力になることは分かってる。どうせ叩くことになるなら早い方が良いんじゃないか?」
「戦力になることは否定しないけれど、預かっている子たちを危険に晒すのは反対だわ」
コアゼさんはC級冒険者のわたしたちに、自分たちでも危険かもしれない魔物と戦わせることに反対している。
聞いていると、レダさんから預かっているぐらいの感覚のようだ。
ブコウさんとロダウェンさんも反対とまでは行かないけれど、あまり良い気はしていないみたい。
アルフォスさん、ミレルさん、ジーナさんは討伐後の蜘蛛の女王を見ているので特に気にしていないように見えた。
スケルトンは大して強い相手でもないので、反対している3人はわたしたちの力量を正しく測れていない気がする。
苦戦していたシャドウスケルトンも攻略法さえ分かってしまえば、特に問題なさそうだったので自分達の知識の問題だったと思っていそうだ。
ディゴさんは効率的なのか、勘が鋭いかのどちらかだろうか。
何かあったらすぐに助けられるように、わたしとリルファナの動きを後ろから見ていたからというのもあるかもしれない。
道中でもうちょっと派手に戦った方が良かったかな?
「クレアちゃんはどう思う?」
しばらくディゴさんとコアゼさんが言い合っていたが、埒が明かないのでアルフォスさんはクレアに問いかけた。
「え? うーん……。お姉ちゃんとリルファナちゃんなら簡単に倒せるんじゃないかな? お姉ちゃんとリルファナちゃんの魔力の方が大きいし……」
クレアがわたしたちとスケルトンの王を交互に見比べながら答えた。
もしかして『慧眼の賢人』って魔力の大きさで、ある程度なら強さの比較もできるスキルなのかな?
コアゼさんが、目を見開いた。
今のクレアの言葉に何かあったんだろうか。
「……そう。どう戦うか決めましょうか」
よく分からないけど、クレアの話で意見が変わったようだ。
戦うと決まったら話は早い。想定外のことが起こった時なども含めて作戦を決めて行く。
◇
まずはジーナさん、ロダウェンさん、ブコウさんが庭園のある部屋に入った。
3人は近接戦の方が得意なので、レイスを落とすまでわたしたちを守る役割だ。
続けて魔法攻撃が可能なわたしとリルファナ、クレア、コアゼさん。
その後ろに弓を持ったミレルさん、スリングを使うディゴさんがいる。
アルフォスさんは一番後ろで回復魔法に専念し、指示を出すことになった。
「後衛に専念するのは久しぶりだなあ」
アルフォスさんは槍を背負ったまま、短杖と盾を持っている。
わたしたちが入ってきたことに気付いたスケルトンたちは、一斉にこちらを向き武器を構える。
スケルトンの王は、やっと来たかとばかりに両手の剣を掲げる。
だが、わたしたちの狙いは横のレイスだ。
「巫術・火神の祝福」
コアゼさんが、火属性の威力を強化する強化魔法をかけた。
効果時間が短く使い勝手が悪いが、作戦を練って上手く使えば大ダメージを狙える魔法でもある。
魔法を撃つ準備をしているわたしたちだけでなくロダウェンさんにもかけたので、攻撃魔法か攻撃スキル、属性付きの武器なら強化されるのかな。
「火矢」
「火球」
「氷針、火球」
ミレルさん、わたし、リルファナの攻撃魔法が一斉に飛ぶ。
「ふんっ!」
ディゴさんのスリングからは、赤い玉が飛んでいく。
弧を描いて飛ぶ玉は見事にレイスにぶつかった。その途端、爆ぜた玉から火がぶちまけられ、レイスのローブが燃え出した。
「いいぞい!」
「爆発」
ディゴさんの合図で、クレアが部屋に入る前から練っていた魔力を解き放つ。
レイスを中心に爆発が起きた。半径2メートルぐらいにいたスケルトンたちが吹き飛び、王がよろめく。
爆発は、範囲を広げると少しずつ破壊力が落ちる。それに、周囲に被害が及ばないように範囲を狭めて撃つことが多い。
コアゼさんの強化があると言っても、広範囲に撃ちこんであんなに威力が出るとは思っていなかった。
開幕から数十秒でレイスはぼろぼろである。杖に身体を預けるように立っていた。
倒しきれればラッキーだったが、そこまでは無理だったか。
レイスがスケルトンの王へ強化魔法をかけようと詠唱をはじめる。
ロダウェンさんとブコウさんが、殺到するスケルトンたちと戦い始めた。
ミレルさんは弓を背中に戻し、短剣を手に取った。
前に出ていたジーナさんと一緒に前方へと走る。スケルトンの攻撃をかわしながら駆け抜けていった。
一撃与えたあとは、スケルトンたちが集まる前に後方へ抜けて、アーチャーとウィザードを相手して貰うことになっている。
「出ます」
「前に出ますわ」
ブコウさんとロダウェンさんの2人では、スケルトンの大軍を留めておくことも出来そうにない。
わたしとリルファナが前に出る。
「巫術・光神の祝福」
