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霧の枝 - スケさん遺跡

 見張りは2人1組の4交代とした。

 人数が多いし、魔術師は魔力回復を優先した方が良いとのことで、クレアとコアゼさんは見張りから外されている。


 4交代なら、担当する時間は1組2時間ぐらいとあまり長くない。


 わたしとリルファナの組は最後となった。

 6時間ほどでロダウェンさんに起こされて交代する。


 空間が広く、遺跡内はどこからか空気の流れがある。火を点けても大丈夫そうだと夜間は焚き火をしていた。


 リルファナがいるので魔物が近付いてくればすぐ分かる。

 気を付けてはおくが、わたしはお飾りみたいなものだ。


「ミーナ様、ミレル様から借りていた遺跡の地図を写したのですが……」


 眠気と戦っているとリルファナに地図を渡された。

 寝ぼけた頭で地図を眺める。


「え、うーん……。あれ?」


 なんだか見覚えのある地図だ。眠気が吹き飛んだ。


「ですわよね?」

「うん。スケさん遺跡だ、これ」


 セブクロで上級職になった後辺りから、しばらくレベリングに使われる迷宮ダンジョンの通称だ。

 スケルトンが狭いフロアに多く出現し、経験値を稼ぎやすかったことからスケさん遺跡という名前が付いた。正式名称はガタク遺跡。


 セブクロはレベリングできる場所が多かったので、1度も来たことがない人もいるだろう。

 わたしは同じ場所だと飽きるので、あちこちを回りながらレベル上げをしていた。スケさん遺跡でも経験稼ぎをしていた記憶がある。


 もちろんゲームと現実では差異もある。

 ゲームでのスケさん遺跡は地上にあったし、入口の左右にあった崩れていた部屋も探索できたはずだ。


「ええと、スケさん遺跡のボスって……」

「王ですわね」


 遺跡の名を冠したガタクの王という大きなスケルトンがいた。ガタクの王は単純にスケルトンの王や骨王と呼ばれることもある。

 スケさん遺跡というだけあって、ボスまでもスケルトンなのだ。


「スケルトンは良いけど、レイスがやっかいかな?」

「ええ、最初に遠隔攻撃で落としてしまうのが良いかと。あとはアーチャーとウィザードですが」

「そっちはアルフォスさんたちなら大丈夫じゃないかな」


 ガタクの王との戦闘は、無限沸きする大量のスケルトンとの乱戦だ。

 大規模戦闘レイドではないが、適正レベルの50前後なら2パーティぐらいで戦うと丁度良いバランスだったはず。


 最初から王の横にレイスが1体いて、このレイスは倒すまでガタクの王を強化し続ける。

 まず最初にレイスを倒してしまえば、王の強化が解けるので楽になる。


 その後は王と戦うメインパーティ、遠隔攻撃ややっかいな武器を持つスケルトンを落とす数人のサブパーティに分けるのがセオリーだった。


 しかし、いきなり未知の遺跡の内容を知っていると言い出すわけにもいかない。

 かなり似ているが、ここがスケさん遺跡という保証も無い。


 ミニエイナの隠し部屋のときのように似通った部分が多すぎるし、スケさん遺跡である可能性は高いとは思う。

 スケさん遺跡だったなら、少なくともレイスを先に倒せるように上手く誘導できると良いのだが。


 どうしようもなければ、わたしとリルファナで強引に倒しにいくことに決めた。


「スケさん遺跡なら、大きい広間があと2つあって、その次がボス部屋だったかな」

「そうですわね。今のペースなら早ければ昼過ぎには辿り着くかと」


 スケルトンの王は、スケルトンの無限沸きが面倒なだけで、難易度は蜘蛛の女王(スパイダークイーン)と同格ぐらいだ。

 あの時の蜘蛛の女王(スパイダークイーン)は弱っていたので、あれよりはちょっと強いぐらいだろうか。


 10人もいれば、そんなに苦労せずに勝てるだろう。



 昨日、殲滅した広間にスケルトンが新たに出現しているということは無かった。


「おかしいな。前に洞窟内を探索したときは、翌日にはスケルトンがまたいたはずなんだけどね」

「ん。静か」


 朝食を取りながらアルフォスさんが呟くと、ミレルさんが同意する。


 夜は火を使ったので軽く料理をしたが、朝はアルフォスさんから渡された携帯食料を食べている。


 A級冒険者だけあり、アルフォスさんたちの持ち歩いている携帯食はそのままでも美味しいものが多い。


 この包みは見覚えがある。

 冒険者ギルドでの販売額は、1食分で大銀貨2枚だか3枚だったはずだ……。


「魔物は他者の生気を嫌う、という話もあるがのう」


 セブクロは、プレイヤーの周囲には新しい敵が自然発生することはなかった。

 ゲームならそういうシステムというだけの話だが、一応その理由付けのようなものもあるようだ。


 次の広間はスケルトンだけだったので、問題無く蹴散らした。

 殲滅後は、同じように周囲の部屋を調べ、その次の広間へと進む。


「ウィザードがいる。シャドウとアーチャーも少し」


 ミレルさんが部屋に1歩入り、照明トルチャの石を投げた途端、石弾ピエトラ・パッラが部屋の奥から飛んできた。

 先頭を歩いていたミレルさんが慌てて下がる。ミレルさんが避ける前にいた場所に石のつぶてがぶつかって砕けた。


「面倒だな。使うか」

「分かった」


 ディゴさんが腰に吊るしていたスリングを手に取った。


 投石紐とも呼ばれるスリングは、遠心力を使って包んだ石を飛ばす原始的な武器だ。

 石を拾える場所であれば手軽に使えるが、射程距離が短く目標に当てるための技術がいる。効果的に使うには難易度が高く、威力もさほど高いとは言えないので滅多に使う人を見ない武器でもある。


