霧の枝 - スケルトン
全員で要塞を出て、地下道をフォーレンの方へと歩く。
体感で10分ぐらいだろうか、右手に曲がる少し幅の広い横穴があった。
「このすぐ先に迷宮が出来ていたんだよ」
横穴に設置された照明は、30メートルほど先でなくなり、徐々に暗くなって行く。
100メートルほどは見えるので、これぐらいの距離だけ照らしておけば、何か出てきても分かるということだろう。
わたしたちのパーティは10人もいるのでランタンを3つ用意する。
ミレルさん、ディゴさん、わたしが持つことになった。戦闘時に足元に落としてしまっても、割れない頑丈なランタンだ。
「照明!」
ランタンとは別に、短剣の刀身に照明をかけて鞘にしまった。
いざというときの照明と、シャドウスケルトンと戦う準備の1つでもある。
生活魔法は全員が使えるようなので、照明の魔法は各自で行った。
また横穴に入ってからは、後で使うため小石を集めておく。
「僕とミレル、ジーナ、ブコウが前。間にミーナちゃんたち3人、後ろにディゴ、ロダウェン、コアゼ」
アルフォスさんが決めると、慣れているのだろうコアゼさんたちは、さっと隊列を取った。
シーフが前後に1人ずつ。念のため背後から強襲に備えてロダウェンさん。
真ん中にわたしたちを置いて守る形となっているようだ。
戦闘能力では、わたしたちもB級以上の実力はあることはレダさんも認めているのだが、それを知らないコアゼさんたちに配慮した結果のようにも感じる。
わたしは鞘から霊銀の剣を抜いた。
最近はこればっかり使っているが、魔法剣で壊れる様子はまだ無い。耐久値が削れている気はしているので、いずれは壊れてしまうだろう。
まあウルトラキャノンの残骸である、霊銀はまだ残っている。壊れたら鍛冶でまた作れば良い。
そんなことを考えていると、ミレルさんがこの先について軽く説明してくれた。
この先はスケルトンが出現するという新しく発見された道まで、あちこちと枝分かれしているらしい。
はぐれてしまったときのために地図の写しを借りたが、これは依頼完了後にアルフォスさんに返すことになっている。
◇
ミレルさんに続いて、どんどん洞窟を進む。
「ここがA地点。ここからスケルトンが沸いてくる」
「何故か分からんが、この広間から外へは出てこようとはしないようだな」
ミレルさんの説明に、背後からディゴさんが付け足した。
地図には場所が分かるように、ミレルさんが記号がふっている。A地点はアルフォスさんたちが新しく発見した道の入口だ。
地図を受け取ったときに予め確認したが、この先は広間のようになっているようだった。
広間に入ってすぐ右に狭い道へ入る通路と、奥へ向かう通路以外は崩れている。
「1度途中まで掃討したが、2回目の探索でも遭遇したから気をつけるんだぞい」
「迷宮でも無いのに、どこからスケルトンが補充されてるかも気になるわね」
ディゴさんがわたしたちに注意し、ジーナさんが疑問を口にした。
ここからスケルトンが出ることは分かっている。
ちらりと覗くと、言われた通りスケルトンがたくさん見えた。
立ち止まって微動だにしないスケルトンや、同じ場所をぐるぐると歩いているスケルトンなど様々だ。ここだけを抜き取れば、よく出来た3Dゲームのようにも思えるかもしれない。
スケルトンが出てこないのなら突入前に、強化魔法をかけて戦闘準備だ。
「筋力強化付与」
「巫術・金剛」
コアゼさんは、長い杓杖を振るように巫術を唱えた。『金剛』は物理防御力を上昇する効果がある。
ガルディアから要塞へは短い杖を持っていたのだけど、今日はずっと杓杖を持っているのでこちらがメイン武器のようだ。
――巫術。
この世界では魔法の中の1つの呼び名でしかなく、強化効果自体は他の魔法と巫術で重複することもない。
セブクロでは、詠唱時間や追加効果の有無といった細かな違いはあったが、こちらでも同じかは分からない。
巫術を使えるということは、コアゼさんはサポート型の魔術師の1つ、巫術師なのだろう。
ゲームでは、アンデッドには聖属性が効くというのが一般的だ。
しかし、セブクロでは聖属性は無く、光属性の中にアンデッド特攻の能力を持つものがあるという位置付けだった。
魔法剣をかけようと思ったが、現実となっている今では聖属性としっかり分かれているような気もする。
魔法剣で光属性は光剣だ。
聖属性があるとしたら、……なんだろう?
そういえば、術者より弱いアンデッドを消し去る『聖なる光』という魔法があった。
魔法剣にするなら『聖剣』だろうか。
……なんかしっくり来た気がした。使えるだろう。
「聖剣」
霊銀の剣が白く輝いた。単純な光ではなく、なんだか神々しく感じる輝きだ。
「おお、珍しい技だな」
ディゴさんが輝く刀身をじっと見ている。
ドワーフは鍛冶や細工が得意で職人気質の者も多い。やはり武器にかける技となると気になるのだろうか?
