表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/265

【クレア視点】私のお姉ちゃん

 わたしはクレア。

 フェルド村に住む13歳の村娘。家族はお父さんとお母さんとお姉ちゃんの4人暮らしだ。


 お姉ちゃんがふらふらと森の方へ歩いていったのを見たと聞いて、また倒れるかもしれないと探しにいった。

 お姉ちゃんはいつも、北の森のお気に入りの場所で昼寝をしていることが多いのだ。


 こっそりと探しに行くと思った通り、お姉ちゃんは石柱の並んだ遺跡のようなところで昼寝をしていた。


 何故か挙動不審だったお姉ちゃんを問い詰めると、たまたま廃墟を見つけたと言い出した。

 お姉ちゃんの表情は分かりやす過ぎると思う。


 父さんの冒険者時代の活躍を聞いていた私は、そこを見てみたくなり、お姉ちゃんに無理を言って冒険してみることになった。


 あっさりと魔法陣に魔力を流すお姉ちゃんを見て唖然とした。そんな簡単に出来るものじゃないって聞いたのだけどな。

 お姉ちゃんに言われて、念のため1人で帰れるようにって試したら、たしかにそんなに難しくはなかった。


 最初は危険も無く、途中で金貨を見つけた私たちは上機嫌で探索を続ける。

 でも、そろそろ帰らないと暗くなってしまう時間になってしまったので、もう1部屋だけ調べて帰ろうと決めた。


 ――やめておけば良かった。


 その最後にするはずだった部屋で、とても怖い魔物に襲われた。


 今まではお姉ちゃんが前に立っていたのだけど、金貨を見つけた興奮や、そろそろ帰らなければいけないという焦りから私がさっさと前に出てしまったのだ。

 お姉ちゃんの真似をして、扉に耳を当てる。音がしなかったから扉を開いて、部屋を見回して入った。


 お姉ちゃんに突然引っ張られて、しりもちをついてしまった。

 その瞬間、部屋にあった彫像が跳んできて、今まで私が立っていたところを攻撃したのだ。それを見た途端、とても怖くなって動けなくなった。


 彫像は私を守ったお姉ちゃんを攻撃し続けた。お姉ちゃんはそれを軽々と避けるけれど、持ってる武器が木剣で、彫像を殴っても全然効いていないみたい。


「ちょっとずつでも良いから下がって!」


 と言われ、お姉ちゃんの邪魔にならないように床を這ってでも下がることにした。


 なんとか聖堂の扉までたどり着き、振り返ってお姉ちゃんを確認する。

 彫像の鋭い攻撃が当たって、お姉ちゃんのお腹から血がたくさん跳ね飛んだのが見えた。


「お姉ちゃん!」


 声をかけても、良いから下がれとしか言われなかった。

 私のせいでお姉ちゃんが大変なのに、私には出来ることが無い、そう思うと悲しくなった。


 ……そうだ私には回復魔法がある。


 お姉ちゃんは森に行くとたまに擦り傷だらけで帰ってくるから心配だと、シスターに頼み込んで教えてもらったんだ。何とか使えるようになったのはまだ3日前。接触して使ったほうが効果は高いと聞いているけど、遠くからかけるだけでもお姉ちゃんの助けになるかもしれない。


 お姉ちゃんが引きつけているならあの怖い魔物は無視していい。お姉ちゃんを信じて私は集中し魔力を練りはじめた。


 魔法をかけようと集中しているから分かる、突然、お姉ちゃんの気配が変わった。


 研ぎ澄まされた風の魔力。


 それがお姉ちゃんの握る木剣に流されていく。


「『風剣ヴェント・スパーダ』!」


 木剣で彫像を斬った!


 どういうことなんだろう。


「クレアには指一本触れさせないんだからね!」


 トドメとばかりに彫像に追撃し、彫像は上下に真っ二つになった。


 彫像はもう動かない。


 途端にお姉ちゃんが青い顔で座り込んでしまった。やっぱり怪我が酷かったんだ!


「お姉ちゃん!」


 駆け寄って練り上げた魔力を全部使って『癒し(グアリジョーネ)』の魔法をお姉ちゃんにかけ続けた。

 光の魔力が溢れる部屋だからか、覚えたばかりの回復魔法でも効果が強く出ていることに気付いた。


 多少は痛みがひいたのか、お姉ちゃんが何やら言い出して、真っ赤な顔になって、そのまま眠ってしまった。傷が深いところに回復魔法をかけたから体力を消耗したのだろう。


 ……さっきの戦いはお姉ちゃんが男の人だったら惚れてたと思う。それぐらいかっこよかった。


 しばらく警戒してお姉ちゃんの横に座っていたけど、これ以上何か起こるような気配は無かった。

 光の魔力は魔除けや加護の力が強い。この部屋は光の魔力に溢れているから、さっきみたいにこちらから変なことをしなければ危険はないはずだ。


 彫像の魔物を見ていると、何かが光った気がした。近寄ってしゃがんでみると青いガラス玉が落ちていた。

 多分、魔物が落としたアイテムだ。拾っておいた方が良いよね。


 そういえば、お姉ちゃんはこの魔物を『リビングスタチュー』と言っていたけど、なんで知ってたんだろう。どこかでこっそり勉強してるのかな?


