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来客

 翌朝、目が覚めると、腕と腿に痛みが走った。

 起き上がろうとしたが、痛みでベッドに突っ伏してしまう。


「いたたた」

「ただの筋肉痛ですわね」


 薬剤師スキルを使うことで、簡易的なことなら医者の真似事も出来るリルファナが、あちこち診てくれた後に断言した。


 今まで1日中歩いても平気だったのに、鐘1つ分(3時間)ぐらいの訓練でここまでなるものだろうか?


加速アツェレの連続使用のせいですわ。あれは身体への負荷が強いですの」

「そうだったんだ……」

「お姉ちゃん、癒し(グアリジョーネ)をかけようか?」

「魔法で無理やり治すより自然治癒の方が良いですわよ」


 筋肉痛は、筋肉がより強くなるときに起こる現象である。

 これを魔法で急速に回復させてしまうと、あまり筋力がつかないまま回復してしまうらしい。筋トレなどの効果が完全に無くなるわけでもないようだけど。


「あれ? 訓練後にも回復して貰ったけど、なんで筋肉痛になるんだろう?」

「きっちりと解明されているわけではありませんが、痛みが無い状態ではあくまでも身体の成長過程であり、有害な怪我とみなされないからという説がありますわね」

「むう。とりあえず今日は大人しくしてるよ……」


 魔法も万能ではないということか。

 どうせなので読みかけの小説の続きでも読もうかな。


 午前中、2人は家事を済ませて生産スキルを上げていたようだ。

 クレアは午後、図書館に出かけていた。夕飯時に聞いた話では古代文明についての調査を続けているらしい。



 翌日になると筋肉痛もほぼ治っていた。

 あれだけ酷い痛みだと2日か3日はかかるかと覚悟していたのだけど、冒険者をやっていて身体が鍛えられているせいなのだろうか。


 これからは、加速アツェレの負荷に耐えられるように筋トレついでに練習しておかないといけないだろう。


 明日、日帰りで出来そうな採取依頼を行う予定なので、今日は無理をせず庭で剣を軽く振っていた。

 クレアも横で棒術の練習をしている。


 リルファナは「もう少しで何か掴めそうですわ」と言って、木工に取り組んでいるので家の中だ。


 一昨日の訓練では魔法禁止というルールだったので、クレアはあまり参加出来なかった。

 次があったら棒術で頑張るつもりなのだろう。張り切って杖を振り回しているが、なかなか様になってきている。


 近くの木からピィという鳴き声が聞こえた。


 探してみると庭の木に青い小鳥が止まっている。ここの庭は殺風景なせいか、あまり小動物が庭に来ることはないので珍しい。

 剣を振るのを止めたからか、青い小鳥はわたしの方へ飛んでくると頭の上に着地した。


 わたしの頭の上に乗ってくる生物、多くない?


「珍しい鳥だね」


 クレアがわたしの頭に止まった青い鳥を見て呟いた。

 逃げそうにないので、わたしはひょいと両手で鳥を掴んで下ろした。


「鳥ではないぞ、クレアよ」

「え、しゃべった!」


 一瞬輝いたかと思うと、一抱えほどの大きさの青い鱗の竜に変化する。


 竜の鱗には羽毛も生えているようで抱えているとふわふわとした感触がある。手触りが良い。

 二頭身にデフォルメされた竜のぬいぐるみみたいだ。セブクロでは幼竜プチドラゴンがこんな感じだった覚えがある。


「……ネーヴァ?」

「うむ。鳥の姿でなら町に近付いても問題無かろうとな」

「珍しい色の鳥だから捕まえようとする人がいるかもしれないよ?」

「能力は変わらぬから、そう簡単には捕まらんよ」


 反撃を食らうかもしれない人の方が心配なんだけどな。

 まあ、そうなっても自業自得か。


 ネーヴァを抱えたまま家に入ると、休憩中のリルファナがお茶を飲んでいた。


「あら、ネーヴァ様! 小さくもなれるんですのね!」

「うむ。友達になったと言っても、よく考えたらミーナたちから遊びに来ることは出来ないと思ったのでな。ラミィはおらぬのか?」

「ラミィ様は一緒に住んでいませんの。町の洋服屋さんのオーナーですわ」

「そうか……」


 ネーヴァががっかりしたような声を出した。


「ネーヴァ様は人型にはなれませんの? そうすれば一緒に行けますわよ」

「その手があったか!」


 ネーヴァはわたしの手から床へ降りると一瞬輝いた。

 ……が、すぐに止まってしまった。


「旧友にあまり人型にはなるなと言われていたのであった……」


 旧友というと、古代文明の女王のことだろう。

 女王様が止めたってどういうことだろう?


