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遺跡調査団

 作りかけの木剣を父さんに預けてから数日。


 村に作っていた新しい建物は個人宅でなく、酒場か宿屋かなんかにするらしい。

 外壁は完成していて、大工さんたちは中で仕事をしている。たまに聞こえる声から、秋の中頃には完成する予定だと分かった。


 相変わらず自由な生活を送っているわたしはほぼ毎日、建設状況を見守っていた。ちらっと見て帰るだけだけど。


 クレアの勉強の日に教会にも付いていった。


 『時見の水晶』という魔導機を覗くと現在の日付が分かるようになっていた。覗いた日は8月20日だった。正確には八之月之二十之日はちのつきのにじゅうのひと言うらしい。


 そろそろ秋になるのでクレアの誕生日も見えてくる。クレアの誕生日は秋の中頃なので、日付にすると10月28日の神々の日に祝うのが一般的だったはずだ。


 この魔導機はほとんどの教会に設置されているが、一般人どころか貴族も大半が興味を持つことがなく個人で所有する人はほぼいないらしい。

 お互い確認出来る人同士じゃないと時間を合わせられないし、何日後や次の季節までにという約束で十分なので必要性も感じず広まらないのかもしれない。


 魔法の講義も聴いてみたけど、いつの間にか夢の中に入ってしまった。


 魔法の素質があると言われた子や興味のある人たちが毎回数人ずつ参加しているようだけど、クレアがとても優秀なことは分かったよ。さすがわたしの妹。


 聖典や勉強用の本も無いかと思ったけれど、この村の教会には置いていないそうだ。


 町まで行かないと本屋が無いし、行商人さんも売れるか分からないようなものを持ってくることもないので買わないみたい。

 近くの町までは1日なのでどうしても必要なら買いにいけるけど、教会としてはどうしても欲しいわけでもない。


 そんなかゆいところに手が届かない感じらしい。


 魔導機って自分で設計出来ないのかなと聞くだけ聞いてみたけど、魔導工学という専門知識が必要で、魔法陣の研究に近いそうだ。王都までいけば学校があるらしい。


 ……魔法の勉強か、わたしには無理そうだね。


 他には、ふと思い出した『セブクロ』の知識を書き出したりしていた。知識はかなり偏ってるものの、それなりに使えるんじゃないかなと満足の出来になった。


 他にも思い出し次第書き足していくつもりだ。



「ほら、出来たぞ」


 父さんに頼まれた畑の水遣りから戻ったところで、新しい木剣を受け取った。


 持ち手の部分には滑り止めに布が巻いてある。試しに何度か素振りしてみる。壊してしまった木剣よりもやや厚めで重いが、バランスが良く振り回しやすかった。


「ありがとう、父さん!」

「前のも軽々使ってたから前より重めにしてみたが、大丈夫そうだな。……それからこれもやろう」


 木剣を確認したあと、父さんは鞘に入ったままの鉄の剣をわたしへと差し出した。

 鞘を見ると随分使い古されていることが一目瞭然だった。


「え、金属製はダメでしょ?」

「ああ、村の中を歩くときは身に着けないようにな。外に持ち出すときも、村の中では鞘に入れて持ち歩いてるだけなら届けるなりなんなり適当に言い訳できるだろう」

「わたしも成人までもうすぐだし、言い訳してまで今すぐ持ち歩かなくても良いんじゃない?」

「そろそろ例の遺跡の探索に出ることになりそうなんだが、ミーナとクレアは1度探索しているだろう? 頼んだ冒険者が案内に寄こせと言うから念のためだ。……まったく、未成年だと言っているのにあいつらめ」


 そういうことならと鉄の剣も頂戴することにした。


 どうも調査を頼んだ冒険者さんを知っている口ぶりだけど、父さんの昔の知り合いなのかな?


 鞘から出して眺めてみると、古い剣のようで柄の先の彫刻が潰れてしまっていたり、つばの部分もぶつけたり擦ったような跡が多い。

 ただし、刀身には錆びや汚れは無く輝いていてしっかりと手入れされていることが素人目にもよく分かった。


「その剣は父さんが初めて冒険者に登録したときに使ってたものだ。なんとなく手放せなくてもっと良い武器を新調してからもずっと持っていたんだが、ミーナが使うのに丁度良いかと思ってな。倉庫に転がってるだけで使わないから壊れても大丈夫だ」


 父さんは指先で頬を掻きながら少し懐かしそうに話した。父さんの思い出の品なんだと理解した。

 本当に倉庫に転がしてあるだけなら、こんなにちゃんと手入れされているわけないだろう。


 使う必要があった時ならともかく、魔法剣をうっかり使って壊さないようにしたいね。部屋に立てかけておくのも怖いし、とりあえずタンスにでもしまっておこう。


 ……RPGロールプレイングゲームでタンスから武器が見つかることがあるのはそういう理由からでは!?


