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霧の枝 - シャドウスケルトン

 小石を取り出し、1つ1つ照明トルチャの魔法をかけていく。

 石ころは10個もあれば足りるかと思っていたのだが、闇の魔力が強いせいで予想よりも暗くなっている。


 闇の魔力が働いているとしても、光が通らないわけではない。数を増やせば良いだけだ。


「ミーナ様、拾ってきましたわ」


 リルファナとクレアが近場で集めてきた石にも照明トルチャをかけた。


「しかし、こんなんでいけるのかね?」

「まあ、やってみようではないか」

「ん。どっちにしろ、私たちじゃ思いつかなかった」


 照明トルチャのかかった石をディゴさんに渡す。

 ディゴさんは光る石を見て呟いたが、ブコウさんとミレルさんが異論を唱えた。


「いやいや、何も言わずに付いてきたんだ、今更反対するわけじゃないさ。それにこの作戦にリスクは無いからな。ダメなら逃げればいい」


 疑問がつい漏れてしまった程度だったのだろう。


 ここから先の部屋には通常のスケルトンの中に、何匹かシャドウスケルトンが混ざっているという。

 乱戦になるし、部屋の中が暗いので、ぴったり何匹いるかは分かっていないようだ。


「準備できました」

「よし、じゃあ行くよ」


 強化バフ魔法をかけなおし、アルフォスさんの掛け声にあわせて、照明トルチャをかけた石を、部屋の中へ投擲する。

 誰がどの方向へ投げるかは事前に決めてある。全員でばらばらの方向へと投げつけた。


 いくつかはスケルトンに当たって近くに落ちてしまったようだ。

 落ちた石の明りを頼りに、すぐにリルファナやディゴさんが上手く追加で投げ入れてくれた。


 明るくなった部屋の中を見渡す。

 さほど広くないが、石のタイルがはられた床と彫刻の入った壁が見えた。なんとなく神殿の入口といった風情だ。


 奥の方にいくつかの石柱と、濃灰色のスケルトンが4匹見えた。あれがシャドウスケルトンか。


 スケルトンたちも光を感じるのかもしれない。

 突然部屋が明るくなったことに驚くように、動きが止まった。


 それも束の間、わらわらとスケルトンたちが集まってきた。

 わたしに襲い掛かるスケルトンが数匹しかいないのは、聖剣サンティタ・スパーダの放つ神々しさの効果だろうか。盾役タンクとなるには不向きな効果がついてしまっている気もした。