「何か問題でもあったの?」

「ええと、なんと言われたんだったかな……」


 ネーヴァは天井を見上げて昔を思い出そうとしている。


「見た目の問題?」

「いや、旧友とお忍びで町に出かけたこともあるぞ」

「うーん。なんだろう」


 町にこっそりと出かけても、見分けがつかないのなら禁止する必要はないと思うんだけどな。


「大きさとかの問題じゃないなら、誰もいないし変わってみたらいいんじゃないかな?」


 クレアがそう提案する。このまま悩んでいても仕方ない。


「うむ、そうしよう」


 ネーヴァが鳥から幼竜プチドラゴンになったときのように輝く。


 目の前には肩にかかる青髪、釣り目気味の美少女が立っていた。活発系といった印象だ。

 背丈はクレアより少し小さいぐらいだろうか、全く人間と区別が付かない。


「どうだ?」


 人間の声帯を得たおかげか、声も変化していて見た目にふさわしい可愛い声となっている。


 それを見たわたしたち3人は問題をすぐに理解し、行動に移った。

 窓際に走り、カーテンを閉めたのだ。


 人型への変身後に服を着てないのが問題だったようだ……。


 とりあえず背格好の近いクレアの服を着せることにした。少し大きいが仕方ない。


「そういえば、服を用意したところで人型になれと言われていたのを思い出したぞ」


 もう少し早く言って欲しかったのだが、服を着る習慣が無いから無理か。


「ネーヴァちゃんって女の子だったの?」

「そうだぞ! 分からなかったのか?」

「人間が竜の性別を見分けるのは難しいと思うよ」

「ふむ、そんなものか」


 ネーヴァはソファに座ると、リルファナの入れたお茶を飲んでいた。

 そのよどみない動作から、人型だから動きにくいなどいった問題は無さそうだ。


 ラミィさんの店に行くなら、ついでに服を買えるから丁度良いかな。



 ネーヴァにとっては人の町には珍しい物が多いのだろう。

 ラミィさんの店に着くまでにも、あれこれ質問された。特に魔導機というものの存在は完全に知らなかったようだ。


 ネーヴァはすぐに気になった方向へ行こうとするので、途中からクレアが手を引いていた。


「いらっしゃいませー」

「こんにちは」

「あらー、ミーナさんたちじゃないですかー。この間の素材で作った新作も少し並べましたよー」


 まだ午前の早い時間だからか、他に客はいないようだった。


「んー?」


 ラミィさんがネーヴァに向かって怪訝な顔をしている。


「あー、ネーヴァさんじゃないですかー!」


 何で分かったんだろう?


「うむ、分かる人には分かるのだな」

「精霊さんたちが教えてくれるのですー」


 精霊使いの能力みたいなものかな?

