アルジーネへ - 依頼受注
朝食後、ネーヴァは帰宅すると言って帰っていった。
リルファナが自分の防具を作っている間、新しい防具にラピスラズリで魔法付与しておく。
確認のため適当な装備に付与し、鑑定するとセブクロと同じように状態異常耐性が付いていた。
リルファナの防具が出来たら、すぐに魔法付与出来るように、そちらの準備もしておこう。
可能なら全属性耐性も付けたいのだが、そのためには金剛石が必要となる。
この世界でも宝石は高価だ。ラピスラズリと同じように迷宮で拾えないかな?
革兜も買い換えたいので、クレアと防具を扱っている店に行ってみることにした。
折角なのでクレアの魔法使い風のとんがり帽子も、白で統一すると良いんじゃないかと思う。
「わたくしの帽子もお願いしますわ」
作業中のリルファナに防具屋に行ってくることを伝えると、帽子を買ってきてほしいと頼まれて家を出る。
立ち寄ったのは、何度かのぞいたことのある店だ。
帽子や兜の並ぶ頭装備のコーナーを見ていると、冒険者ギルドの装備屋よりも扱う種類が多かった。
ギルドの店は駆け出し向けの簡単に使える装備が多いから、並べている装備も少ないのだろう。
「お姉ちゃん、あの鎧ならこれが似合いそう」
クレアが小さな羽根のついた帽子を指差した。
高さはあまり無いブーニーハットのような、全体にツバのついた帽子だ。色もシルバー系に紺色の帯のようなものが入っているので鎧とも合うだろう。
素材はシルバーぺキュラの革で、中に薄い金属板が入っているみたい。
あいつ、銀色もいるのか……。
今の革兜よりは防御力もありそうだし、見た目も気に入ったのでこれで良いか。
クレアは、今までのとんがり帽子に似ているが、ツバのすぐ上にサークレットのような金属がついている帽子に買い換えた。
もちろんローブに合わせた白色だ。
リルファナには小さい麦藁帽子のような防具を選んだ。
薄いピンク色の布が装飾に使われているけど、裁縫スキルの高いリルファナならば、気に入らなかったら自分で手を入れるだろう。
見た目は完全に麦藁帽子だけど、今使っているカチューシャよりは性能も良い物だと思う。
この世界の装備は見た目と防御力が一致しないものも多い。
どっちが強いかとか、明らかにこっちの方が良いとかそのぐらいだが、見ただけで性能が分かるのは不思議でもある。
最初に装備を買った頃よりも、性能差がはっきり分かるようになっているので、品質鑑定みたいなスキルもありそうだ。目が肥えたとも言えるのかな。
支払いを済ませると3つで小金貨2枚近い値段となった。品質の良い装備は高いね。
魔法付与は、前にも付けた熱射軽減と日焼け軽減を付けておこう。
――翌日。
冒険者ギルドに行くと男性の職員さんに声をかけられ、ラミィさんの指名依頼があることを伝えられた。
ガルディアは冒険者が少ないこともあり、職員さんも常駐している冒険者を把握しているようだ。
「アルジーネへの買出しと道中の採取依頼となっています。詳細は依頼主までとなっていますので聞きに行ってくださいね」
「分かりました。それとレダさんからも、ついでにと頼まれているのですけど、何か聞いてますか?」
「いえ、そちらは聞いていないですね。今ならいると思うので、ギルドマスターの部屋に行ってもらえますか?」
ギルドマスターの部屋に入ると、レダさんはドゥニさんと話している。
何かの報告をしていたみたいだけど、丁度終わったそうでドゥニさんはすぐに退室していった。
「ミーナちゃんたちには、アルジーネの冒険者ギルドに手紙を届けて欲しいさね」
「届けるだけですか?」
「ああ、返事があれば受け取ってきて貰えるかい?」
「分かりました」
「それと最近、ガルディア周辺で魔物をあまり見かけなくなってね。指名依頼の方の余裕があればでいいけど、アルジーネでC級の討伐依頼を完了してくるといいかもしれないさね」
昇級条件であるC級の依頼のうち、まだ討伐依頼を終わらせていない。
ちなみに、遺跡の調査はその他枠扱いで、昇級条件としては護衛依頼と同じとなっているそうだ。
B級への昇級の必須条件として残るのは討伐依頼なのでどこかで受けなければならない。
ガルディアで受けられないならアルジーネで終わらせておけば、B級へのランクアップがスムーズになるだろう。
冒険者ギルドのメンバー情報は、ネットワークのような物で共有されているので、1つの町で依頼を終わらせる必要も無いんだよね。
「その辺りはラミィさんと相談してみます」
◇
詳細を聞きにラミィさんの店までやってきたが、ドアにはプレートがかけられていて閉店しているようだ。
