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迷子

 今日は観光だけの予定だが、よく知らない町なので冒険者の格好のままだ。

 ソルジュプランテ国内の町なら、普段着でも問題無いとは思うけど念のため。


 中央の島の教会は後で寄ることにして、先に東区を歩いてみることにした。

 しかし、アルジーネの町の東区は、中央の通りを逸れると歩いている人が少ないようだ。


「こっちは歩いている人が少ないね、お姉ちゃん」

「そうだね」

「こちらは住宅地のようですわね」


 適当に道を逸れてみたが、見るものが無いのなら違う道の方が良かったかな。

 少し歩いてみて、何も無さそうなら戻れば良いか。


 水の豊富さを象徴しているのか、アルジーネの町はあちこちに小さな噴水がある。

 そんな噴水の1つを横目に、商店街のようになっている大通りへと出た。通ってきた道と違って人通りが多い。


 この通りは、赤いレンガ造りの古そうな建物が並んでいるようだ。

 明らかに他の区画よりも古そうな建物が並んでいることから、アルジーネの町が出来た頃からある区画なのかもしれないと思った。


 ところどころに露店や屋台も並んでいる。


「ぱりぱりして美味しいよ、リルファナちゃん」

「さっぱりした塩の風味が良いですわ」


 食べ歩き出来る小魚のフライをつまみながら歩いていると、噴水のある大きな公園を見つけた。

 木陰となるように大きな木も植えられているし、ベンチもたくさん置かれている。


 ベンチもあるならと、少し休憩していくことにした。


 のんびりと話しながらフライを食べていると、視線を感じたのでそちらの方を見てみる。

 向かいのベンチに8歳ぐらいの女の子が、1人で座っていた。


 肩までかかる金髪に大きな赤いリボンをしている少女で、身なりからそれなりにお金持ちの子のようだ。


 ウサギのぬいぐるみを膝に乗せて、視線はクレアの持っている小魚のフライに釘付けである。


「こんにちは。食べる?」


 それに気付いたクレアは、少女に近寄ると声をかけた。

 目の前でわたしたちが食べていたものだ。変な物が入っているということは無いのは分かっているだろう。


「いいの?」

「うん」

「ありがとう!」


 少女はお腹が空いていたようで、クレアにお礼を言うともぐもぐと食べ始めた。


「1人ですの?」

「うん! お母様が迷子になってしまったから待ってるの」


 どうやら迷子のようだ。

 フライの減る量と速さを見ると、長い間ここで待っていたのかもしれない。


 慌てて食べる少女がむせたのを見て、クレアが水袋を渡していた。


「それは困ったお母様ですわね」


 リルファナは少女の話にあわせつつ、質問を織り込むと少女について聞き出した。


 少女の名前はレイサ・ベルガメリ。

 ベルガメリ家はフォーレンに住む貴族らしい。


 レイサは、両親と世話役のお付きの者とガルディアまで行った帰りにアルジーネに寄ったようだ。

 商店街のお店を回っていたところ、母親とはぐれてしまったらしい。


 この公園には両親と立ち寄ったわけではないようなので、ここで待っていても見つからない可能性が高いだろう。

 レイサは宿泊先の名前は覚えていないようだった。


「じゃあ、レイサ様のお母様を探しに行きましょうか。寄ったお店は分かりますの?」

「うん、すぐ近くだよ」


 貴族の寄る店なら、店員が何か知っているかもしれない。

 立ち寄った店を覚えているなら、店で聞いてみることから始めよう。



 レイサの案内でいくつかのお店を回っていく。


「ここでこの子を買ってもらったの!」

「名前をつけてあげないとですわね」

「うん!」


 一般的な雑貨屋だ。

 持っているウサギのぬいぐるみは買ったばかりだったらしい。


「ここでお父様が新しい服を頼んでたよ」


 わたしが1人で入っていくには、躊躇ためらいそうな高級店。


 こうしてみると、レイサの家族は庶民向けの小さな雑貨屋から、高級店まで色々なお店を巡ったようだね。


「ちょっと店員さんに聞いてきますわね」


 リルファナがレイサと手をつなぎ店員さんの方へと歩いていく。

 その間、クレアと商品を見ていることにした。


 小物1つに貼られた値札が、小金貨1枚となっている。


「高いね、お姉ちゃん……」

「そうだね……」


