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青竜

 王都では色々な素材を買うことが出来た。

 大金貨1枚ぐらい使ってしまったので、ラミィさんの護衛依頼の報酬では大赤字だ。


 観光や今後の生産スキル上げのためと考えよう。


「これだけお願いしますねー」


 出発の前日、ラミィさんの荷物をマジックバッグに入れる。

 王都に来るときに採取した素材が加工された状態となっていた。


「それと報酬に少し上乗せしますので、クロコダイルを狩って帰りたいのですが良いでしょうかー? 他の材料がたくさん取れたので革が不足しそうでしてー」

「構いませんよ」

「分かりましたわ」

「はーいー」


 川沿いを帰る形になるようだが、ついでなら別に構わないだろう。

 クレアの返事の癖が直っていない。


 ……あれ、町での観光中は普通だったよね。ラミィさん専用の返事?



「再来月には私もガルディアに戻る予定よ。レダの家にいるなら近いし是非遊びにきてね」


 早朝、ティネスさんと執事さんに見送られてハウリング伯の家を出た。


「今日は川まで移動して1泊ですー。明日からはクロコダイルを探しながら南下しますー」


 旅人の交差路まで戻り、そこから道をはずれ草原を南西へ進む。

 川の近くでテントを張って1泊し、この川に沿いながら南下する予定だ。


 ここは前に足長蟹ロングレッグクラブを狩った川の上流となる。この辺りは川幅が狭く流れが急になっていた。

 クロコダイルは川の流れが緩やかな場所にいることが多いらしい。


 ティネスさんがお昼と夕飯分のお弁当を用意してくれたので、今日は料理は無しで済んだ。


 特に何事も無く1泊し、川に沿って南へ歩き出す。

 今日は野外フィールドなので他人の目も無いだろう、1本は霊銀ミスリルの剣を腰に吊るしている。


「この先に何かいますわ」


 午後、おやつの時間も過ぎた頃だろうか。

 リルファナの言葉に、ラミィさんが先をじっと見つめる。


「あ、あそこにいますねー」


 ラミィさんが指差した先には、大きく曲がった川辺に2匹のクロコダイルが動かずに留まっていた。


「革を使うから火はダメだね」

「そうですねー。出来れば剣か風魔法が良いですが、安全を優先してお願いしますー」


 クロコダイル、セブクロではレベル25ぐらいで、飛び掛りや噛み付き攻撃をしてくる相手だ。特に正面から攻撃したときの反撃噛み付きが、大ダメージだった覚えがある。

 それ以外は特徴も無く、正面から攻撃をしかけないように気を付けて戦えば問題無い。


 2匹いるので片方はリルファナに任せ、いつも通り強化バフ魔法をかけながらもう片方に駆け寄る。

 後ろからクレアとラミィさんの援護もあるので、火を使ってはいけないとはいえ仕留めるのも簡単だろう。


 クロコダイル相手に立ち回っていると、リルファナの方は討伐が終わったようだ。火力が高いと羨ましい。

 こちらを振り向いたのが横目で見えた。


 リルファナはわたしの後方、空を見上げて驚いた表情になっている。


「ミーナ様、竜ですわ!」


 影が差した途端、上からクロコダイルに炎の塊が降りかかる。

 クロコダイルが燃え上がり、火を消そうと転がり始めるが、すぐに動かなくなった。


 昨日見た青竜が、わたしの前にどしんと着地すると広げていた翼を閉じた。

 翼を広げれば30メートルはありそうな大きさだ。


「久しいな、友よ。いやその末裔か」


 古竜はしゃべれると知っているが、口の動きがあっていないので不思議だ。

 青竜は懐かしそうな目でこちらの発言を待っているように見える。


「こ……」

「ふむ……?」


 青竜が首をかしげた。


「こらー! 革を使うんだから燃やしちゃダメなんだよ!」



「こ、これでいいか……?」


 青竜は近くでクロコダイルを空から捕まえて戻ってきた。爪か牙で倒したようで今度は傷が付いていない。

 両手に1匹ずつ掴んだクロコダイルを恐る恐る下ろした。


「うん、これなら大丈夫そう」


 軽くチェックしたところ変な傷はついていない。


「お姉ちゃんが竜を使って狩りをしてる……」

「どういうことですの……?」

「あらー」


 後ろで3人が困惑していた。


 ……いや、ついうっかり素材を台無しにされて怒鳴っちゃったけど、わたしも困っている。


