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休息の日 - 5月

 あと2日ある休みは、鍛冶と剣の稽古をすることにした。

 とりあえずは、ギルドに卸す武器を最初に作ってしまうかな。


 王都で買った剣の柄がまだあるので、短剣と長剣は作れるが、買取は「少数なら」と言われているので5本ずつぐらいにしておこう。


「私は図書館に行ってくるよ。お昼前までスティーブくんに魔法について教える約束をしたんだ」


 わたしたちの同期とも言えるスティーブは、少数のパーティに入れて貰うことが増えたので、よく使う魔法の特徴などを勉強しておきたいそうだ。


「クレア様、ローブは今日中に仕上がると思いますわ!」

「うん、お願いね。リルファナちゃん」


 わたしは地下で短剣製作。

 ポーションも少なくなってきたので自前の魔力が切れたところで、旋回ヴォルテの練習をしようと庭で剣を振っていた。


 クレアやリルファナと違って、鍛冶だけだとやることが少ない。

 カルファブロ様の炉だと作製時間が非常に短く、消費魔力が多すぎて量産もできないから益々時間が余ってしまうのだと思うけどね。


 魔法付与エンチャントもずっと続けるものでもないし。色々と実験するには素材も高い。


 夕方にはクレアのローブが出来たようで、細かい調整をしていたが見た目は特に変わらないようだ。


「防御力は上がったと思いますわ。あとこちらのポケットに、ネーヴァ様のお守りも入れられるようにしましたの」

「ほんとだ! ありがとう、リルファナちゃん!」


 簡単に落とさないようにと、お守り用の内ポケットも作ってあった。

 内ポケットは、いくつかあっても便利そうだ。



 アルジーネから帰って3日目。


 朝食を済ませて、今日はどうしようかと相談する。

 相談と言っても、何をする予定か大雑把に伝えておくぐらいだけど。


 ついでに昼夜の料理当番、正確にはわたしの手伝いも決めている。

 手伝うだけでも調理スキルが上がるなら、その方が良いだろうという判断だ。何も言わなくても2人とも手伝ってくれることが多いけどね。


「今日はミーナ様の鎧に手を入れますわ」

「よろしくね」


 軽鎧を渡すと、リルファナは「今日中に仕上げたいので、すぐに取り掛かりますわ」と部屋に戻った。


「お姉ちゃん、リルファナちゃんって休めてないんじゃない?」

「確かに……」


 クレアの言う通り、リルファナは毎日1つずつ防具の強化をしているので、リルファナだけ休めていない。


 リルファナはポーションの製薬、裁縫スキルでの防具強化、木工スキルでの部品作製など手広く行える。

 今回に限らず最近は、わたしの方から製薬などを頼むことも多く、何かしら生産している日も多い。


「明日は3人で買物にでも出かけようか。リルファナが家にいると何かしら作り始めそうだし」

「うん!」


 リルファナの休憩日として、休みの1日延長を決めた。


 わたしは短剣を5本を仕上げて、家の中をふらふらしていた。

 長剣はフェルド村で作る予定だ。


「なるほど、こうなるのか」


 食堂にクレアがいた。

 手元のメモに何やら書き込みながら、王都で買った中級魔術の本を読んでいる。


 本を開いたまま悩んでいたので、分かりにくいならノートを取りながら、読んでみたら良いんじゃないかとアドバイスした。

 クレアにはその方法が合っていたようで、読み進めやすくなったようだ。


「出来ましたわ!」


 夕方、リルファナが鎧を持って来た。やはり見た目は変わっていない。


「着てみて違和感などがあったら、調整しますので教えてくださいまし」

「んー、大丈夫そう」

「こちらに短剣を固定できるようにしておきましたの」


 腰の後ろ側の革の部分、水平に短剣の鞘を固定できるようになっていた。

 戦闘などの激しい動きの邪魔にもならなそうだ。 


「ありがとう、リルファナ」

「いえいえ、ミーナ様のためですもの」

「それと明日まで休みにするから、たまには町でも回ろうか」

「分かりましたわ!」


 レダさんが帰って来たので夕飯となった。


 今日は珍しくレダさんが家に泊まって行くそうだ。

 しばらく忙しそうだったが、ギルドの仕事も落ち着いたのかもしれない。



