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トレンマ村北の迷宮 - 探索

 岩場にあった長い階段を下りていくと、ドーム状の広い場所に出た。円形の広場のようになっている。

 灰色の大きな岩を無作為に積んだような壁や床だが、地面は平らで歩きやすい。


 ドーム状の天井の先端には明りが灯っていて、広場の中は薄暗い程度の明るさだ。

 下りてきた階段から見ると奥の方に、右と左へと斜めに通路が延びているようだ。通路の先は真っ暗になっていて先は見えなかった。


迷宮ダンジョンだとは分かりましたけど、探索でよろしいですの?」

「お姉ちゃん、大丈夫かな?」


 クレアが不安な顔をした。彫像リビングスタチューに襲われたときのことを思い出したのだろう。


「あまり魔力も感じ無いし大丈夫だと思う」


 王都で買った本によると、魔力や瘴気によって生まれる迷宮ダンジョンは、生息する魔物の強さや罠の多さ、広さといった構造の複雑さも魔力の濃度である程度だが察知することが出来る。

 ここはアルフォスさんたちと入った迷宮ダンジョンと魔力の強さは大差無い印象だ。


「少し回ってみてから途中で引き返すか決めようか。マッピングもお願いね」

「分かりましたわ。……どちらにいきますの?」


 何も目印のようなものもない。適当でいいだろう。


「左かな?」

「ではこちらに進みましょう。罠があるかもしれませんので、わたくしの前には出ないように気をつけてくださいませ」


 リルファナは、ゲーム時代に忍者クノイチからトリックスターへ転職したので罠を察知する能力も持っている。


 リルファナを先頭に左の通路を進むと、最初と同じようなドーム状の広場に出た。天井が明るく、通路の先は暗いのも同じだ。


 再び奥へと左右に通路が延びているが、右は数歩先は行き止まりになっている。

 行き止まりの壁はうっすらと透けていて、向こう側にも通路があることが見えていた。


「この壁は簡単には壊せない気がしますわ」


 行き止まりの壁を調べていたリルファナが宣言した。

 魔法剣、いや魔法ツルハシでの破壊は無理か。


 魔法ツルハシを使うと壊してしまうことになるし、今の時点で無理に壊そうとする必要もないだろうと更に左へと進んだ。


「また同じような構造ですが、壁が違いますわね」

「リルファナちゃん、これサクラダイトじゃない?」

「ええ、この部屋では香りが強いですわ。通路では全く匂いませんでしたのに」


 3つ目の部屋も同じドーム状の広場。しかし壁の石質が桃色がかっていて、桜の香りがする。

 さきほど掘っていたサクラダイトだろう。先に見つけていればここで採掘できたかもしれない。


 広場から延びる通路は戻る道と、右奥へ進む道だけだ。


 リルファナの書いている地図を見ると、全体図ではひし形の線上を歩いているような形になっているみたい。

 反対側も同じなら、ひし形の頂点とその間が広場になっているのだろう。透明な壁があったのは中心に向かう道だろうか。


 次の広場に入ると青い壁で覆われていた。

 予想通り右奥へ通路が延びている。


 そしてひし形の中心方向へは石造りの跳ね橋があるようだ。橋が上がっているので向こう側は見えない。


 迷宮ダンジョンはゲーム的な構造になることも多い場所で、「なぜこんな場所に跳ね橋が」と現実感リアリティを求めてはいけないようだ。