 古竜の魔力が強すぎるので、精霊にはばればれなのかもしれないけど。


「ラミィさんに会いたそうだったから一緒に来ました。ついでに服が無いから見繕ってあげようかと思って」

「分かりましたー。今日は私からのプレゼントにしますねー」


 ラミィさんはネーヴァを連れて店の試着室の方に向かって行った。奥の部屋ではないのね。


 しばらく商品を見ながら待っていると、桃色を多めに使ったワンピース姿のネーヴァが試着室から出てきた。

 貴族の令嬢と言われても納得してしまう姿だ。


「ネーヴァちゃん、可愛い!」

「うむ、そうか」


 古竜にちゃん付け……。

 本人は気にしていない、というより嬉しそうである。


 腰に両手を当てたり、様々なアイドルポーズまでとっている。どこで覚えたんだ。


 服があるのは良いのだが、問題点として他の動物に変身したりするときには、わざわざ服を置いておく場所で行う必要が出てくる。

 また町に来るときは、服のある場所に来ないといけないというのも面倒そうだ。


「そうだな。旧友には部屋を用意して貰っていたのだが……」

「んー? ネーヴァさんなら魔法でどうにか出来そうですけどー」

「そうなのか? ラミィよ、どうすれば良いのか教えて欲しい」


 どうやら収納魔法のような魔法があるらしい。

 変身時に魔力で作った収納場所にしまい、人に変身するときだけそこから服を着た状態にするのだとか。


 人にとって収納魔法を維持することは難易度が高く、基本的には無理だそうだ。

 しかし、古竜ほどの魔力量と魔力操作の技術を持っていれば、衣服ぐらいなら意識せずに出し入れ出来るだろうということだ。


 それを聞いたネーヴァは、何度か幼竜プチドラゴンと美少女の格好へと変身を繰り返して確認している。

 ちゃんと人間の格好になったときには服を着たままだ。


「なるほどな。こんな簡単な方法があるとは……」


 ネーヴァは納得しているが魔力操作を見ていると、わたしたちには到底真似出来ないことを確信してしまうほどだった。

 魔法次元アストラル的には、収納している衣服はどうなっているのだろうかと、疑問が浮かんだが確認する方法は無い。


 いくつかネーヴァの予備の服や、自分たちの服も選んでいると午前4(正午)の鐘がなった。

 昼食をどうしようかと相談した結果、『がるでぃあ食堂』で取ることに決まる。


「店が混むのはまだ先なのでー」


 ラミィさんも一緒にということで、店の扉に『休憩中』の札を出して鍵をかけて向かった。



「やっぱりご飯は誰かと食べる方が美味しいですー」


 昼食後、ラミィさんと別れるときネーヴァが鱗を渡していた。


 どうやらネーヴァが渡した相手が鱗を持っていると、ネーヴァにはどの方向のどのぐらいの距離にいるかぼんやりと分かるらしい。

 たくさん渡した相手がいると分からなくならないのかなと思ったが、有効期限や使用制限もあるようだ。


 わたしたちが王都を出たのがすぐ分かったのもそのせいだろう。


 夕方ぐらいまで、ガルディアの町を案内しつつ家に帰った。


「ネーヴァは泊まっていく?」

「ミーナたちが良ければそうしよう」


 夕飯にはレダさんも帰って来たが、忙しいらしく夕飯を食べたらすぐギルドに戻ってしまった。


「イレギュラーなことが起きて調査中さね。あたしはすぐギルドに戻るけど、ネーヴァちゃんはゆっくりしていってね」

「うむ。ありがとう」


 お風呂を済ませて部屋に戻るとクレア、リルファナ、ネーヴァの3人でボードゲームを遊んでいたので混ぜてもらう。

 知力も高い古竜だけあって理解が早くとても強い……。


「人の作る遊びもなかなか面白いものだな」


 ネーヴァはボードゲームに歓心していた。ゲーマーが増えた瞬間である。


 翌朝、ネーヴァは霧の山脈(ネヴィアモンターニャ)へと帰っていったが、その際にクレアとリルファナにも鱗を渡していた。


 帰りは町に来たときとは逆に1度小鳥の姿で森まで飛んで、そこから青竜に戻るらしい。


「加工して武器や装飾品などにしても構わぬぞ。それなりの物になるだろう」


 本人はそれなりと言っているが、セブクロでの竜の装備はかなり強い部類だ。

 ただ鱗の枚数が少ないから装飾品にしか出来ないかな。彫金スキルでどうにかなりそうな気もするので、フェルド村に帰ったときにでも試してみよう。


 ネーヴァには、わたしたちは明日からはしばらく町にいないかもしれないことと、わたしたちがいなくてもラミィさんの店に行ってみると良いと伝えておく。


「じゃあ、ギルドに行こうか」

「うん!」

「分かりましたわ」


 今日は、何か面白そうな依頼はあるかな?

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