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救援依頼

 今日は5月17日。

 一月ひとつきが28日までしかないこの世界(ヴィルトアーリ)では、10日以内にフェルド村に戻る必要がある。


 そんな理由もあり、5月中は遠出する依頼を受ける予定は無い。


 ゆっくりでいいやと朝ごはんを食べているとレダさんがやってきた。


「おはようございます」

「おはよう。あ、今日はすぐギルドに戻るからいいよ」


 レダさんのご飯も用意しようと席を立つと、レダさんが神妙な顔つきで止めた。


「ミーナちゃんたち、朝食が終わったらすぐにギルドに来てもらえるかい?」

「どちらにしろ行く予定でしたけど、何かあったんですか?」

「指名依頼が入っているのだけど、緊急でね。詳しい話は食事の後の方が良いさね」


 レダさんは「じゃ、頼むよ」と残して、すぐにギルドに戻ってしまった。


「どうしたんだろうね、お姉ちゃん」

「緊急とのことでしたけれど、なぜわたくしたちに指名依頼が来たのでしょう」

「誰からの依頼かぐらい聞いておけば良かったね、リルファナちゃん」


 C級であるわたしたちに、わざわざ指名依頼を出そうとする人は少ないと思う。

 思いつくのは、ラミィさんか父さんがフェルド村として依頼を出すぐらいか。でも緊急ということは無いだろう。


 わざわざレダさんが呼び出しに来たぐらいだ。

 そそくさと朝食を済ませて、すぐに町を出られるように準備をしてから冒険者ギルドに向かうことにした。



 ギルドマスターの部屋に向かうと、レダさんと女性が1人いた。


 犬耳の巫女服姿が特徴的な女性。王都で出会ったアルフォスさんのチームメンバーだ。

 別件で置いて行かれたと言っていた。あれから一月経ったけど、アルフォスさんたちはまだ帰っていないのだろうか。


「お久しぶりね」

「こちらが今回の依頼主だけど、会ったことがあるさね?」

「王都でアルフォスさんの家を訪ねたときに会いました。……名前を聞き忘れてしまいましたけれど」

「そういえば、そうだったわね」


 巫女の女性はコアゼと名乗った。

 和風の響きは珍しいなと思っていると。


「珍しい響きだと思うだろうけど、聖王国特有の名前なのよ。もちろん全員じゃないけどね」


 聖王国には和風の名前の人もいるらしい。

 セブクロでも、和名のキャラクターはいたので違和感はない。


 しかし、この辺りでしか生活していないクレアには、珍しい名前だと感じるようだ。

 「コアゼさん、コアゼさん」と小さく呟いて覚えようとしていた。


 わたしたちも名乗り、自己紹介を済ませる。


「説明はあたしがするさね」

「ええと、依頼主と言っても私もガルディアのレダさんにこの手紙を持って行けと、アルフォスに指示されただけだから詳しくは知らないのよ。なんでミーナさんたちが呼ばれたのかしら?」


 コアゼさんでなく、レダさんが説明する理由を教えてくれた。


「まあ、詳しい話は後にして簡単に言ってしまえば、ミーナちゃんたちに討伐を手伝って欲しい魔物が現れたって感じかねえ……」


 レダさんが手紙を見ながら、眉をひそめている。


「まったく、……A級だというのにC級の冒険者に泣きつくなんてね」

「ちょっと! なんで緊急で新人冒険者に手紙を送るのかとは思っていたけど、そんな危険なことさせられないわよ」


 コアゼさんはわたしたちの強さを知らないし、戸惑っているようだ。


「ああ、そこまで詳しくアルフォスから聞いていないさね」


 レダさんが蜘蛛の女王(スパイダークイーン)の話を掻い摘んで説明した。


「えっと……。まだ冒険者として活動もしていなかったミーナさんたちが倒したと?」

「あたしと一緒に討伐したから強さは保証する。むしろ、あたしはおまけでいたようなものさね」

「はあ……」


 コアゼさんの反応は半信半疑だけど、ギルドマスターのレダさんが無駄な嘘を付くとも思えないといった感じだろうか。


「それで、討伐して欲しい魔物っていうのは何でしょうか」

「スケルトンの亜種だと思われるとしか書かれていないさね。アルフォスたちが苦戦する相手で心当たりはあるかい?」


 スケルトン、人間や動物の形状を保つ骨だけの身体の不死アンデッド系の魔物だ。

 ほとんどのファンタジーゲームで出てくるメジャーな魔物だろう。人型であれば剣や弓といった武器を持っていることも多い。


 A級冒険者が無事に逃げ帰れたということは、高くてもレベル100以下ぐらいかな?