「お姉ちゃん、お店やってないね?」
「用事のある方はお入りくださいとなってますわ」
鍵はかかっていないようだ。
ドアを開けると鈴の音が響いた。
「あ、いらっしゃいませー」
元気そうなラミィさんが出てきた。病気とかではないようだね。
「商品の補充のために2日ぐらい閉めてますー。これだけ売れるなら店員さんも雇いたいところですねー」
ネーヴァのおかげで一気に商品がはけてしまったが、売れ続けるとも限らないので悩んでいるようだ。
わたしは商売関係の知識は持っていないので、ちゃんとしたアドバイスも出来ない。
「ずっと雇用するのではなく、忙しいときだけ手伝ってもらうとかもありますけどね」
要はアルバイトというやつだ。
決めるのはラミィさんだし、このぐらいのアドバイスなら良いだろう。
この世界には、洗濯機や電子レンジも無いので家事にも時間がかかる。
働けそうな歳の子供も家の仕事を手伝っていることも多いし、簡単に見つかるかは分からないけどね。
「なるほどー。近所の方に報酬をし払って、手伝ってもらうというのもありかもしれませんねー」
「スティーブくんに聞いたけど、お金が貰えるなら孤児院の子ならやりたがる子もいるんじゃないかな?」
「ふむー。検討してみますー」
意外とラミィさんが乗り気だ。
忙しい時期だけでも、孤児院の子の稼ぎになるならそれもありだろうけど、子供たちに接客が出来るかどうかだね。
「とりあえずそれは置いておいて、依頼の話をしますねー」
「はい」
「まずアルジーネの町での買出しですー。これはメモを用意しておいたので、西区にある『思い出の糸』というお店でメモを見せれば用意してくれると思いますー」
ラミィさんがメモを取り出した。
様々な布や糸の名前と、購入したい量が並んでいるようだ。
「それと、アルジーネの南の森で『フォレストコットン』の採取をお願いしますー。この辺りだと量が取れなくてー」
フォレストコットンとは、森などの木が密集する場所に生える植物だそうだ。
セブクロには存在していないのか、リルファナも知らなかった。
「こんな植物ですー」
ラミィさんがささっと絵を描いてくれた。
絵によると、花自体に赤い綿がびっしりと生えているらしい。
「んー、見たことはあるような気がしますの。名前が違ったのかもしれませんわね。赤…、レッド……、クラ……、何だったかしら」
「昔はクラヴァラクと呼ばれていたこともありますねー。最近は専門店でもないと聞きませんがー」
「ああ、それですわ!」
名前違いで知っていたようだ。昔の言葉で赤い繊維という意味らしい。
まあ、フォレストコットンの方が分かりやすいと思う。
ギルドで購入した地図を確認すると、アルジーネへはトレンマ村から西へ1日半も歩けば着くようだ。
距離的にはミニエイナと同じぐらいだと思う。
依頼期限は今日を含めて12日間。現在の手持ちの素材で2週間ほどは大丈夫そうなので、という期限のようだ。
往復だけなら4日ほどなので、採取を含めても意外と余裕はありそう。
報酬は、仕入れ費用を除いて小金貨3枚。
C級としてはやや多めの報酬だが、宿泊代や保存食代などの必要経費も含まれているとのこと。
討伐依頼は期限内でガルディアまで戻って来られるなら、こなしてきても良いと許可は貰った。
「他の素材も採取してきて貰えれば買い取りますよー」
余裕があれば、他の素材も欲しいってことかな?
ラミィさんがいらなかったとしてもギルドで売れるし、何かありそうならついでに採ってきても良いかもしれない。
さて、まとめると今回の依頼は2つ。やることは3つ。
アルジーネで買出し、ギルドへの手紙配達。それとフォレストコットンの採取だ。
余裕があれば、他の素材の採取やC級討伐依頼をこなしてくる。出来ればアルジーネの観光もしたいが討伐依頼次第かな。
フォレストコットンの情報は、アルジーネで聞いた方が詳しく聞けるだろうし、とりあえず町まで行ってしまうとしよう。
「今日の午後、出発しますね」
「よろしくお願いしますー」
夕方前にガルディアを出発して、トレンマ村に1泊していこうと思う。
※2021/04/25追記(06/08修正)
C級の採取依頼はサクラダイトの採取で完了していると報告をいただいています。
ストーリーの変更はありませんので、修正まではミーナの勘違いということで……。
※2024/12/24 追記
上記の修正を行いました。
どこかにミーナの勘違い(サクラダイトの採取依頼をしたことを忘れていること)が残っている可能性がありますので、もし気付いた方がいましたら教えていただけると助かります。