フェルド村 - 4月末
夕飯は卵料理が多く並ぶ。
先月と同じように夕食中に今月の話をした。主にクレアとリルファナが。
「王都は大きかった!」
「おう、広さだけなら周辺の国の中でも随一なんだぞ」
ソルジュプランテの王都はヴァレコリーナの帝都や、聖王国の聖王都よりも広いという。
しかし、帝都も聖王都も、王都とは違う特徴があるそうだ。行ってみてのお楽しみにしておこう。
「青竜と友達になったよ。ほら」
「この間、北の空を飛んでいるのを見たわよ」
「そういえば最近、村から見えるところまで飛んでくるな。……流石に青竜の活動範囲には関与してないよな」
クレアが青い鱗を見せている。
母さんが初めてだからびっくりしたわと言っていた。父さんは何だか難しい顔をして呟いていたが、後半はよく聞こえなかった。
「叔父様がやってくるとは思いませんでしたわ」
「他国までお忍びで探しに来るとはな。まさかそこまでするとは思わなかった、悪かったな」
「いえいえ、おかげでヴァレコリーナの情報が入るようになりましたわ」
父さんは、あくまでも一方的になら連絡出来る程度のつもりだったのだろう。
「ミーナ、今月も3泊でいいのかしら?」
「とりあえず3泊はしていくつもりだけど、もしかしたら1週間ぐらいいるかも?」
「そう、じゃあしばらくは5人分ご飯を作らないとね」
今回はフェルド村で生産スキルも上げようと思っている。
生産道具もレダさんの家からほとんど持って来ているので、生産に時間がかかりそうならば村にいても良いだろう。
レダさんの家だと家賃が安いし、運や環境も大きいとは思うけれど、今のところ収入の方が圧倒的に多い。忙しなく依頼を受ける必要も無いのだ。
「C級に上がった頃はまだまだ大変だったな……。羨ましいことだな」
それとなく話をしていたところ、父さんが本当に羨ましそうな顔をしていた。
夜はクレアがベッドに入ってきた。
家にベッドが不足していることを忘れていたけれど、3つにした方が良いんじゃないかな?
◇
――翌日。
父さんは、また森に伐採の手伝いに行くようだった。
「倉庫を作るっていうから忙しいんだよ」
「ふうん」
「ミーナ、お前のせいでもあるんだぞ」
「なんで?」
醤油などの調味料の倉庫を増築しているらしい。
ガルディアのアンテナショップを通して、聖王国の町と定期的な仕入れを結ぼうとしているようだ。
……フェルド村内でどれだけ流行っているんだろうね。
ガルディアの町では変化が無いのに、村で流行るっていうのも不思議な話でもあるけど。
さて、ネーヴァの竜鱗を装飾品にしたいが何に加工しよう。
セブクロの装飾品は、海外のゲームのようにかなり細かく分かれていた。
性能のある装飾品では指輪、腕輪、首飾り、耳飾りが左右で1つずつ。それとお守りだ。
見た目装備と呼ばれる、ステータス的には効果の無い装備ならば仮面や眼鏡などもあった。
これらは作っても効果がないかもしれないので今回は除外する。
お守りはポケットに入る道具で、基本的には職業専用のスキルやステータスの上がる装備だった。
現実となっている今だと、職業専用にはならず鎧やローブのポケットに入れておけば、1つまで効果を発揮するんじゃないかと思う。
リルファナは左手に腕輪型の『隷属の首輪』を付けているため、左手の腕輪の枠は埋まった形になっているだろう。
指輪や腕輪への加工は難しいだろうし、首飾りかお守りにしようかな。
お守りなら袋から出して、紐か鎖を通せば首飾りに再加工も出来ると思うので、お守りにしておこう。
彫金スキルでの製作は、実際に道具を使って手作業で加工する方法と、魔力を利用して加工する方法がある。
前者で作る方法が一般的だが、竜鱗の加工は後者で可能だ。
鱗を1枚取り出して、魔力を使って圧縮すると摘めるサイズの水色に輝く正八面体へと変化した。
首飾りならこのままでも良いが、袋に入れたいので上下をカットした形を思い浮かべながら、更に板状へと作り変えた。宝石ではテーブルカットとも言われる形だ。
魔力を使う慣れない作業なので、意外と時間がかかったが簡単に作り出せた。
「何か探していますの?」
適当なサイズの袋が無いかと探していると、リルファナが部屋にやってきた。
「ネーヴァの鱗でお守りを作ったから、丁度良い袋が無いかと思って」
「それならば折角ですのでわたくしが作りますわ! それと、わたくしの分も加工して欲しいですの」
袋の品質も、お守りの性能に関係しそうな気はする。
本人も作る気満々で布を探し始めたので、ここは頼むことにしよう。
「ある程度なら形は変えられるけど同じでいい?」