 わたしたちに依頼を出すぐらいだから蜘蛛の女王(スパイダークイーン)と同程度のレベル70以上はあるだろう。


 レベル70以上100以下、亜種も入れるとすると……。


 だめだ。該当するスケルトンが多くて、何とも言えない。

 他のゲームのスケルトンの知識も混ざってしまっていて、全て思い出すのも難しい。


 わたしやリルファナが忘れていたり、セブクロにいない魔物の可能性だってあるだろう。


「うーん……、直接話を聞かないと分からないですね」

「もちろんミーナちゃんたちでもどうにも出来ない相手の可能性もある。話を聞きに行くだけでも、往復にかかった費用と手間賃は払うと書いてあったさね」


 アルフォスさんだし、報酬の方はちゃんと払ってくれるだろう。

 問題は場所の方で、父さんとの約束もあるし、国外だと相談が必要だ。 


「えっと、場所は何処なんでしょうか?」

霧の枝(ネビアラーモ)は知ってるかしら?」

「はい、霧の山脈(ネビアモンターニャ)からアルジーネの町の北へ伸びる山ですよね」

「ええ、王都からフォーレンに抜ける道があるのだけど、その間にある要塞の1つよ」


 王都の手前にある旅人の交差路。

 ここから西に進むと、霧の枝(ネビアラーモ)に掘られたトンネルを抜けてフォーレンに出ることが出来るようになっている。

 

 トンネルは300年ぐらい前に掘られたものらしい。

 現在では、ソルジュプランテ王国の主要な道の1つでもあり、冒険者や商人たちの往来も激しい。


 ここからはコアゼさんに聞いた話になる。

 トンネルの途中には、防衛や休憩場所を兼ねた要塞があるそうだ。アルフォスさんがいるのは、その中の1つということだ。


「それと、私が知っている情報を伝えておくわ」


 そもそもアルフォスさんたちが受けた依頼について教えてくれた。


 トンネルの途中にある要塞の近くに迷宮ダンジョンが出来てしまったことが最初の原因らしい。

 主要の道からは、外れた場所だったが要塞に近すぎた。


 なので、冒険者にその迷宮ダンジョンの探索と、可能なら迷宮ダンジョンの消滅を求めるという依頼だったそうだ。


迷宮ダンジョンの方はどうにか達成したらしいのだけど、消えた迷宮の近くに知られていない道があったらしいの。追加でその先の調査も頼まれたんだけど、……手に負えない魔物が出たって感じかしらね」


 色々と情報はあったが、まとめてしまえば霧の枝(ネビアラーモ)のトンネルに出た魔物の討伐依頼ということだから、依頼としてはシンプルだ。

 アルフォスさんたちと一緒に行けば逃げ帰ることも可能だろうし、安全とは言えないが危険過ぎるということもないだろう。


「それと、討伐できた場合の報酬だけど、最低で大金貨5枚だけど上限が白金貨1枚となっていたわ」

「最低でもA級冒険者の稼ぎぐらいさね。まあ泣きつくなら妥当かね」


 微妙にレダさんが、アルフォスさんたちに厳しい。

 冒険者なら受けた自分たちでどうにかしろということなのかもしれない。


 わたしとしては、出来ないことは出来ないと人に頼るのも立派な選択だと思うけどね。


 クレアもリルファナもここで引く気はなさそうな顔だ。

 それにアルフォスさんたちにはお世話になっている。出来る範囲で手伝いたい。


「分かりました。とりあえず話を聞きに行くのは良いですが、父さんとの約束で、毎月家に帰る必要があるので父さんに伝えておかないと」


 往復だけでも10日はかかりそうである。今からガルディアを出ていては、5月の帰宅は間に合わない。

 遅れると連絡しておいたとしても、あまり遅くなり過ぎるのも問題だ。長丁場になりそうなら、途中だとしても一旦帰宅することを考えておこう。


「ああ、その辺はあたしが伝えておくさね」

「あ、それとすぐ帰る依頼を受けるつもりだったので、食材の方もお願いします」

「りょーかい。りょーかい」


 レダさんが苦笑しながら答えた。


「コアゼさんもそれで良いですか?」

「ええ、構わないわよ。アルフォスもそこまで長くかかるとは考えていないと思うけどね」


 コアゼさんの了承もあったので、正式に依頼を受けることに決めた。


「それと少しでも危険だったら、必ず逃げることを優先するのよ」


 コアゼさんは心配性なのだろうか。

 いや、強さについてはまだ完全には信用されていないのだろう。


 わたしたちもコアゼさんも、町を出る準備は出来ている。

 広場で売っているお弁当を買ったら、そのまますぐに出発することとなった。


「あたしも付いていければ良かったんだけど、さすがに無理さね」


 レダさんは、わざわざ北門まで見送りに来てくれた。


「それじゃ行ってきますね」

「行ってきます!」

「行ってきますわ」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 霧の枝(ネビアラーモ)のトンネルにある要塞か。どんなところなんだろう。

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