 ――翌日。


「ガルディアの町でまだ行ってないところってあったっけ?」


 朝食を食べながら、今日はどこへ行こうか相談する。


 しばらく暮らしている町とは言え、近所以外は依頼でもなければ足を延ばす必要もないので、意外と行ったことの無い場所も多い。

 ガルディアは元々要塞だから、観光地のようになっている場所が少ないということもある。


「北西区の商店街は行ったさね? あと夕方までなら、町の外壁で登っても構わない場所もあるさね」


 話を聞いていたレダさんが質問してきた。

 ガルディアの商業区と言えば、中央の大通りと南西区が真っ先に思いつく。


 一方、北西区は住宅地だ。行く用事も無いので、環状の道路すら歩いたことがない気がする。


「商店街?」

「住宅街の中に小さいながらもあるさね。大通りとそんなに変わらないし見所というわけでもないけどね」


 特に行き先も無かったところだ。見に行ってみるのも良いだろう。


「商店街は北西区の真ん中の通り。外壁に上がれるのは北門がオススメさね」


 レダさんに詳しい場所を聞いておく。


 朝食後、レダさんはギルドへと出かけていった。

 ギルドマスターになると、丸1日休みということはほとんど無いそうだ。ギルドで暇ということは結構あるようだけどね。


 店が開く午前3の鐘が鳴って、更に少し時間を置いてから、北西区にあるという商店街へ向かった。


「ここの道を曲がるんでしたわね」

「うん」


 北通りの中心辺りから北西区へと伸びる道。馬車が1台、ゆっくりなら通れるぐらいの道幅だ。

 遠くまでよく見れば、しばらく進むと商店街のような並びになっていることが分かった。


 商店街になっている区画に入ると、大通りよりも小さな2階建ての店がたくさん並んでいる。2階は住居スペースなのだろう。

 似たような造りの建物だが、時折、他に比べて大きなスペースを確保した店や飲み屋のような店もあった。


「ここは本屋さんかな?」


 本がたくさん並べてある店があった。

 手前にある台には1冊ずつ表紙が見えるように置かれ、奥の棚にはぎっしりと本が詰められている。


 しかし、全て中古の本のようで擦り切れたり、汚れが滲んでいるものもある。


「おや、お嬢ちゃんたち。初めて見る顔だね」


 お爺さんの店員さんが店の奥から出てきた。


「この辺りに商店街があると聞いて、見て回ってます」

「そうかいそうかい。ここは本を貸す店なんだよ」


 システムとしては、本代とレンタル料の小銅貨2枚をあわせた金額を支払って1冊本を借りる。

 本を返しに来たときに、チェックして問題が無ければ本代は返すという仕組みだそうだ。


 本を1冊も買えないという家は町にはほぼ無いが、たくさん買えない人もいる。そんな人向けの店らしい。


 基本的に、この店はガルディアに住んでいる人しか使うことは出来ない。

 ガルディアで家を借りていることを話すと、それならばわたしたちもこの店を使えると言われた。


 図書館はセキュリティが厳しく本の貸し出しは行っていないので、その代わりなのだと思う。

 古い本が多いこともあり、大通りの本屋ではもう取り扱っていない本なども置いてあった。


 ざっと眺めて、すぐに借りたい本も無いことを確認したあと、店を出る。


 いくつかのお店に寄ってみたが雑貨屋は、大通りの店と似たような商品が多かった。

 調理道具を扱う金物屋もあったが、ミニエイナで揃えてしまったので、今のところ買う必要も無い。


「なんだか良い匂いがしますわ」

「パンを焼いてるみたいだね、リルファナちゃん」


 匂いに釣られて歩いて行くと、クレアの予想通りパン屋に辿り着いた。

 通りに面したカウンターのある店で、欲しいパンを言えば詰めてくれるようだ。


 カウンターの横に置いてあるメニューの文字が消えかけている。

 この辺りは地元の人の利用が多いから、メニューを覚えてしまっている人ばかりでいらないのだろう。


「いらっしゃい。焼きたてだよ!」

「美味しそうだね、リルファナちゃん」

「チキンサンドもありますわ!」


 カウンターに立っていたのは、中年の恰幅の良い女性だ。

 早めのお昼にしても良いんだけど、持ち帰りだけのようなので食べる場所をどうしようかな?