ジーナさんが大剣を構え、ミレルさんは背中から弓を外して手に持った。
ブコウさんは、鬼のような顔が彫られた赤い面を取り出し身に着けた。
ロダウェンさんも腰に吊るした細剣を外す。
細剣は左右に2本ずつ吊るしているが、長さが1本ずつ違うようだ。右腰に下げた左手で扱うものは、逆の左に下げた物よりやや短く見える。
二刀流使いのようだけど準備段階の今、外したのは1本だけだ。
「ここは数が多いけど弱いスケルトンしかいなかった。一気に殲滅するよ」
アルフォスさんの掛け声で、広間に入り散開する。
ジーナさんとブコウさん、ロダウェンさんが一番前に出た。その後ろにわたしとリルファナが続く。ここまでが前衛で、後衛を守るように半円に陣取る。
わたしとリルファナは負担の少ない壁際。
槍持ちのアルフォスさんと、弓で援護するミレルさんは中衛だ。
一番後ろにクレアとコアゼさん、ディゴさん。魔術師である2人は、魔法での援護を行う陣形となった。
ディゴさんは後衛2人の護衛という形で後ろにいるが、実際はクレアの護衛として配置されたのだろう。
「ディゴ、何かあったら声かけ頼む!」
「あいよ!」
どうやら、指示役の役割も兼ねるようだ。
わたしたちが部屋に入ったことにより、スケルトンたちが一気に反応した。
かたかたと身体の骨を鳴らしながら詰め寄ってくる。
「なに、こやつらは大した強さではない。肩慣らしみたいなものじゃ。そうさな、味方の位置には気を付けられよ」
今まで少数の戦闘しか経験がないため、少し緊張していたわたしとリルファナに、ブコウさんが声をかけてくれた。
「火矢」
「火球」
ミレルさんが、突っ込んでくるスケルトンへ矢を放った。続いてクレアも攻撃魔法を唱える。
2人とも火属性を使っているが、この辺りは燃えても問題が無いということなのだろう。
一番近くにいたスケルトンたちが、矢に打ち抜かれ、火球を受けて数匹が転倒した。
しかし、後ろにいたスケルトンはそれを一切気にかける様子もなく、転倒したスケルトンを踏み砕きながら進軍してくる。
「火炎斬!」
ジーナさんが大剣を振るう。火属性の剣術。
火炎を纏わせた剣が宙を舞うと、スケルトンが何匹が吹き飛んだ。
ロダウェンさんは、細剣を使い黙々と1体ずつ倒している。
「一の太刀」
中央にいたブコウさんが、一歩踏み出したと同時に刀を抜く。
横へ払うように刀を振ると、近くのスケルトンたちがどさどさと倒れて行く。
振るった刀を頭上に回し、両手で柄を握る。
「二の太刀」
振り下ろした。
倒れるスケルトンの後ろから、忍び寄ってきていた短剣を握る1匹。
頭から真っ二つに切り裂かれる。
セブクロであった、サムライのコンボスキルというやつか。
一の太刀、二の太刀、三の太刀と順に使うことで威力を増して行くサムライの固有スキルだ。
セブクロでは、使用時の状況に応じた動作がいくつかあったので、型が決まっている技ではないと思う。
ブコウさんは、振り下ろした切っ先を、上げると突きへとつなぐ。
刺突の攻撃で崩れるスケルトンには構わず、再度刀を振り上げた。
「三の太刀」
二の太刀とほぼ同じような振り下ろしによる斬撃。
違うのは、一瞬ブコウさんの身体がぶれたように見えたことだ。
ブコウさんの周囲のスケルトンのほとんどは崩れ落ちている。
「すごいですわ!」
「今日はゲストがいるからって張り切ってるなあ。いつも爺を労われって任せてるのに」
アルフォスさんが苦笑気味だ。
「嬢ちゃんたちもさっさと行かんと獲物がいなくなるぞ」
ディゴさんも苦笑しながら、後ろから声をかけてきた。
慌てて戦闘に参加する。
……広間を埋めるように数十体いたスケルトンは、数分で全て砕かれて転がっていた。
◇
スケルトンを倒しながら、未調査の道を含めて回っていく。
シャドウスケルトンは厳しかったようだが、アルフォスさんたちは全員がA級冒険者である。戦闘も手馴れたものでさくさくと進んでいった。
しばらく天然の洞窟が続いていたが、徐々に床や壁を削り人工的に整えた建造物のような部屋が増えていく。
石造りの彫刻やテーブルのような台などもあった。
「古代文明なのかな?」
「うーん、どうだろう」
色々と古代文明を勉強していたクレアにも分からないみたい。
少なくともクレアがメインで調べていた、ヴィルティリア文明ではない可能性は高いかな。
それにこのような洞窟内に建築する理由も分からない。
わたしたちが通ってきた地下道は、300年ぐらい前に新規に掘られたものだ。
霧の枝のほぼ中央、地下道も無い時代にわざわざこのような建物を造るのも大変だっただろう。
「なんだか進めば進むほど気持ち悪いわね」
「なんじゃ、怖くなったか」
「そういうんじゃないけれど、なんて言うのかしらね……」
ディゴさんが呟いたコアゼさんをからかった。
歯切れの悪い答えにディゴさんは肩をすくめる。
「これでシャドウスケルトンとかいうスケルトンがいた道以外は埋まった」
ミレルさんが地図に描き足しながら呟いた。
「結局、あの道以外は普通のスケルトンしかいなかったね」
「そうだのう」
一応、奥に来るほど上位種らしきスケルトンが混じっていたけれどね。
ジーナさんやロダウェンさんが簡単に倒していた。
見かけた上位種は、持っている武器や形状の細かい違いでしか判別できない。ゲーム知識を持つわたしとリルファナしか気付かないだろう。
更に歩き、とある部屋の前でミレルさんが立ち止まった。
「E地点。この先にいる」
先の部屋は暗くて見え難いが、シャドウスケルトンがいるらしい。
「お姉ちゃん、ここは闇の魔力が強いみたい」
今までよりも暗く、ランタンの灯りで先を見通せないのは闇の魔力のせいか。
シャドウスケルトンの影隠とも相性が良い。
ここに来るまでに、ちょこちょこ拾っていた小石を出した。
シャドウスケルトン狩りの準備をしよう。