「同じがいいですわ! あとクレア様にも聞いたほうが良いと思いますわよ」
「鱗で持ってるより良いもんね」
「いえ。……まあいいですの。袋も3つ作っておきますわね」
3つ作るかどうかは、クレアに聞いてからで良いんじゃないかと思うけど。
このぐらいの生産品ならば、時間はかかるが鍛冶と比較したら使う魔力は微々たるものだ。
クレアが欲しいと言っても、今日中に3つ作製できるだろう。
――夕飯前。
「出来ましたわ」
リルファナがお守り袋を3つ持って来た。
神社などで売っているお守りと同じ形状で、クリーム色の袋にデフォルメされた竜の刺繍が入っていた。
わたしが水色、クレアが赤、リルファナが紺の糸を使った刺繍で、髪の色にあわせたのだろう。
「ありがとう、お姉ちゃん、リルファナちゃん」
あの後、クレアに聞いてみたら即答で「いる!」と言ったので3つ作ったのだった。
「ほら、手伝って頂戴な」
母さんが、夕飯を並べ始めたので手伝う。
トレンマ村でたくさん貰ってきたこともあり、今日も卵料理が多かった。
「そういえば父さん、鍛冶が出来る場所ってあるかな?」
「村なら金物屋ぐらいじゃないか?」
何を言っているんだといった目で見られた。
「あー……、炉はあるんだよね」
「……とりあえず詳しく話しなさい」
流石にカルファブロ様の炉があることまで通じないよね。失敗失敗。
雨が降っていなければ、家の裏手でも大丈夫だろうということだ。
「うーん、見物人とか集まらなければそれでもいいんだけど」
「人が集まるのが嫌なら、前に探索した教会でも使ったらどうだ?」
数ヶ月に1回、村の自警団で魔物が入り込んでいないかといった確認をしているらしい。
魔法を使えない者もいるので、訓練がてら魔法陣を使わずに直接歩いていっているようだ。
レダさん、というより冒険者ギルドに納品する短剣を作りたいだけなので、最初は家の裏手で使ってみてから考えようかな。
「どうせなら農作業用の鎌とか鍬も頼めるか?」
「柄の部分だけ作ってくれれば作れると思う。鉄でいいよね」
「ああ、切れ味が良すぎても使いにくいからな」
作ろうと思えば霊銀の鍬も作れる。
……オーバースペック過ぎるか。
「柄の部分はわたくしが作れると思いますわ」
「じゃあ、お願いね」
木工スキルが上がったので、簡単なものなら生産出来るようになったのだろうか。
多少はスキル上げにもなるだろうし、リルファナに頼もう。
「お姉ちゃん、海水を取りに行きたいんだけど」
リルファナに聞きながら、錬金術のスキルを上げているクレアだが、今度は塩を作りたいらしい。
どうやら転生者と、クレアのようなこの世界の人では、生産スキルのレシピの習得方法が違うようだった。
転生者ならば、木札を作っていたリルファナのようにスキルが上がったタイミングで、次の段階の生産品はほとんど作製出来るようになる。
セブクロも特殊な生産品を除くとこのタイプのシステムだ。
ただし、この世界ではどのような物が作れるかは知っている必要はあるようだった。
先ほども父さんに農具が作れないかと聞かれた途端に、鍛冶で作れると確信した。
今まで農具を作るという意識が無かったからだろう。
他にもリルファナに、木工ならこれは作れないのかと聞いたら、「そういえばそんなものもありましたわね。……作れると思いますわ」と言っていたことがある。
そのことから、リルファナが木工スキルの生産品の中で忘れている物については現物を見るとか、レシピを見つけるとかして思い出すまでは作れないと思われる。
生産に限らず剣術や魔法も本人が知らなかったり、忘れていたりして想像出来ないことは、教えてもらうか思い出すまで使えないようだからね。
氷剣のように新しいアイデアが閃けば、セブクロのときに無かったスキルも使えるようになるという利点もあるけれど。
そして現地の人の場合、これが顕著に出る。
クレアのように染料を作り続けても、染料の上位のレシピしか思いつかないようだった。
この違いは、塩を作り続けているだけで上位の染料が作れるとか、木札を作っているだけで彫刻が上手くなるとか不自然過ぎて、ゲーム的な発想が無いせいだろう。
……作ったことのない上位の生産品の作り方が思い付くだけでも、十分すごいことだと思うけど。
「明日、浜辺に行こうか」
「うん!」
村に帰って来たときは、母さんや父さんの手伝いはしているがあまり時間もかからない。
東の海岸は村の子供でも日帰りで遊びにいくことのある距離だし、採取だけならお昼過ぎぐらいには村に戻ってこれるだろう。
その場で海水を取りながら塩を作れるし、どうせなら鍛冶をしながら待つのもありかな?