 質は良いのだろうし、物持ちも良いのだろう。

 しかし、小物にこれだけのお金を出すなら装備に回したいところだ、と思ってしまうのは冒険者らしくなってきた証拠だろうか。


 あれこれ見ていると、もっと手軽に買えるコーナーもあった。

 というより、最初に見た棚にたまたま一番高いものが置いてあったようだ。


「ここで買物したときに話したようで、店員さんが宿泊先を知っていましたわ」


 リルファナは有力な情報を聞けたようだ。店員さんから聞いたその宿に行ってみることにした。


 商店街から少し離れた場所にある宿屋で、5階建ての立派な高級宿だった。

 蜘蛛騒動の後に、レダさんにおごってもらった宿屋よりも高いかもしれない。


 宿屋に入るとカウンター。

 それと、宿泊客が休憩するラウンジとなっているようで、ローテーブルとソファがいくつも置いてあった。

 高級な宿屋だし、御付きの人が待てるように、広くスペースを取っているのだろう。


「あ、お母様!」

「レイサ!」


 そわそわしながらソファの1つに座っていた女性が、レイサの母親だったようだ。レイサは母親を見つけると駆け寄った。


 話を聞くと、父親と執事はレイサを探しに出かけていて、レイサが宿屋に戻ってくるかもしれないと母親は1階で待っていたみたい。


 レイサは気丈に振舞っていたが、心細かったのだろう。少し目が潤んでいた。


「ありがとうございました。フォーレンにお立ち寄りの際は、是非ベルガメリ家に寄ってください」

「お姉ちゃんたち、また会おうね!」


 夫が帰って来たらお礼をしたいと言われたが、いつ帰ってくるか分からないし面倒だ。

 レイサの案内通りに歩いてきただけだからと、適当な言い訳をしつつ町の散策に戻ることにした。


 フォーレンに行ったら、レイサの顔を見に行ってみようかな、と思いつつ宿屋を出た。



 時間が少し遅くなったが、大衆食堂のようなお店で昼食を済ませる。

 アルジーネ名産の川魚を使った定食屋で、魚のメニューが豊富だった。


 町の散策中、アルジーネ特有のコメを少し購入しておく。

 水気のある、おかゆやリゾットを作るには向いていそうだったので、帰ったら何か作ってみようと思う。


 そういえば、聖王国……、というよりも他国のアンテナショップは見当たらなかった。

 ガルディアにも王都にもあったし、たまたま歩いた範囲には無かっただけだとは思う。


「そろそろ教会に寄ってみようか」


 夕方までぶらぶらしていたが、そろそろ宿に戻る頃合だろう。

 治安の良いソルジュプランテと言えど、夜は無警戒に歩き回るのはやめたほうが良い。わたしたちならどうとでもなるだろうけれど、自ら危険に近寄る必要もないのだ。


 ガルディアに近い東区に、新しく宿屋を取っても良かったのだけど、散策中に候補になりそうな宿が見つからなかった。

 このまま、西区の泊まっていた宿まで戻るつもりだ。


 教会に寄るために橋の途中で、中央の島に下りる。


 建物は、民衆に教えを説く教会というよりは、神を祀る神殿に近いような印象を受けた。


 この中央の島は、町の様々な祭事を行う場所でもあるらしい。

 西区や東区にも教会はあるようだし、わざわざ中央の島まで説教を聴きに来る人は少ないのかもしれない。


 神殿に入るとすぐに神像が置かれた広間となっている。


 来訪者が、お祈り出来るように椅子が並んでいるのは、他の教会と一緒だ。

 川という水の恵みを享受する町だけあり、この神殿では水の女神の神像を中心に据え付けられていた。


 夕方という遅い時間ということもあり、お祈りしている人はまばらだ。格好から仕事帰りという人が多そうだった。


 3人で椅子に座り、目を閉じて祈りを捧げる。


 そういえば遺跡で出会った妖精は、どうしたんだろうとふと脳裏をよぎった。


 ――祈りを捧げ目を開く。


 そこには、色とりどりの花が咲きほこる草原にいた。

 辺りを見回すと、緑の生垣が壁のようになっているようだ。緑の生垣にも赤、青、黄色といった小さな花が咲いている。


 アルジーネの町にあったような形式の、大きな噴水が庭園の中央で水をあげていた。


 さて、今回はどの神様に呼ばれたんだろうか。


 ……もうこの光景にも慣れてきたのか、びっくりしなくなってきた気がする。

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