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トレンマ村北の迷宮 - クリスタルゴーレム

 向こうが透けて見える水晶で出来たクリスタルゴーレム。

 少し見上げないと、全長が分からないことから3メートルぐらいだろうか。


 クリスタルゴーレムはレベルも低い魔物で、低難易度の迷宮ダンジョンという予想は間違えてなさそうだ。


 クリスタルゴーレムの特徴は、他のゴーレムに比べて魔法攻撃にも、物理攻撃にも耐性を持たないが体力が高いこと。

 また、やっかいな能力を1つ持っている戦いにくい相手でもある。


「クレア、ゴーレムに攻撃魔法を撃つときは目一杯離れて!」

「分かった!」


 クリスタルゴーレムに攻撃を加えると、反射ダメージを必ず受けるのだ。

 この反射ダメージは距離を取ると届かなくなるので、セブクロでは離れた場所から遠隔攻撃で叩く攻略法が安全だった。


 現実になると、どのように反射ダメージを返してくるのか分からないけれど、無くなっているとは考えない方が良いだろう。


 反射ダメージが怖いので、しばらく様子を見ていたがゴーレム特有の鈍い動きはそのままだ。


 見ているだけでも仕方ない、攻撃してみよう。


火剣フオコ・スパーダ!」


 ゴーレムの鈍い攻撃をかわしながら、すれ違い様に右腕に向かって斬りつけた。


 びしっという破砕音と共にクリスタルの破片が、こちらに向かって降りかかってくる。


「うわっ」


 背中に砕け散った少し破片が当たったようだ。

 これが反射ダメージのようだが、思ったよりも痛くはなかった。革鎧のおかげで怪我もしていないだろう。


 少し距離を取ったところで振り返って武器を構える。

 続いてリルファナが攻撃を仕掛けた。


 わたしが攻撃した右腕に、短刀で斬りつける。

 砕けた破片がリルファナに向かって飛び掛るのが見えたが、ゴーレムの脇を素早く走り抜けてしまったリルファナには当たらなかった。


「避けられるようですわ!」


 ゲームでは必中だった反射ダメージも、避けてしまえるのか。


 リルファナは、わたしにどのように反射されているのか見せるために攻撃したのだろう。

 ゲームのセオリー通り離れた場所で短刀を鞘にしまうと、クロスボウに持ち替えて、太矢クォレルをセットしている。


火射撃ファイア・ショット!」


 すぐさまに射撃。


 砕け散ったクリスタルは、太矢クォレルの射線の方向へと飛んだが2メートル程度の距離に飛散するだけにとどまった。


 反射距離はかなり短いようだ。

 わたしがゴーレムをひきつけて、その間にクレアとリルファナに攻撃してもらうのが良いだろう。


 少し離れて、マジックバッグから小型の円盾ラウンドシールドを取り出した。

 実戦では使っていなかったが、練習はしていたので大丈夫だろう。


「攻撃は任せた!」

「わかりましたわ」

「うん!」


 砕け散る水晶に気をつけながら、ゴーレムの周囲に張り付くように攻撃を加える。

 避けきれない破片は盾で受けるようにして防ぐ。


火球フオコ・グローボ

火射撃ファイア・ショット


 クレアとリルファナが遠隔攻撃でじりじりと削っていく。

 クリスタルゴーレムの身体はあちこちが欠けており、反射に使われる水晶も身体の一部を使用するからか、ほとんど飛んで来なくなってきている。


 クリスタルゴーレムは、一度動きを止め万歳すると両手を頭上であわせた。


 そこからあわせた両手を地面へと振り下ろす。


 わたしは、後ろへとステップしてかわした。


「おっと」


 ずしん、という重い音。それに伴う振動に近くにいたわたしは足を取られて一瞬動けない。

 クリスタルゴーレムは今まで見たよりも明らかに素早く体勢を立て直し、ラリアットを狙ってくるのが見える。


 不味い! 避けられない!