「それで、わたしたちに何か用事でも?」

「昨日懐かしい魔力を感じたものでな。町中では降りるわけにはいかなかったので、お主たちが外に出るのを待っていたのだ」

「懐かしいと言われても、わたしはあなたを知らないんだけど……」

「そうだな。人にとってはかなりの時が経っている。まさか友と間違えるほどの魔力を持った人間がいるとは思ってもみなかった」


 どうも勝手に納得されてるだけで、会話がつながっているように感じ無いのだけど。


「少し昔話をしようか」


 この青竜はネーヴァという名前の古竜のようだ。


 はるか昔の文明の女王と友になった竜で、霧の山脈(ネビアモンターニャ)住処すみかにし、その周辺の守護をしているらしい。

 といっても小さな争いや、人間同士の争いには関与しないので、滅多に人前で行動を起こすことはない。


 ネーヴァは人の歴史といった細かい部分については興味が無いようで、あまり多くのことは覚えていないみたい。

 ただ1つ、女王との最後の別れ際、この地を守って欲しいと言われたことだけは覚えているとか。


 古竜は金銀財宝と、契約や約束といった事柄について執着を示す。


 それ以来、この地の守護竜として頑張っているそうだ。大抵は人間の手に負えない危険な魔物をこっそりと片付けるぐらいだが。


 わたしは当時の女王とほぼ同じような魔力を持っていて、懐かしさの余りここまで追いかけてきてしまったらしい。

 ネーヴァによると、先祖がえりのような形で魔力が酷似しているのではないかということだ。


「青竜ネーヴァ! 名前は知っていますわ!」

「ふむ、そうか。お主にも懐かしい魔力を感じるが、はて……」


 ネーヴァはリルファナを見ると、何かを思い出そうとするかのように遠い目をした。

 しかし、首を軽く振ったところを見ると思い出せなかったようだ。


 リルファナに後から聞いたところ、ネーヴァとはセブクロのとある町の図書館で出てきた名前だと言っていた。

 セブクロの世界には、古竜の伝承はあちこちに転がっていて、リルファナは色々と情報を読んでいたみたい。


「さて、友の子孫よ」


 ネーヴァは何故かわたしに向かって首を伸ばしてきた。


 なんとなく頭を撫でれば良いのかなと思って撫でてみる。硬くて冷たい青い鱗だが、なんだか生物特有の暖かみも感じた。

 しばらくすると満足したのか、ネーヴァは頭を戻した。


「懐かしさに惹かれ来てしまったが、本当にそれだけなのだ。友の子孫よ」

「そっか。まだ半年ぐらいはガルディア付近にいるから、気が向いたら来れば良いよ」

「ガルディア……? 人が建てた要塞ではなかったか?」


 人同士の争いには関与しないという約束だから、ずっと近寄らないようにしていたみたい。

 近寄るだけで青竜が守っているようにも見えるだろうからね。


「今は戦争もしていないから普通の町だよ」

「そうか。気が向いたらまた来よう。友の子孫よ」

「それと、友の子孫じゃなくてミーナって呼んでよ」

「しかし、友から聞いた話では、気軽に名前で呼び合うのは友となった者だけだと聞いたぞ」

「なら友達でいいよ」


 ネーヴァの尻尾がぶんと振られる。喜んでるのかな?


「ならばそうしよう、ミーナよ」

「ミーナ様ばっかりずるいですわ! わたくしはリルファナですわ!」

「妹のクレアです」

「あらあらー、ネーヴァさん、ラミィですよー」


 ネーヴァの瞳が輝いた。

 友という女王が亡くなってからは、ずっと独りだったのかもしれないね。


「リルファナ、クレア、ラミィだな。覚えたぞ!」


 翼を広げると満足そうにネーヴァは北へと飛んでいった。


 ネーヴァが去った後、暗くなる前に急いでクロコダイルの解体を進める。

 ここから街道に戻るよりは、川沿いに西門へ入った方が近いということで、このままガルディアへと戻ることになった。到着は明日になるけどね。


「ネーヴァさんのおかげですぐに終わりましたー。ラッキーですー」


 そう言いながら解体を進めるラミィさんもしたたかである。


 あとでリルファナに古竜について少し聞いておこうかな?


 この日以来、青竜が南下してくることが突然増えたため、しばらくレダさんやガルディアの冒険者の仕事が増えたらしいのだけど、わたしたちが知るのは先の話だ。

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