 新しい真理を発見してしまった。こんなところに武器なんかしまうわけないだろって突っ込んでいた昔の自分に教えてあげたい。


 その日は新しい木剣に慣れるために、夕方まで無心で素振りしていた。


「新しい木剣できたんだね」

「うんうん、良い感じ」


 ここのところ毎日教会で勉強しているクレアが帰ってきたようだ。


 わたしの妹はわたしと違って勤勉だね。剣の稽古を終わりにして、一緒に家に入った。


 お風呂で汗を流して夕飯だ。最近は有り余っている時間を有効活用するために毎日風呂に水を汲んでいた。


 散歩の時間は減ったけれど、川と何往復もするのだから少しぐらい足腰が鍛えられるのではないだろうかと思ってる。汗を流すためにお風呂に入りたいのに、お風呂に入るために汗を流すのは矛盾しているような気もするが。



 数日後、父さんが言っていた通り、遺跡の調査団が村にやってくることになった。


 団といっても父さんの知り合いの冒険者3名に父さんとわたしが入る形にするらしい。


 クレアは魔法の勉強に集中するようだった。

 廃墟を探索した日からしばらく落ち込んでいて最近は元気になったように見えていたけど、やっぱり彫像リビングスタチューに襲われたのがトラウマになっちゃったのかもしれない。


 冒険者さんたちが到着した日、わたしも調査に参加するということで顔合わせがてらうちで夕飯を食べることにするとのことだ。


 到着が夕方になってしまうらしく、実際の調査は翌日の予定に決まっている。


 3名ともなると家のテーブルでは狭くて食事が出来ないので、父さんがどこからか借りてきたテーブルと椅子を家の前に並べていた。遅くなっても良いように魔導機の灯りも用意している。


 母さんとクレアと料理の準備をしながら待っていると外で話し声がしてきた。


「おう、久しぶりだなアルフォス!」

「よう、マルク! 10年ぶりぐらいか? クレアちゃんも大きくなったな!」

「ええ、びっくりしたわ」

「ん、美人になった」


 クレアは料理を並べていたらしい。冒険者さんたちが到着したようだけど、クレアを知っているようだ。


 男性の声と同意するような2人の女性の声が聞こえた。わたしも見てみたいと思い外に出る。


「「「……」」」


 わたしを見て3人とも衝撃を受けたように止まった。


 ……わたし何かしたっけ?


 とりあえず観察してみると、男性の冒険者が父さんが声をかけてたアルフォスさんだろう。一見は優男風で槍を背負ってる。


 あとの2人は赤毛で背が高く鍛えられた身体の女性と黒髪の小柄な女性だった。2人は武器は持っていない。


 こっちの世界は髪や瞳の色は必ずしも遺伝するわけじゃないので多種多様だけど、黒髪黒瞳の人は村にいないのではじめてだ。

 顔立ちはそうでもないけれど日本人っぽさのある色に親近感を覚える。


 ……こっちのわたしの髪はアイスシルバーだけどね。


「ま、ま、ま、マルク。こちらのお嬢さんは?」

「ミーナだぞ、何言ってんだ?」


 アルフォスさんの質問に父さんは何言ってんだこいつという目で見ている。


「……そうか、知人に似ていてびっくりしてしまったよ」

「髪の色のせいかもしれないけど確かに似ているわね」

「ん、女神」


 どうも冒険者さんたちはわたしを誰かと間違えたらしい。

 黒髪と同じで銀髪って珍しいのかもしれないね。村でも見ないし。


 ……いや、女神ってのは何なの。


「僕はアルフォス、そっちの赤毛がジーナ、黒髪がミレルだ。よろしくな」

「よろしくね」

「よろしく」


 ジーナさんは姉御肌な感じで、ミレルさんは口数が少ないタイプっぽい。


「ミーナです、よろしくお願いします」と返し、料理を並べ終わると母さんとクレアも席についてささやかな夕食会がはじまった。

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