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王都 - 魔法次元

 ティアーノさんも、見ていた研究者たちも固まってしまっている。


 水晶玉のメンテ役と言われた研究員さんは興味深そうに近寄ってくると。


「ちょっと拝見」


 わたしが粉砕してしまった水晶玉と基盤を調べ始めた。


「うーん……、十分だと思っていたけどもっと耐久性が必要か。いや、多すぎる場合は魔力を逃がす設計の方が安全かな」


 ぶつぶつと言いながら基盤をチェックしている。改良案を考え始めてしまったようだ。


「えっと……」

「おっと、失礼。おかげで良いデータが取れましたよ! 今度は壊れない物を作って見せます!」


 目を輝かせた彼の研究者魂に火が点いたことは分かる、だがそうじゃない。


 とりあえず破片を片付けるとのことで、ティアーノさんの部屋に移動することになった。

 元々見学コースもここまでとなっているらしい。


 研究者の部屋は、あちこちに書類やメモ書きが散乱しているイメージだけど、ティアーノさんの部屋は綺麗に片付いていた。

 来客用のソファに座ると、ティアーノさんがお茶を入れてくれた。


「ミーナさんは王宮勤めの魔術師以上の魔力量があるのは確実ですね。羨ましいです」


 王宮に勤めるには一定の水準以上の魔力量が必要となる。しかし、魔力量だけが魔法の全てではないのでそれだけで大事になるということも無さそうだ。

 さすがに測定用の水晶玉が破片になるほどの魔力を込めたのはわたしが始めてだそうだけど。


 魔力量があるほど魔力操作が難しくなるので、魔力量があり過ぎることで基本的な魔法が上手く使えないという人もいるらしい。

 そのような人でも制御のいらない大雑把な破壊魔法といったものなら使えるそうだけど、実生活で役立つことはほぼ無いだろう。


 わたしが魔力操作が苦手な理由も、ありあまる魔力量のせいなのかもしれない。


「それと妖精や魔法次元アストラルについてでしたね」


 ティアーノさんは本や書類を出してきて解説してくれるようだ。

 ただ、現在は専門にしている研究者がいないのでさほど詳しくないとも付け加えた。


 ティアーノさんの説明はガルディアで調べた内容とほぼ同じだったが、妖精に好かれる人間の傾向に魔力量が多いことも関係していると付け加えられた。


 また妖精は子供などの純粋な人間の前に姿を現しやすく、悪人の前には絶対に姿を現さない。


 人の性格や性質によって魔力が変化し、それを見分けられるのではないかという説もあるらしい。

 こちらの説は、どこからどこまでを悪人と定義するかが難しく推測の域を出ていない。


 人間よりも多い魔力を持ち、昔は森の中に集落を作り仲間たちと質素に暮らしていたエルフが好かれる理由にもなるということだ。

 今は町で暮らすエルフも多いらしいけどね。


魔法次元アストラルは、妖精や精霊といった魔力のみで構成されている生物が活動している世界とされています」


 こちらも基礎から説明してくれたが、セブクロの世界観とほぼ同じような話だった。


 普通に存在しているものだが、人が見たり触れたり出来ない次元の1つであるという説である。

 この世界(ヴィルトアーリ)では魔法次元アストラルから魔力を取り出せることから、存在の認識だけは出来ているといった感じだろうか。


「また全く違う世界であるので研究所のあるこの場所も、魔法次元アストラルの視点で眺めれば花畑だったり荒野だったりするかもしれません。人が全く想像出来ない世界である可能性もありますね」

「あれ? 妖精の国は魔法次元アストラルにあると言われていたと思うのですが」

「妖精の国に行ったことがあり、それを証言出来る人がいないので俗説のレベルですね。昔の英雄は妖精に招待されたこともあるそうですが、何も残されていません」


 確かに妖精の国に行った証拠を出せといわれると難しいね。ゲームのように画面の撮影(スクリーンショット)で済む話でもない。


「そういえば妖精の国に行ったわけではないですが、妖精から貰ったものならありますよ。珍しいのでしょうか?」


 ふと思い出して妖精の石(フェアリーストーン)をマジックバッグから出して机の上に置いた。

 ティアーノさんが石を持ち上げて鋭い目で検討する。

 

「少なくとも私は見たことが無い石ですね。石というよりは魔力で樹脂か何かを固めたもののように見えますが」


 ティアーノさんが指先で軽く叩いているが、カンカンと金属のような音が響いた。


「魔力に耐性があり、しなやかさを備えつつも硬度があるので武器や防具にも使えそうですが、これ以上は施設の装置を使って色々とやってみないと分かりませんね」


 その他にも壊さない程度に調べてそう結論付けたようだ。


「興味もありますので、しっかり調べたいなら預かりますよ。破損してしまう可能性はありますが……」

「大切な貰い物なのでそれはちょっと」


 「ですよね」とティアーノさんは、わたしの答えを想定していたのかすぐに引いた。


 妖精の石(フェアリーストーン)魔法付与エンチャントか彫金の素材かと思っていたが、鍛冶で使えそうなら武器にするのもありなのかな?


 他にも魔法次元アストラルについて考えられていることを色々と教えてもらったが、状況的な推測も多くすぐには役立たなそうだ。


 妖精や精霊が出現するには魔力が必要なため、魔力が多いところほど目撃されているというのは使える情報かな?


