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トレンマ村北の迷宮 - レバー

 迷宮ダンジョンから出ると、空には夕焼けが広がっていた。

 急いでトレンマ村まで戻り、酒場に顔を出す。


 クリスタルゴーレムにやられた鎧の背中側がぼろぼろだとクレアに言われ、わたしは外套をマジックバッグから出して羽織っている。


 わたしたちが戻ると、酒場の店主さんがほっとしたように聞いてきた。


「随分と遅かったから心配したぜ、何かあったのか?」

「ええと、岩場に迷宮ダンジョンを見つけたので調査してきました」

迷宮ダンジョンが? ……奥にウィスク鉱石の原石がなかったか?」

「知っているんですか?」

「ああ、直接見たわけじゃないが、俺のひい爺さんが若い頃にそんな迷宮ダンジョンが出来たことがあるって聞いたな」


 当時の迷宮ダンジョンは、冒険者たちが調査しているうちに、魔力が尽きて消えてしまったらしい。

 ウィスク鉱石もたくさん集まったが、冒険者達には使い道もないので村で安価で買い取った。何かに使えないかと考え出されたのが燻製の素材だったようだ。


 水に漬け込むことでもお酒っぽくはなるみたいだけど、美味しく飲むには20年ほど漬け込む必要があったみたい。


「全部回りきれなかったので、明日また探索する予定です」

「あー、それならもし良ければ、村でウィスク鉱石を買い取りたいんだが大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですよ」