 というよりも、わたしやリルファナにとっては変だと思っても、この世界(ヴィルトアーリ)ではこれが現実なのである。


 そもそも、セブクロの迷宮ダンジョンでも、時々だが世界観を無視したものがあったので気にしてはいけない。

 あえて言うならばファンタジーだからということだろう。


「すごい色だね、お姉ちゃん!」

「あ、これラピスラズリだ」


 クレアが壁の色を見て驚いている。


 何だろうと思った途端、ラピスラズリだと理解した。鍛冶スキルか彫金スキル辺りの効果だろうか。

 町で叩き売りされているクズ宝石にスキルが反応しないことを考えると、純度の高い原石である可能性が高そうだ。


 セブクロでは、ラピスラズリを魔法付与エンチャントの素材にすると、状態異常耐性が付いた覚えがある。


魔法付与エンチャント用に持って帰りたいけど、採掘できるかな?」

「待ってくださいまし、何か来ますわ」


 リルファナが警告した途端、通路の奥からどしんどしんと重い音が響いてくる。


 やってくる相手が友好的とも限らないし、強さも分からない。

 霊銀ミスリルの剣を構えて待っていると、2メートルほどの人型をした岩がのそりと広場へと入ってきた。


「ロックゴーレムですわ!」


 ロックゴーレムはわたしたちを見つけると、一瞬驚いたかのように止まったが、戦闘体勢をとった。

 本来、ロックゴーレムは人を見かけても自分から襲ってはこない。迷宮ダンジョンに生息する魔物は好戦的になるそうだが、ここも例外ではないみたい。


「火と土魔法は効きにくいよ!」

「うん!」


 強化バフ魔法をかけて剣を片手に突っ込んだ。


 ほとんどのゴーレム種は見たままの鈍足型のパワータイプ。

 レベルもまあまあ高いので、ラッキーパンチを食らう前に早く倒してしまった方が良い。


防御値弱化モッレ!」


 クレアが防御力を下げる弱体化デバフ魔法をロックゴーレムにかけた。


 王都の魔法研究所で薦められて購入した本には、いくつかの弱体化デバフ魔法が載っていたらしい。

 ガルディアに戻ってから錬金術を上げていたのに、すでに使いこなせるようになっているとは思わなかった。


 弱体化デバフ魔法は抵抗されてしまうと全く効果が無いが、似た強化バフ魔法より少しだけ効果が高いのが特徴だ。


風剣ヴェント・スパーダ


 ゴーレムは硬いので最初から魔法剣を発動させた。


石弾ピエトラ・パッラ

風刃ヴェント・ラーマ


 リルファナが二重詠唱でロックゴーレムに攻撃を加える。

 ロックゴーレムは土や石から出来ているため土属性の耐性が高く、トリックスターの反属性の魔法は無駄撃ちになりやすい。


 それでも風の刃がロックゴーレムの腕を浅く切り裂き、飛来する石のつぶてが動きを鈍らせる。


 礫の陰に隠れるように真っ直ぐ進む。


 リルファナの風の刃が傷つけた右腕を狙って斬りつけた。


 思ったような手ごたえもなく、あっさりとロックゴーレムの右腕が断ち切れ、落ちる。

 返す刀で右足を狙って落とす。


 右半身の手足が無くなり、体勢の崩れたロックゴーレムは右半身側へと崩れて、そのまま動かなくなってしまった


「うーん、手ごたえが石じゃなかったような?」

「どうやら泥で出来たゴーレムのようですわね。薄暗いですし、乾いてしまってよく分かりませんでしたわ」

 