コアゼさんの詠唱が終わると、きらきらとした白い光が全員に降り注ぐ。光は身体の周囲を照らすように輝いている。
不死の魔物から身を守る、属性防御魔法だ。
セブクロの祝福の魔法は、同じ神の祝福でも複数の効果があった。
そのためスキル名は、『光神の祝福・不死属性強化』といった風に後ろに効果が書かれている。
ゲームと違い、詠唱時の魔力の練り方などで効果を変えられるからか、詠唱では効果部分を言わないようだ。
「そら、もう一丁」
ディゴさんが、スリングで赤い玉を飛ばす。
さっきと同じように、見事に詠唱中のレイスへと命中した。
爆発と炎により、集中を乱れたレイスの詠唱が止まった。練っていた魔力が霧散する。
「ディゴ! 危ないじゃないか!」
「ん。まあやるとは思ってた」
ジーナさんとミレルさんの抗議の声が、スケルトンの群の向こうの方からあがった。
「火力が足らねえんだから仕方ねえだろ! ほらっ」
更に一発投げつける。玉の色は黒。
レイスの周辺に灰色の粉が舞う。
「魔法詠唱の邪魔をする粉が入ってる。早めに倒しな」
「いきます! 炎刃!」
クレアが魔法を唱えた。
炎刃? 知らない魔法なんだけど……。
「え? あれはなんですの?」
スケルトンの相手をしていると、リルファナが疑問を口にした。
2人とも知らないのではセブクロには無かったか、かなりのレア魔法である可能性が高い。
灼熱の炎が、剣の形になって飛んでいく。
切先がレイスに突き刺さると、じゅっと音がしてローブの焼け焦げた臭いが鼻についた。
レイスは耐え切れず、がらがらと崩れていく。
残った杖が床に転がって、からんからんとこだました。
なかなかの威力だ。
あとで、わたしにも教えてもらいたい。
この後の作戦は、ブコウさんとロダウェンさんを中心に、わたしとリルファナがスケルトンの王と戦う。
コアゼさんとアルフォスさんが両方のサポートをして、残りのメンバーは周囲のスケルトンを掃討する予定だ。
とりあえず戦線を維持しながら、陣形を変えるために様子を見る。
セブクロと同じように無限沸きなのかは分からないが、倒しても倒してもスケルトンはどこからともなく少しずつ補充されているように思えた。
しかし、アーチャーとウィザードは補充されていない。
ブコウさんがスケルトンの王を相手取って立ち回っており、ロダウェンさんとわたしが後衛へと近寄るスケルトンを優先して倒していく。
リルファナは、相手の陣形を崩すために戦場を駆け回っている。
ひゅっという風切り音。
アーチャーの放つ矢の飛ぶ音だが、いままでと全く違う方向だった気がした。
「ぐっ」
柱の影からアーチャーの矢が飛来すると、ロダウェンさんの肩に突き刺さる。
すぐさま柱の影でスケルトンの崩れる音。ミレルさんたちが倒したのだろう。
今まで矢も魔法もほとんど飛んでこなかったが、別の方角にいたため処理が追いつかなかったようだ。
「ロダ、一旦戻って! ディゴ、穴埋め頼む」
「おう!」
ディゴさんが短剣を片手に飛び出した。
ロダウェンさんが両手に武器を握ったまま歩いてくる。痛みを我慢しているようで、硬い表情だ。
「コアゼ、前衛のサポートを頼む」
「分かったわ、でもどうするの?」
コアゼさんが、この後の作戦をどうするか問う。
「ミーナちゃんたち3人でいけそうかい?」
「え、ちょっと! いえ、いいわ……」
いいえとは絶対に言われないという様子で、アルフォスさんに聞かれた。
その様子にコアゼさんが慌てた様子で声をかけてきたが、頭を振って取り消した。
本来なら誰かが怪我をして戦線を維持できなくなりそうなら、撤退の予定だったはずなのだが……。
「大丈夫です!」
「いけますわ!」
「頑張ります」
倒せるかと問われたら、倒せるだろう。
3人で答え、ブコウさんが足止めしていたスケルトンの王へとリルファナと走る。
クレアは動かない。後方からこちらの支援に専念する形だ。ロダウェンさんの傷が深かったら支援よりも回復にまわって貰った方が良いだろう。
「頼むぞ!」
ブコウさんを狙ってスケルトンの王が振った大剣を、強引に入り込んで霊銀の剣で受け止めた。
ここからはわたしが盾役だ。
ブコウさんさんが少し下がったことを確認する。
スケルトンの王の、大剣を押す力を反動にして後ろへとステップして下がる。
「加速」
自分で強化魔法をかけなおす。
リルファナは周囲のスケルトンを倒しながら、追いついてきた。
「リルファナ、速攻で行くよ!」
「では参りましょう」
わたしは霊銀の剣、リルファナは小刀を構えた。
ブクマ、評価、誤字報告などありがとうございます。
PCの電源が壊れかけていて、最近なかなか起動しない頻度が増えてきました。
その分の執筆ペースも落ちているので、投稿が数日遅れることがあるかもしれません。
(サブPCがあるので、PCの故障で投稿がずっと止まることはほぼ無いです)