 迷宮ダンジョンの採取品や素材などをどうするかは、基本的に手に入れた冒険者の自由だ。

 ガルディアの食事を支えているトレンマ村に売らない理由もないので、引き受けることにしよう。


「あと、これもあったのですが」


 サクラダイトとラピスラズリを少し出してテーブルに置く。


「ん、サクラダイトと宝石の一種か?」

「青いのはラピスラズリだと思いますが、こっちは聞いてませんか?」

「うーん、聞いてないな。まあ、未加工の宝石は町で売れるだろうし、村じゃ持て余すだろう。買い取らなかったのかもしれないな」

「そうですか」

「サクラダイトの方は依頼として買い取るが、ウィスク鉱石もあるんだよな。うーん……」


 村の予算の都合だろう。

 依頼よりも多く採掘した分をどうしようかと、店主さんが考え込んでいる。


 店主さんも依頼や買取の決定権は持っているようだけど、村長さんなどとも相談したいだろう。

 とりあえず最初の依頼で指定された量のサクラダイトは買い取って依頼完了として貰い、明日の採掘分で残りはどうするか決めることになった。


 今日少し回収した分も、明日まとめて見せることにしよう。


「助かる。嬢ちゃんたちが迷宮ダンジョンに入ってる間に、他のやつらと決めておくよ」



 トレンマ村に1泊するので、宿屋を紹介して貰った。


「うわ、ぼろぼろだ」


 革鎧を脱ぐと、クレアの言う通り革鎧が水晶のつぶての衝撃でぼろぼろになっていた。

 明日はリルファナが持っていた予備の革鎧を装備することにしよう。蜘蛛退治のときにジーナさんに貰った革鎧を持っていたらしい。


 ラミィさんの依頼を受けた時に、使わないものはレダさんの家に置いていったはずなのによく持っていたな。


「休みの間に整理しなおしましたの」

「私も」


 聞いてみたら、2人はさも当然というように答えた。


 え、わたしは出したまま部屋の隅に放置してあるんだけど……。

 帰ったら整理しなおそうと決心した。


 村の宿屋にお風呂は無いようだったので、お湯を貰って身体を拭くだけだ。

 町が近すぎて宿泊者が少ないのも原因だろう。


 ――翌朝。


 朝食と探索準備をすませ、お弁当を作ってくれた店主さんに見送られて迷宮ダンジョンに向かう。


「リルファナ、迷宮ダンジョンの魔物は復活することがあるから、昨日歩いた場所も気を付けてね」

「ええ。ふと思ったのですが、突然背後に魔物が復活したりすることもあるんですの?」

迷宮ダンジョン外部の生物の近距離には出ないって言われているけど、実際はどうだろうね」


 たまたま運悪く出現してやられてしまったら、それを報告する人もいないよね。


 迷宮ダンジョンが消えるときに、冒険者が取り込まれることはないという説にも共通することなんだけど。

 取り込まれたらその現象を報告する人がいないからね。


 ……まあ、取り込まれるのなら探索中の冒険者が帰ってこないとか、そういう話は増えると思う。


 この世界(ヴィルトアーリ)はシステマチックな部分もあるので無いのだろうが、深く考えると意外と怖い話である。


「今度は右回りで進もうか」

「分かりましたわ」


 昔に発生した迷宮ダンジョンも数日の探索で消えてしまったらしい。

 余裕があれば、ラピスラズリも出来るだけ採取していこう。


 入口の広場から右に向かうと、反対側と対称的な造りだった。

 左側の道は水晶で塞がれ向こう側に通路が見えている広場だ。


 特に何も無いので先へ進む。


「こっちもサクラダイトの壁だよ、お姉ちゃん!」


 進んだ部屋はサクラダイトの壁面の広場だ、ここも同じか。

 反対側と同じなら、次はラピスラズリの部屋のはずだ。


 一通り見回したが何も無いので先へ進んだ。


「先の広場に魔物がいますわ。1箇所に固まってない限りは1匹ですわ」


 慎重に広場へ足を踏み入れると赤い壁面だ。ラピスラズリじゃないのか……。


 中央にはロックゴーレムが立っていた。反対側と同じなら乾いたマッドゴーレムかもしれないけど。

 わたしたちが広場に入った途端、両手を上げてずしんずしんと迫ってくる。


「問題無さそうだね」


 崩れたゴーレムを見ると、正真正銘のロックゴーレムだったようだが、わたしが近付く前にクレアがあっさりと攻撃魔法で沈めてしまった。


 マッドゴーレムの方が耐えたので物理攻撃に弱い分、魔法耐性が若干高いのかもしれない。泥だから衝撃に強いのかな。


「お姉ちゃん、こっちの壁の石はなに?」

「うーん、こっちは分からないな」


 赤い壁を見ても何の鉱石だか識別できなかった。

 彫金スキルか鍛冶スキルが低いせいだろうか。


「一応、こっちも掘っておこうか」

「うん!」


 スキルが低くて鑑定出来ないということは、ラピスラズリよりも上位の鉱石か宝石である可能性が高い。

 分からないからと、放っておくのはもったいないだろう。


 反対側のラピスラズリの広場は跳ね橋がかかっていたが、こちらは何も無かった。


 赤い鉱石を少し採掘してから奥に進む。


 次の広場が、クリスタルゴーレムのいた広場のはずだ。


 通路を抜けると思っていた通り、奥の壁が水晶で出来た広場に出た。

 ゴーレムが出た跡も残っていて、水晶の壁には大きな穴が空いている。


「魔物はいないようですわ」

「1日ぐらいならあまり変わらないのかな?」

「そうかもしれませんわね」


 とりあず村でも買い取りたいそうなので、ウィスク鉱石を掘ることにした。

 迷宮ダンジョンが消えてしまえば、一緒に無くなるものだ。根こそぎ掘ってしまうぐらいでも良いだろう。


 交代で奥へと採掘していたら、ウィスク鉱石にはキリがあったようで、数メートルほどで普通の岩肌に戻ってしまった。

 横へ拡張するように周囲の鉱石を掘っていく。


「あら、何か空洞がありますわ」


 突然、リルファナが空洞をぶち抜いた。

 そこには地面にレバーが突き刺さっており、左に傾いている。


「お姉ちゃん、リルファナちゃん、こっちにも何かある!」


 丁度反対側を掘っていたクレアが、わたしたちを呼んだ。

 とりあえずレバーを放置して、クレアの方へと向かうと、全く同じレバーが右に傾いている。


 迷宮全体の地図で見ると、どちらのレバーもひし形の外側を向いている形だ。


 こんなところにレバーがあっても、普通は気付かないんじゃないだろうか。


 いや、昔の冒険者たちもウィスク鉱石をたくさん掘ったんだったな……。


「これで跳ね橋を下ろせるのかな?」

「でも2つあるんだよね」


 とりあえず罠がないか、リルファナに見てもらう。


「どちらも罠はありませんわ。仕掛けがどうなっているのかは流石に分かりませんわね」


 とりあえずクレアの見つけた方を左へと傾けてみたが、何の音もせず、機械が動いたような振動も感じない。


「リルファナの見つけた方も動かしてみよう」

「分かりましたわ」


 リルファナがスイッチを右へと傾けた。カチッという音が1回響いた。


「こっちが当たりかな?」

「お姉ちゃん、両方動かしたから反応したんじゃないかな」

「なるほど」


 試しにクレアの見つけたレバーだけを操作すると、左に倒したときにカチッと音がした。


 とりあえず今いる広場には何も起きていない。

 ウィスク鉱石の採掘が終わったら、跳ね橋の方へと向かってみよう。



 跳ね橋のある青い壁の広場へとやってきた。

 下りたまま跳ね橋を見つめている。


「変わってないね」

「うーん、別の仕掛けでもあるのかな」

「念のためもう1度調べてみましたが、特に何もありませんわね」


 部屋を往復してレバーの組み合わせを、全て試して見たものの何も起きなかった。

 単純に跳ね橋のためのレバーではないのかもしれない。


「どうなってるんだろう?」

「カチッという音は最初の組み合わせでしかしませんでしたわ」

「多分、仕掛けが動く音だから、それが正解だと思うんだけど」


 悩んでいると、くぅという小さな音が響いた。


「お姉ちゃん、お腹すいたよ」


 クレアの腹時計によると、そろそろ昼食の時間のようだ。

 酒場の店主さんが作ってくれたお弁当を食べながら考えることにしよう。

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