 どうやらロックゴーレムではなく、マッドゴーレムだったみたい。

 材質が違うので耐久性などは違うが、ゴーレムの機能としては特に違いも無い。


 しばらく広場で様子を見ていたが、追加のゴーレムが続いてくるようなこともなさそうだ。


 ツルハシを使ってラピスラズリを採掘してから奥へと進むことにした。


「これだけあれば大丈夫かな」

「これだけでいいの? お姉ちゃん」

「まだこの先に別の鉱石があるかもしれないからね」


 一抱えほどのラピスラズリの塊が3つほど取れた。


 この広場は一面がラピスラズリの壁だ。必要があればまだいくらでも採掘出来る。

 しかし、粉にする魔法付与エンチャントや、少量しか使わない彫金なら十分持つだろう。村で必要なら買い取ってもらおうと少し多めに取ったぐらいだ。


「うーん、特に何もありませんわ」


 跳ね橋を下ろすための機構が無いかと、跳ね橋の周辺を調べていたリルファナにも分からないらしい。

 この広場以外の場所に何かあるのかな。


「奥へ行ってみようか。地図だと次の広場には何かありそうだよね」

「そうですわね」

「お姉ちゃん、リルファナちゃん、そうなの?」


 予想通りのひし形の構造だとしたら、次の広場は入ってきた場所から丁度最奥となる広場だ。

 先へ続いているにしろ何かあるだろうということは予想が付くが、クレアにはそのような発想が無いみたい。


 ゲーム的な思考の有無の違いなのだろうな。


 油断は禁物だがゴーレムも弱かったし、ここは難易度の低い迷宮ダンジョンだと思う。


 次の広場で迷宮の広さがある程度は予測出来るだろう。

 のんびり岩場まで歩いてきたこともあり、トレンマ村まで戻る時間を考えると、そこで1度引き返すべきかもしれない。


 とりあえずトレンマ村で1泊するのは確定だなと、わたしたちは奥の通路を進む。


 次の広場は水晶のような透明な壁になっていた。

 奥へ進む道は見えず、進んできた通路とは逆側へに、1周して入口まで戻れそうな道が続いている。


「奥の壁の辺りに何かが複数いるようですが、何も見えませんわね」

「うーん、何もいないよ、リルファナちゃん」

「隠れてるのかな?」


 広場の中ならば見渡せるぐらいの明るさはあるが何も見えない。

 少し進んでみても何も姿は現さないようだ。


「そこですわ!」


 リルファナが何も無い壁に向かってくないを投擲する。

 何も無いはずの空間にくないが突き刺さり、血が飛び散った。


 どさっと虹色をした大きなトカゲが落ちる。


「カメレオントカゲ!」


 カメレオンなのかトカゲなのかよく分からない名称だが、見た目は虹色に輝く鱗を持ったオオトカゲで、周囲の風景に溶け込むことが出来る魔物だ。


 カメレオントカゲから襲ってくることは無く、クエストで見つけるのが大変だった覚えがある。

 セブクロでは経験値が少し多い低レベル帯のボーナスモンスターのような存在だったはずだ。


 能力で擬態している間は動けず、遠隔攻撃も持っていない。

 大体の方向が分かるリルファナがいれば問題なく対処出来るだろう。


氷針ギャッチ・アーゴ!」


 クレアが何も無い空間に魔法を放つと、オオトカゲが落ちてきた。


「お姉ちゃん、リルファナちゃん、魔力で場所が分かるよ!」


 クレアが叫んだ。


 どれどれと魔力を認識するように意識する。

 集中するとクレアの言う通り、何箇所かもやもやとした魔力を感じ取ることが出来た。


 視覚を惑わすことが出来るが、魔力までは隠していないのか。

 それとも魔法で擬態しているのかな?


風刃ヴェント・ラーマ!」


 魔力のある方向へ魔法を放ったが、手ごたえ無し。

 避けられたのなら避けたカメレオントカゲが見えるはずなので、最初からいなかったようだ。


 魔力で認識するのって難しい……。



 水晶には5匹のカメレオントカゲが張り付いていたようだ。

 カメレオントカゲは地面に落ちている。トカゲの魔力はもう感じない。


 クレアが3匹を魔法で、残りの2匹をリルファナがくないによる遠隔攻撃で落としていた。


 わたし? 察して!


「まだ何かいますわよ。カメレオントカゲがいたせいか最初は分かりませんでしたが、もっと大きいですわ」


 3人で警戒して水晶の壁を見ていると、びしっという水晶の割れるような音が響いた。


「リルファナちゃん、中から何か出てくる?」

「いえ、これは……」


 水晶の一部が分離していくと、ぐるぐると大きく両腕をまわした。


 ……割れて分離した水晶は角ばった人型をしていたのである。


「クリスタルゴーレム!」

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