依頼の報告
遅めの朝食を済ませてトレンマ村を出ることにした。
今日はガルディアのギルドで依頼完了の報告と鉱石の鑑定をしてもらうぐらいだ。ああ、レダさんにフェルド村に戻ることを伝えないとかな。
川にかかった石橋を渡って飲食店の前を歩いていると、講習会で一緒だった3人組とすれ違った。
急いでいるようであまり長くは話せなかったが、依頼でトレンマ村方面へ向かうようだ。
彼らはガルディアの西側で見かけることが多いので、こちら側の依頼を優先して受けているのだろうか。
そういえば、酒場の店主さんが言っていたトレンマ村出身の冒険者とは、彼らのことなのかもしれない。
時々見かけたりするけれど、あまり長く話す機会が無いんだよね。
講習会仲間といえば、スティーブくんもガルディアでよく見かける。
最近は面倒見の良いC級冒険者と共同で依頼を受けて、勉強したりもしているようだ。
もう1人の少女は、1度ギルドで見かけてから見ていない。
ガルディアの冒険者ギルドは小さいので、活動時間が完全にずれてでもいない限り、見かけることぐらいはあると思う。
手馴れた冒険者と一緒だったようだし、他の町から講習を受けに来て、そのまま地元に帰ってしまったとかかな。
◇
ガルディアに到着し、ギルドで依頼の報告を終える。
そのあと、素材買取の窓口でサクラダイトや赤い鉱石を見てもらうことにした。
「おう、久しぶりだな!」
遺跡調査や護衛依頼のあとは買取の窓口に来なかった。こちらに顔を出したのは久しぶりだ。
「よく分からない鉱石を取ったから見て欲しいんですけど」
「おう、出してみな」
赤い鉱石をいくつかテーブルの上に置く。
「あと、これも何か見て欲しいです」
「あいよ!」
クレアが迷宮で採取した白い木を出した。
「こっちの赤い鉱石はメカネリトスって鉱石だな。魔導機の基礎部分の素材って話だ」
魔導機は電気回路に詳しい転生者が、魔力を使って作り出したものなのだろう。
魔導機の内部は、電気回路のように配線を組み合わせた構造になっているが、その部分に使う鉱石らしい。軽く聞いた感じでは、電気回路での銅線のような使い方のようだった。
「白い木の方は見たことがないな。ちょっと調べてくるから待っててくれ」
買取のお兄さんは木を1本持って、奥の部屋へ入っていく。
しばらく待っていると、一冊の本を持って戻ってきた。
「これ以外に該当する素材が無いんだが……」
挟んでいた栞のページを開いた。迷宮で見た木と同じ絵が描かれている。
賢者の木と呼ばれる白い木で、この木で杖を作ると魔力の扱いを補助してくれる能力を持つようだ。
「ただ、この辺りで発見報告の無い木でな。どこで拾ったんだ?」
「迷宮で採取してきたんですけど」
「あー、それならあり得るか」
迷宮は周囲の環境に似通った構造となるのが一般的ではあるが、逆に言えば周辺地域の特徴が無視されることもあるのだ。
塩が取れない地域に、海や岩塩で作られた迷宮が出来ると、消えるまでの一時的にではあるがお祭り騒ぎのようになることもあるそうだ。
「買取はどうする?」
「鉱石の方だけお願いします。追加も出しますね」
賢者の木はクレアの杖の素材になるだろう。
だが、理論も分からない魔導機の自作までする気はない。
王都や魔導機技術の進んでいるヴァレコリーナの方が、ガルディアよりも高く売れるとも言われたが、マジックバッグに不良在庫を抱えておくのも邪魔だ。
メカネリトスという鉱石は全て売ってしまって良いだろう。
オオトカゲの素材や、移動中に売るために採集したものなどはまとめて売却することにした。
サクラダイトやウィスク鉱石も買い取って貰えた。町でも高級レストランなどで香り付けに使うらしい。
あとでレベルの確認をしようかと、ギルドの2階で鑑定紙を買ってから家に戻った。
「本日は薬草の下処理をしてしまいますわ」
フェルド村に戻るのは明日にすることに決めた。
わたしはマジックバッグの整理とフェルド村に戻る準備をしておこう。
夕方、レダさんが夕飯を食べに家に帰って来た。
「今日は美味しいご飯が食べられるさね」
一昨日は1泊で帰る予定だったので鍵を預けていかなかった。レダさんは昨日も帰ってきたが誰もいなかったらしい。
と言っても冒険者の仕事は1日2日ぐらい、予定が変わることも当たり前なので気にはしていないようだ。長距離の仕事になれば1週間以上ずれてしまうこともあるそうだし。