「……あ、あの魔法について勉強したいんですけど何か方法はありますか」


 一区切りついたところでクレアが切り出した。


「どのような魔法が使えて、どのような勉強がしたいのですか?」


 クレアがいくつか使える魔法を伝える。冒険者向けで便利な魔法が知りたいらしい。


「うーん、そうですねえ。クレアさんは魔法の素質もありそうですし、正直なところ研究所で雇いたいレベルでもありますが、そういう話ではないですよね」

「え? あ、はい。お姉ちゃんと冒険者になりたかったので研究者はちょっと……」

「それなら研究所で出版している本がオススメですかね。初心者向けから中級者向けまであるので水の()区の図書館で読めますよ。販売している本屋もあるので教えておきますね」


 クレアの力量に合わせたいくつかの本を見せて貰う。魔法をしっかり学びたい中級者向けの本が多いと言われた。

 研究所では直接本を売っていないらしく、クレアは水の()区の大通りの本屋を教えてもらっている。


 上級者向けの本を出さないのは、大規模な魔法が多く危険だからだそうだ。

 流星メテオラ吹雪ブフェラネーヴェといった広範囲魔法だからな、とセブクロを思い出す。



「また何か疑問や質問がありましたら是非来てくださいね。私も少し魔法次元アストラルについて勉強しておきます」


 どうやら次元という概念だけでもこの世界(ヴィルトアーリ)の一般の人から見ると難しいらしく、すんなりと理解したわたしは気に入られたようだ。


 ティアーノさんに見送られ研究所を出たあと、教えられた本屋でクレアが何冊か本を購入した。

 通りを歩いていると、木材や布類、鉱石、インゴット、宝石の原石といった素材を売っている店が多い。水の()区は職人の多い通りなのだろう。


 鍛冶スキルを上げたいのでインゴットより安い鉱石を少し買っていくことにする。

 今のところセブクロの知識にのっとれば、鋼の武器を作れば良いと思うので買うのは鉄だけだ。


「ミニエイナよりちょっと高いですの」

「輸送費とかも含まれるんだろうね」


 鉱石がたくさん欲しいならミニエイナに行った方が良いのだが、移動に時間がかかるので仕方ない。


 魔法付与エンチャント用に小さくて使い道が少なく安価な宝石も購入した。

 宝石名も分かるので、こちらの方がどのような効果が付くのか検証もしやすいだろう。


「こちらに武器の部品も売っていますわ」

「あ、これは作り方が分からないから買っていこう」


 ふらりと寄ったお店でリルファナが、剣や短剣の柄の部品だけが売っていることに気付いた。

 部品だけ販売しても需要はあまり無さそうだけど、わたしたちにはありがたい。


「新入りがやたら柄ばかり作ってね。売れるならまた置いておくよ」

「いつ来るかは分かりませんが、王都に来たときにまた寄らせて貰いますね」


 武器鍛冶職人なら全て自分で作るだろうし、部品だけではなかなか売れないのだろう。

 珍しい物を買っていくなという顔の店員さんに声をかけられた。


「今日は帰ろうか」

「ん」


 魔法研究所の見学は午後からと聞いたので、お昼を食べてから家を出た。そろそろ暗くなりはじめるだろう。


 それにここ3日間、久しぶりに人混みの中を歩いたせいか疲れてしまった。

 クレアも少し疲れ気味の顔をしている。



 今日の夕飯は、ずっと部屋に篭もっていたラミィさんも顔を出した。


「やっと終わりましたー。明日は北区へ素材を仕入れに行って来ますー」


 満足に一仕事終えることが出来たようでニコニコと出されたステーキを食べている。

 ラミィさんは王都在住でないせいか、区の名前を方角で呼ぶようだ。


「ミーナさんたちは観光はどうですかー?」

「広いので移動だけでくたくたです……」

「色々なお店も回れたよ!」

「北区の職人向けのお店は珍しい物が多くて面白かったですわね」


 しっかり見て回るつもりなら、大通りを見て回るだけでも1週間は欲しいところだね。


「ガルディアに戻るのは予定通りで大丈夫ですかー?」

「まだ社交シーズンの準備期間だし、2週間ぐらいなら居ても平気よ。若い子がいると家に活気もあって良いわ」

「いえ、申し出は嬉しいですが予定通りで大丈夫です」


 ティネスさんの家にいれば宿代も食事代もかからないし、手持ちのお金にも余裕はあるけど腕が鈍っちゃうよね。

 ラミィさんの護衛で、お邪魔しているだけの貴族の家で剣振ってるわけにもいかないし……。


 それに鉱石などの素材も買ったので鍛冶や魔法付与エンチャントのスキル上げも試したい。


「そうそう、ミーナちゃん魔法研究所で面白いことしたみたいね」

「何かあったんですかー?」


 紹介状書いてもらったから、伝わるだろうとは思っていたけれどもう聞いているのか……。


「あー、魔力測定器ですかー。確か王都のギルドにもあるんですよねー」


 冒険者登録する人向けに置いてあるらしい。


 わたしが王都で登録してたら確実に割ってただろう。測定は自由なようだけど断る理由もないし。


 さて、明日はティネスさんに勧められた元スラム街の方へと行ってみる予定だ。

 明後日にはガルディアへ出発となるので、町並みや孤児院辺りを軽く見て回ったら家に戻ってゆっくりしようと思う。

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