 しばらくするとお姉ちゃんが起きたので、家に帰ることにした。


 家に着くと、お父さんとお母さんが心配して探しに出て来るタイミングだった。


 そのままご飯を食べながら、お父さんに色々聞かれたから素直に答える。

 お姉ちゃんが怪我しているせいもあったのか、お父さんもお母さんも怒ることは無かった。


 お姉ちゃんが、拭くだけじゃ血が落ちないってぶつぶつ言いながら身体を拭いてたら、お父さんがお風呂に水を汲んで湯を沸かしてくれた。


 その日は、何だか怖くなって、お姉ちゃんの寝ているベッドにこっそり入る。

 すぐにばれたけど、ぎゅって抱きしめてくれた。


 魔力の消費も多かったせいか、安心してすぐに眠ってしまった。


 ――翌日


 目が覚めるともうお昼だった。魔力を使いすぎたんだと思う。

 教会に行くための準備していたら、お姉ちゃんがまた何か悪巧みしてそうな顔をしている。紙とペンを取り出して何か書き始めたようだ。


 真剣そうに黙々と作業をしているお姉ちゃんは女の私でもハッとするほどの美人なんだよね。


 村の男の子も、お姉ちゃんが通ると手が止まってることがあるのを私は知っている。

 でも、見惚れていたのが恥ずかしいからって、お姉ちゃんを避けてるように見える行動をするのはやめてほしい。わざわざお姉ちゃんには教えてあげないけどね。


 お姉ちゃんが、何をしているのかは分からないけれど、今日はずっと見張っているわけにはいかない。


 私は教会へ急いだ。


 教会に今のシスターが来てからは、毎週、村の子供達に勉強や魔法を教えるようになった。

 午前中は小さい子に読み書きや計算を教えていて、午後は魔法の勉強だ。希望者が集まり、色々と教えてもらう。それが終わると勉強で分からなかったところや、もっと教えてもらいたいことがある生徒が残るという流れが出来上がっていた。


 昨日のことを考えると、攻撃魔法を教えてほしかったけれど子供に扱わせるのは危険なので、この村の教会では勝手に教えて良い内容ではないらしい。残念だが決まりだったら仕方ない。


 基本的な勉強会は週1回と決められているけど、やる気がある生徒はシスターの空いてる時間に勉強に来ても良いことになっている。

 シスターの都合の良い時間は教会に書かれているので、今週の勉強時間がいつもと変わらないことを確認してから帰った。


 夕方、勉強が終わって家に帰ると、お姉ちゃんが珍しく家にいてお母さんと料理をしていた。

 大怪我してたんだから今日は出かけるなとか言われたのかな?


「あ、お帰り。今日はわたしがご飯を作ったんだよ!」

「何だか珍しい料理ね。商人さんにでも聞いたの?」


 お母さんも知らない料理を作ったらしい。


 ふふん。と自慢げな顔のお姉ちゃん。美人の顔が崩れているけれど愛嬌があって可愛い。お母さんが言うには私も自信があるときは似たような顔をするらしい。

 さすが姉妹ねなんて言われた。普段はめんどくさそうにしている割にやろうと思えば何でも出来るお姉ちゃんに似ているところがあってちょっと嬉しかった。


 ……あ、お姉ちゃんの裁縫は別だよ。


 見てるだけで胃に穴が開きそうな手つきなんだ。なんであれで手を刺さないんだろう?


 夕飯はコメにスパイスの効いたスープをかけた料理。

 辛いのに、どんどん食べちゃう美味しさだった。コメだけじゃなくて薄く焼いたパンにつけても美味しいんだって。


 なんて名前の料理なのか聞いたら、お姉ちゃんは少し悩んで『カレーモドキ』って言ってた。


 お父さんもお母さんも気に入ったらしい。

 これならレシピを聞いたお母さんがたまに作ってくれそうだ。


 ……お姉ちゃんは気まぐれだから期待できない。


 その夜は自分のベッドに入ったけど、なかなか眠れなかった。


 今はまだ何も言わないけれど、お姉ちゃんは成人したら冒険者になると言って村を出て町に行くと思ってる。

 こっそり聞いたらお父さんもお母さんもそう思っていて、本当にお姉ちゃんがそう言い出したら快く送り出すつもりらしい。


 私も来年の秋には成人だ。

 私もお姉ちゃんについて行きたいから冒険者になると言えば、お父さんもお母さんも多分許してくれると思う。そのために回復魔法も頑張って覚えたんだ。


 ……昨日まではそう思ってた。


 でも、いざ魔物と戦うことになったら私は何も出来なかった。

 

 それでもお姉ちゃんは優しいから、私がついて行きたいと言えば一緒にいてくれるだろう。


 でも、また同じことが起こったら?


 私のせいでお姉ちゃんが死んじゃって、私だけが生き残ったら一生後悔していくと思う。


 ちらりとお姉ちゃんの方を見ると、何だかいつもよりお姉ちゃんが向こう側にいるような気がする。

 これは今の私の心の距離なのかなと寂しくなったけれど、昨日お姉ちゃんのベッドに入ったから、今日も入って来るかもしれないとスペースを空けておいてくれているんだと気付いた。


 一瞬迷ったものの、今日もこっそりとお姉ちゃんのベッドに潜り込んだ。気付いたお姉ちゃんが、昨日みたいにぎゅってしてくれた。


「ねえ、お姉ちゃん」

「んー?」

「私は強くなれるかな?」

「ええ、まだまだこれからでしょ」


 なんてこともないようにお姉ちゃんは答えた。

 1人でうじうじ迷うのも馬鹿らしくなるほどの即答だった。


 冒険者になるかはまだ決められないけれど、何を選んでも良いように明日からまた頑張ろうと思った。私はその言葉に安心して目を閉じた。


 ――ミーナお姉ちゃんは私の自慢のお姉ちゃんなのです。

ここでプロローグからの一区切りとなります。

気に入って頂けましたらブクマなどよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