「迷宮を見つけても特に報告義務は無いよ。冒険者なら最初に調べたいと思うだろうさね」
迷宮の話をしていて気になったので聞いてみたが、報告義務などは無いらしい。
「もちろん危なそうなら無理せずに戻ること。迷宮が消えないまま探索を終了するならば、ギルドに報告して欲しいさね。場所によっては一般人が入ってしまうこともあるからね」
迷宮の位置を教えるだけでも、情報料はそれなりに貰えるそうだ。
そうすれば、装備も揃っていない駆け出しの冒険者が、無謀な調査へ立ち入るような真似もしなくなるのだろう。
それと消えてしまった迷宮については、意味がないので報告しなくて良いということだった。
迷宮が魔力溜まりから構築されるなら、魔力の溜まりやすい場所や次に迷宮が出来る可能性が高い場所が分かるんじゃないかとも思うけど。
トレンマ村の迷宮も前に出来たのは100年ぐらい前のようだし、期間が長すぎてこの世界ではデータの解析が出来ないか。
寝る前に鑑定紙でレベルの確認をする。
……47まで上がっていた。
クレアとリルファナも同じぐらいのようだった。
数は少なくても高レベルの魔物を倒すと上がりやすいようだね。
「青竜の友達っていう称号があったよ、お姉ちゃん」
「わたくしもでしたわ!」
わたしは『青竜の親友』だったんだけど……。
「それとこちらも鑑定しますわ」
「うん!」
リルファナは、迷宮の宝箱に入っていた1本の短剣と2本の指輪を並べて鑑定し始める。
「こちらの指輪はINTとAGI。どちらも小ですわね。短剣は死霊特攻が付いていましたわ!」
「指輪はクレアとリルファナが使いなよ」
「お姉ちゃんは1つ持ってるもんね」
アルフォスさんたちとの遺跡の探索後、分配した中にSTRアップの指輪があったので常に身に着けている。
ミレルさんがSTRの『D級』と言っていたのを思い出したので、どういう意味かと鑑定したところ小と表示された。
ミレルさんの言い方だとE級が微小、D級が小、C級が中、B級が大、A級が特大という区分なのだろう。
「短剣はどうしますの?」
「リルファナが持つと良いかな」
セブクロの死霊系の魔物には、通常の金属製の武器は非常に効きにくいという特徴がある。
ただし、銀製の武器か魔法の武器ならば、問題無く攻撃することが出来る。
わたしの場合、魔法剣を付与すればどんな武器でも魔法の武器だ。そもそも、霊銀の剣は魔法の武器扱いでもあるが。
クレアは最初から魔法で攻撃すれば良いし、魔物に近寄ることの多いリルファナが持つのが最適だろう。
「では、わたくしが持たせていただきますわ」
◇
翌朝もレダさんは朝ごはんを食べにきた。
「いってきますね」
「ああ、いってらっしゃい。あたしもたまには遊びに行きたいけど、今は無理さね」
トレンマ村に行く前から忙しそうだったので、まだ落ち着かないのかな?
鍵は預かってくれるということで、そのまま中央広場でお弁当を買って町を出る。
見回り中の騎士さんたちとすれ違ったが、昼過ぎにはフェルド村に到着した。
「随分と早く着きましたわね」
「急ぎすぎたかな?」
「休憩回数は少なかったけど、特に問題ないよ。お姉ちゃん」
先月は夕方前だったのに明らかに早く到着している。
気付いていないだけでレベルアップの影響が、あちこちに出始めているのかもしれない。
「ただいまー」
「あら、おかえり。そろそろ帰ってくる頃かと思ってたわ」
3人で家に入ると、母さんはお茶を飲んでいた。
父さんは伐採の手伝いで出ているそうだ。
「母さん、新しい調味料を見つけたよ」
「まあ、使い方を教えて頂戴な」
王都で見つけた味噌を取り出すと、母さんは興味津々な目で味噌の入った容器を見ている。
「お母さん、トレンマ村でチーズと卵もたくさん貰ったよ」
「父さんも1度帰ってくる時間になるし、おやつにオムレツでも作ろうかしらね」
「わたくしも手伝いますわ!」
クレアがチーズや卵をマジックバッグから出していく。
わたしは、リルファナの入れてくれたお茶を飲みながらテーブルでのんびりすることにした。
「お姉ちゃん、出来たよ!」
……いつの間にかテーブルで眠ってしまっていたようだ。
クレアがチーズ入りオムレツをテーブルに置いた。
父さんもいつの間にか帰ってきている。
「ありがとう。顔洗ってくるね」
うーん、思ったよりも疲れているのかもしれない。
フェルド村にいる間にいくつか生産したいものがあるのだけれど、手を付けるのは明日以降にしよう。