筋力強化付与レガロ・ムスコロ

「巫術・金剛」

器用度強化付与レガロ・アビレ

「巫術・防魔の結界」


 クレアとコアゼさんが強化バフ魔法をかけていく。

 クレアは命中率の上がる器用度を上げる強化バフ魔法、コアゼさんは魔法防御力を上げる強化バフ魔法を追加していた。


 ……クレアが今まで使ったこともない魔法を、しれっと使うことに驚かなくなってきた気がする。


「せーのでいくぞ」


 ディゴさんがスリングに石では無い、灰色の球体を乗せて振り回す。


「…………せーの!」


 ディゴさんが紐の片方だけ手離すと、球体が綺麗に弧を描いて部屋の中へと飛んでいった。

 地面に着弾した途端、球体が破裂し派手に爆炎と爆音をあげた。


 音の大きさに少しびっくりした。先に言っておいて欲しい。


 煙がすごい勢いで広がっていく。その前に破裂した周囲のスケルトンが直撃を受けて吹き飛んでいた。


 煙の広がる中を、ミレルさんとジーナさんが突っ込んで行く。

 まだ数メートル先も見えない状態なので、わたしが付いて行っても転びそうだ。


「魔術師や弓兵の視界を潰すにはこれが手っ取り早い。あの玉、高いからあまりやりたくはないんだけどな……」


 そう言ってディゴさんがにやりと笑った。スリングを腰に戻し、短剣を手に走って行く。

 そのすぐ後ろをロダウェンさんが追った。


 なんで煙の中で動けるんだろう?


「そろそろ煙が晴れる。わしらも行くぞ」


 ある程度、先の方まで見えるようになってきた。

 まだ先行した4人は見えないが、ジーナさんの大剣とスケルトンの武器が打ち合っている音が聞こえる。


 ブコウさんも刀を手に駆け出した。わたしとリルファナもそれに続く。



 シャドウスケルトン、スケルトンアーチャー、スケルトンウィザードと徐々にスケルトンの種類が増えてきた。

 シャドウスケルトン以外のスケルトンは、アルフォスさんたちも手馴れた様子で戦っている。シャドウスケルトンだけが希少種のようだ。


「巫術・祓いの風」


 広間の殲滅戦が終わり、コアゼさんがうっすらと残っていた煙と舞い上がった埃を散らした。

 尚、祓いの風スキルの本来の使い方は、睡眠、麻痺、軽度の呪いといった状態異常を解くための魔法である。決して掃除のための魔法ではない。


 広間と周辺の部屋を調べる。

 左右に伸びる通路があり、右手は食堂や倉庫といくつかの部屋、左手は客室であろう個室が並んでいた。


 食堂には包丁を持ったスケルトンが数体いたが、ミレルさんとディゴさんがあっさり倒していた。


 残ったのはスケルトンの王がいると思われる正面の部屋だけだ。


 同じ構造なら手前の通路の途中から水路がある。

 更に、部屋の中央には噴水、床も土で草花が咲いていたと思われる室内庭園になっていた。しかし、ゲーム内では水も草花も枯れてしまっていたはずだ。


「今までと違う」


 先頭を歩くミレルさんが、短く押し殺したような声で警告した。


 左右には水路のような溝があるが、水は流れていない。


「お姉ちゃん、この先の魔力がおかしい気がする」

「ええ。なんだか、おかしいわね」


 クレアとコアゼさんも、スケルトンの王の気配を感じているようだ。


 この先にスケルトンの王が、「ほぼいるだろう」という認識から確信へと変わる。

 リルファナを見ると目があったのでお互いに頷いた。


 高レベル向けの迷宮ダンジョンを除けば、魔物の反応する距離に入らなければ、向こうから見えている状況でも魔物は動かない。

 遺跡や洞窟といった屋内型のエリアの場合、基本的には部屋の中に入らなければ大丈夫だ。


 このゲーム的な挙動だけは変わっていない。

 入口から部屋の中を、リルファナとそっと覗いた。


 闇の魔力の存在は感じるが、視界が通っている。

 シャドウスケルトンが見当たらないので、そのせいかもしれない。


「いるねえ……」

「いますわね……」


 噴水の向こう側に、スケルトンの王が佇んでいた。

 大きさは3メートル近く、頭には無骨な金属の王冠、両手には大剣を握っている。


 王はこちらの存在に気付いているようで、じっとこちらを見ていた。


 その隣にはレイスがいる。

 レイスは装飾された杖を持ち、一見スケルトンウィザードに似ている。


 レイスのみの特徴は重厚なローブを着ていること、周囲に緑色のもやのようなものが出ていることだ。

 緑色で毒のようにも見えるが、特に状態異常を引き起こす作用があるわけではない。


 一般的なレイスは、様々な攻撃魔法と呪いの弱体デバフ魔法を操るスケルトンウィザードの上位のような存在でかなり手ごわい。

 しかし、このスケルトンの王との戦闘でのレイスは、王を補助することしかないので、あまり怖い相手ではない。


「強そう。……どうする?」


 ミレルさんがアルフォスさんに問いかけた。


「うーん……。ミーナちゃんたちの意見はあるかな?」


 おや、アルフォスさんがこっちに振ってきた。


「横のレイスがやっかいそうです」

「王の護衛に見えますわね」


 リルファナと自然になるように誘導してみる。


「ふむ……」


 アルフォスさんが意外そうな顔をしていた。


「ミーナたちはやる気満々」


 ミレルさんが呟いた。


 戦うかどうかであって、戦略とかそういう話の前の段階だったようだ……。

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