 近付いてきたスケルトンを一刀で切り捨てる。

 スケルトンはレベル10程度、上位になってもせいぜい30といった雑魚だ。魔法剣なら簡単に倒せる。


 しかし、その一瞬の間にシャドウスケルトンは影へと消えていた。


 影隠シャドウハイドは自分の作った影の中へ隠れるスキルである。

 一番簡単に思いつく無効方法は、影を消すことだ。しかし、常に動き回る相手の影を消し続けるというのは難しい。


 影が無い場所にシャドウスケルトンはいない。

 逆に、不自然な影があるところにシャドウスケルトンが、潜伏しているということにもなる。


 セブクロでの影隠シャドウハイドは、影が丸見えだったのですし詰めの乱戦でもないと、ほとんど意味がなかった。

 まあ、初めて消えたのを見たときはびっくりしたけど。


 現実となった今でも、影隠シャドウハイドしたシャドウスケルトンの影が見えていた。

 しかし、ゲームと違って影が少し薄くなっている気がする。


 小石を使って部屋を明るくしたのは正解だった。

 照明が無かったら、この薄暗い部屋では全く見えなかったかもしれない。


「ほう」

「ふむ」


 ブコウさんとディゴさんが、スケルトンの相手をしながらもシャドウスケルトンの隠れた影を見つめている。


光槍ルーチェ・ランチェ


 クレアが攻撃魔法を放った。

 片手槍ぐらいのサイズの光を放つ光属性の下級魔法。新しく覚えたようだ。レベルが上がっているせいか、クレアが新しい魔法を習得するのが速い。


 光の槍はシャドウスケルトンの隠れた影に突き刺さった。


 シャドウスケルトンが影から慌てたかのように飛び出した。肋骨の辺りに穴が空いている。

 ロダウェンさんが、懐に飛び込み細剣レイピアによる刺突の連打でトドメをさした。


 あれ? セブクロでは、影に隠れている間は無敵状態だったのだけど、普通に通じるのか。


光矢ライトアロー


 それを見たミレルさんが、まだ影の中に隠れているシャドウスケルトンに矢を放った。

 矢は影のある地面に刺さったが、何も起こらない。


「むう」


 ミレルさんが不満気だ。


 魔法じゃないと通らないのか、クレアに目覚めつつある『慧眼けいがんの賢人』スキルの効果のどちらかだろう。


 シャドウスケルトンが1匹、影の中からブコウさんに襲い掛かる。

 影に注目すれば良いと分かっているブコウさんにとっては、見えているも同然だ。出てくるのを待っていたとばかりに刀を振りかぶった。


 濃灰色の骨が砕け散る。

 刀の振りかぶりと、骨の破片が視界を狭めた隙をついて、もう1匹が飛び出して来た。


「そいつは貰った!」


 ディゴさんが背後から、片手用の槌矛メイスで殴り飛ばした。

 スケルトン相手に短剣では戦い辛い。気付かなかったが、殴打用の武器に持ち替えていたようだ。


 さっきまで短剣を持っていた気がしたのだけど……。


 リルファナもあちこちから武器を出すから、似たようなものか。

 もしかしたら、盗賊シーフ系の特技なのかもしれない。


「お姉ちゃん! 行ったよ!」


 最後のシャドウスケルトンが、わたしの近くで影から飛び出してきた。


 シャドウスケルトンが持っているのは短剣。


 それにしては、間合いが少し遠い。


 他のシャドウスケルトンがあっさり倒されたことに慌てたのか、聖剣に近付くのを嫌がったのか。


斬撃スラッシュ


 走り寄り最後のシャドウスケルトンの胴体を真っ二つにした。

 がらがらと破片が崩れ落ちる。


「ふむ、随分とあっさりだったのう」

「戦い方が分かれば弱いのね」


 ブコウさんとロダウェンさんが話している。


「おい、まだ残ってんだから手伝え!」


 アルフォスさんとジーナさんがスケルトンに囲まれていた。危なげなく相手をしているが、囲まれると面倒な数でもある。

 シャドウスケルトンが近寄らなかった相手には、襲い掛かる数を増やしたようだ。


 スケルトンも連携する知恵ぐらいは持っているのかな?


 リルファナの方を見ると、丁度倒しきったようで最後のスケルトンが倒れたところだった。

 わたしが見ていたことに気付いたようで、「このぐらいなら余裕ですわ」といった表情で微笑んだ。



 スケルトンを殲滅した部屋を、ミレルさんとディゴさんが調べている間、わたしたちはやることもないので休憩となった。


「この先にもいるかもしれないし、小石を拾っておきましょう。予想以上に効果的だったわ」


 そう言って、コアゼとディゴさんは手前の通路に小石を拾いに行った。


「ミーナたちは強いね。C級とは思えない」

「そうだのう。動きを見ている限り、わしらと変わらないのではないか?」

「うん」


 ロダウェンさんとブコウさんがしゃべっている。


「前にもすごい新人だって言っただろ」

「すぐに会うこともないだろうから、持ち上げてるだけかと思ってた。仲間の娘さんだし」

悪魔蜘蛛デーモンスパイダーを瞬殺できると言われてものう。しかし、実際に戦うところを見ると嘘ではないのかもしれん」


 アルフォスさんのぼやきに、ロダウェンさんとブコウさんが返事した。


 いや、悪魔蜘蛛デーモンスパイダーを瞬殺はしていないので、持ち上げてるんじゃないかな?


「珍しい技も使うようじゃしな。わしにも使えるかのう?」

「うーん。物質に魔力が流せれば……」

「無理じゃな」


 ブコウさんに即答されてしまった。

 がっかりしているところを見ると、絶対に出来ないと確信しているようだ。


 火炎斬ファイアスラッシュなどの属性攻撃も見た目は似ている。

 しかし、一瞬だけ武器に属性をのせる攻撃と、常に魔力を流し続けている魔法剣とは全く違うのだ。セブクロでも、ダメージ計算の方法が全く違うものである。


「それに、武器が魔力に耐え切れずに壊れるからオススメはしませんよ」

「ふむ、魔力か……」


 ブコウさんが自分の着ている武者鎧を指差した。


「この鎧はヒヒイロカネと呼ばれる魔力に強い鉱石で作られておる。こういう材質ならどうだろう」


 ヒヒイロカネ。この鎧がそうだったんだ。


 朱色に近い鉱石で、セブクロでも上位の鉱石だ。

 羽根のように軽く、ダイヤモンドよりも硬いと言われるが、ファンタジーだとそんな素材はごろごろしている。


 セブクロでは、最上級職になれるレベル80を超えてから使われる素材なので、ヒヒイロカネの剣なら魔法剣を使っても壊れない気もする。


「作ってみないと分からないですが、耐えられる可能性はありそうです」

「そうか。もし見つけたら融通するとしよう」

「えっと、いいのですか?」

「うむ。有望な新人なら応援したくもなるわい。と言っても、なかなか見つかるものでもないがのう……」


 運が良ければ見つかるかもしれないぐらいかな。

 良い武器が作れる可能性が増えるならありがたいことだ。


「お待たせ」

「ここには大したもんはねーな」


 ミレルさんとディゴさんの調査が終わり、近付いてきた。


「特に、ここには何も無い。彫刻などもたまに見かける時代の遺跡。けど……」

「この辺りの彫刻などを見る限り、この部屋が玄関ホールじゃないかということだな。広くなきゃいいが」


 ミレルさんとディゴさんの見立てでは、わたしたちが歩いてきたところはただの洞窟で、ここからが遺跡ではないかということだそうだ。

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