「もう少し通りを進むと公園がある。そこでゆっくり食べられるよ!」


 にやりとした店員さんに言われる。考えを読まれてしまった。


 バゲットとサンドイッチを3人分買うことにした。

 サンドイッチはチキンサンド、たまごサンド、野菜サンドと3種類だったので1つずつ購入した。日替わりで中身は変わるそうだ。


 小さな瓶に入ったプルア(りんご)のジャムをおまけしてくれた。


 飲み物も欲しいが、持ち帰り専門のこのお店では扱っていない。

 マジックバッグに水袋を入れてはあるから、それでも良いか。


「飲み物も必要なら2軒隣で扱ってるからね!」


 ぐぬぬ。商売上手め。


 パン屋さんの目論見通り、飲み物も買って公園でお昼にする。


 サンドイッチは全種類を1つずつ分けた。

 たまごサンドは、カーキュ(きゅうり)がさくさくしてて良いアクセントになっている。


「あら、素朴な味付けですが美味しいですわ!」


 チキンサンドを食べたリルファナが驚いた顔をしている。

 わたしも食べてみると、調理スキルの効果でチキンの味付けに時間をかけていることが分かった。


「村の味がするよ、お姉ちゃん」

「ん?」


 野菜サンドを一口食べて分かった。

 なんとなく慣れた味がするので、多分だけど、フェルド村の野菜が入っている気がする。


 バゲットはまだ焼きたてで、ちぎると湯気が上がった。

 見た目ほど硬くなく、ふわっとしたパンでジャムとよく合う。



 商店街を一通り見て回ったので、北門に行ってみることにした。

 兵士さんに聞いてみると、階段から勝手に上がって良いとのことだ。


「せ、狭い……」


 城壁に上がる階段はすれ違う幅も無い。上から誰か下りて来たらどうすれば良いんだろう。

 本当かどうかは知らないが、戦時中は下りてきたほうが飛び越えたとも聞くけど。


 階段を上りきると北門の上に出た。

 兵士さんが数人立っていて、一瞬こちらを見たがすぐに町の外側へと視線が戻った。


 壁で囲われた北通りでは感じなかったが、今日は風が強い。

 こんなところで長時間、見張りの仕事というのも大変だと思う。


「すごい遠くまで見えるね、お姉ちゃん」


 両手を目の上に、北の方をじっと眺めた。

 王都や旅人の交差路の石像は遠すぎて見えないが、街道がぐねぐねと曲がりくねってずっと続いている。


 護衛のついた馬車が1台、こちらに向かって来ているのが見えた。あの位置なら日が暮れる前には到着する距離だ。


「ミーナ様、クレア様、町の方もすごいですわ」


 石壁は屋根よりも高いので、屋根を見下ろすように町並みを眺めることが出来た。

 普段見ている景色でも、高所から見ることで新鮮に見えるものだ。


 北通りを歩く人がたくさんいる。ビルの上から、道を眺めているような懐かしさを覚えた。


「……なんだか懐かしい景色ですわ」

「そうだね」


 リルファナも同じことを考えたようだ。


「くしゅん」


 しばらく3人で黙って町並みを眺めていたが、クレアが小さくくしゃみをした。


「寒くなってきたし、下りようか」

「うん」


 明日からまた依頼を受ける予定だ。

 夕飯の買物をしたり、南西区のボードゲーム屋などに寄ってから家に帰ることにした。


「ミーナ様、クレア様、今日はありがとうございます」

「ん?」

「どうしたの、リルファナちゃん?」

「わたくしが防具を強化していたから、1日多く休みにしたんですわよね?」


 驚いてクレアと顔を見合わせた。クレアは首を振っている。

 わたしもクレアもリルファナに伝えたわけではないが、リルファナには休みにした理由がばれていたようだ。

ブクマ、評価、誤字報告などありがとうございます。


本日で初投稿から丁度半年となります。

今後ともよろしくお願いします。

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