減速レント!」


 クレアの弱体化デバフ魔法がクリスタルゴーレムにかかり、動きがちょっと遅くなった。


 クリスタルゴーレムの腕の下に、強引に自分の身体を潜り込ませてぎりぎり回避した。


 最後の力を振り絞ったのだろう、クリスタルゴーレムは動きを止めると両手をだらりと下げた。


 稀に倒れる直前に攻撃をしかけてくるスキル『最期の一撃(ラストスタンド)』を持つ生物がいるのだが、このクリスタルゴーレムもだったか……。

 セブクロでは、最期の一撃(ラストスタンド)を持っているかどうかは完全にランダムだけど、滅多に見ることが無いので忘れていた。


「大丈夫? お姉ちゃん」


 クレアが駆け寄ってきた。


「うん、危なかったよ。ありがとう」

「急に素早くなってびっくりしましたわ」


 戦闘が終わって落ち着いたところ、最初に反撃ダメージで水晶を食らった背中が少し痛い気がしたので見てもらう。


 それを見たクレアの顔色が変わった。


「お姉ちゃん! すごい怪我だよ」


 革鎧で覆われていない場所にまで、水晶の小さな破片がいくつか食い込んでいたようだ。

 血はほとんど出ていないようだけど、リルファナも心配そうな顔をしているので酷い傷だったのかもしれない。


 癒し(グアリジョーネ)をかけてもらったら、すぐに痛みも引いたし大丈夫そうだ。


 小石がぶつかった程度にしか感じなかったんだけど、レベルのおかげかな?


 先ほどのように戦闘中の援護に対して、咄嗟に動ける能力などもあるような気がするので、前に鑑定紙を使ったときにあった『魔法戦士の才能』という戦闘系称号の効果かもしれないけどね。


「このクリスタルゴーレム……、何だか匂いがしますわ」

「んー?」


 砕けた破片を鼻に近づける。


「お酒の匂いだ、これ」

「リルファナちゃん、これ村で見せてもらったウィスク鉱石の匂いじゃない?」

「ああ、そうですわ!」

「そういえば最初は透明だって言ってたね」


 このクリスタルゴーレムの素材は、ウィスク鉱石だったようだ。

 空気に触れていても透明を保っていたのは迷宮だからだろうか。


 カメレオントカゲが張り付いていたのも、これを食べていたのかもしれない。

 基本的にカメレオントカゲは擬態していて見えないので、普通の人が見たら一緒にいた普通のオオトカゲが食べていると思いそうだ。


「クリスタルゴーレムの残骸とカメレオントカゲを回収したら、少し掘っていこうか」


 ゴーレムがいた水晶のように見える部分、全てがウィスク鉱石なのだろう。


「お姉ちゃんは回復したばかりだから休んでなよ」

「そうですわね、クレア様と片付けてしまいましょう」


 素材の回収が終わったが、カメレオントカゲの鱗とかって使えるんだろうか?

 ギルドに持ち込んだときに聞いてみよう。


 クリスタルゴーレムとの戦闘で時間がかかってしまったので、ここで来た道を戻ることにした。



 階段まで戻ってきた時、思い出したようにクレアが聞いてきた。


「お姉ちゃん、そういえば迷宮ダンジョンって消えちゃうことがあるじゃないっけ?」

「うん。読んだ本に消える条件は、迷宮ダンジョンが持つ魔力が尽きることって考察されてたよ」


 ある場所が迷宮ダンジョン化するときに、そこに溜まった魔力や瘴気が消費されるというのが通説だ。

 その際に、迷宮ダンジョンに存在する魔物や宝箱なども魔力によって生成されているとされている。


 そして1度創られた迷宮ダンジョンは、魔力を維持出来なくなるまでは迷宮ダンジョンであり続けるらしい。

 迷宮ダンジョンの魔物や宝箱は、討伐したり回収されたりすると、迷宮ダンジョンによって形を変えて再生成されるために魔力を消費する。


 冒険者が何度も迷宮ダンジョンに潜り続けることで、迷宮は魔力を失い消失するのだ。


 長い年月をかけて魔力を溜め続けて出来たり、ずっと人が立ち入らなかった迷宮ダンジョンは、魔力を消費することがないので消えることは無い。

 なんらかの方法で魔力が霧散すれば、消えることはあるだろうとは思うけどね。


「だから、わたしたち以外の人が入らなければ魔力が減らないから残ってると思うよ」

「そうなんだ」

「そういう理屈ですのね」


 クレアとリルファナが歓心していた。本の受け売りだけど。


「トレンマ村で報告して、明日は反対側を回ってからガルディアに帰ろうか」

「うん!」

「わかりましたわ」


 ボスは倒したようなものだし、多分存在するであろう宝箱を回収しなくちゃね!

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