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王都ソルジュプランテ

 交差路の大きな老騎士の石像を背に、王都へと向かう。


 しばらく歩くと町を囲う石壁が見えてきた。

 ガルディアの町と同じように王都全体を囲っているようだが、規模は全く違うようで左右を見渡してもどこまで続いているのか確認出来ない。


 街道の終着点は南門となっている。冒険者や商人、貴族といった王都に立ち寄る人々は、旅人の交差路を通り南門から王都へと入るのが一般的だ。

 そのため王都の南門は非常に大きい造りとなっていた。


 町を出入りするための手続きは、ガルディアと同じようになっているようで、たくさんの窓口が並んでいる。

 どの窓口の列も数人が並んでいるが、端の方には空いている窓口もあった。


「貴族、商人と住民、冒険者と他の町からの旅人で受付が違うので注意してくださいねー」


 どうやら身分によって窓口が違うらしい。

 慣れない冒険者や旅人なども多く、兵士さんたちが列の最後尾で整列させている。


 貴族用の窓口は空いていて、商人向けの窓口は並んでいる人が多いようだ。積荷のチェックなどもされるので時間がかかるのだろう。


 ラミィさんは空いている窓口に向かって行った。


 ……あっちって貴族用じゃないの?


「私の依頼人が貴族なので、こちらから通れますー」


 道中の護衛と採取手伝いとしか聞いていなかったんだけど、ラミィさんは王都に服飾の依頼を受けてやってきたようだ。


 それならば冒険者を雇う費用も出してもらえるんじゃないだろうか。と、思っていると採取はラミィさんがついででやっていることなので、護衛費用などは出ないとのこと。

 王都まで来るだけなら乗合馬車で十分ということか。


 ……十分というよりも普通の職人ならそれ以外の選択肢が無い気もするね。


 昔は貴族専用の窓口は、貴族本人とその従者のみしか通れなかったそうだ。

 徐々に「あの常に空いている窓口って無駄じゃない?」という意見が増えて、貴族に関わっている使用人や依頼受注者も使えるようになったらしい。


 時代の流れというやつなのだろう。


 南門を抜けると王都の町並みが広がった。


「うわあ!」


 クレアが驚嘆の声をあげる。


 初めてガルディアに入ったときも都会的と思えたが、比べ物にならない。


 道が広い! 人が多い! 町の喧騒が響いている!


 お祭りを思わせるように食べ歩き出来る軽食や小物のアクセサリー、土産物まで露店も多く出ているが、これが王都では日常なのだろう。

 建物の高さは、ガルディアとさほど変わらず大きくても3階か4階建てぐらいの建物が多いようだ。


 馬車の通る車道と歩道の間には、街路樹も整備されている。


「この南門の大通りと、西門への大通りはいつもこんな感じですよー」


 南門のある区画は、火の区と呼ばれているそうだ。

 王都は東西南北に4属性の土風火水を当てはめ、貴族街を光の区、遺跡跡を利用して作った地下街を闇の区としている。


 旅人には慣れないこともあり、単純に南区でも通じるらしい。


「冒険者ギルドは南区に本店が、西区の通りに支店がありますー」


 日本の中でも大きな市に匹敵する大きさの王都だけあって、冒険者ギルドが2つあるようだ。

 ギルドに移動するだけで日が暮れてしまっては意味がないもんね。


 ラミィさんによる王都の解説を聞きながら、門の近くにある乗合馬車の乗り場から馬車に乗った。


 馬車は簡易的な雨避けの屋根がかかっているだけで、側面は支柱の部分以外は空いていて町並みもよく見える。


 人通りも多いが、馬車が行き交う通りだからか自然と馬車の通る中央の道は開けられているようだ。

 日本の道路の風景に近いかもしれない。


 ガルディアでは見かけない種族の人たちもたくさん歩いている。

 身体の一部が爬虫類の鱗のようになっている竜人族リザードマン、背が3メートル近くもある巨人族ジャイアントも見えた。


 またガルディアでは少々目立つ奴隷も、王都では多いようだ。


 主人の後ろを静かに付いて歩く者、冒険者なのだろう鎧を着込んで話しながら歩いている者、主人に言い付けられたのか1人で買物をする者などもいる。

 服も綺麗なものを着ているし、顔色も良く元気そうだ。ソルジュプランテでの奴隷の待遇は悪くないのだろう。


 とりあえずラミィさんの依頼人でもあり、わたしたちの部屋も貸してくれる貴族様に挨拶に行くらしい。


「挨拶するのに、この格好で大丈夫かな?」

「その辺りを気にする人じゃないので大丈夫ですよー」

「いきなりですわ!」


 リルファナは、貴族時代のマナーを思い出しているのか、空に向かってぶつぶつ言い始めた。


 そっとしておこう。


「宿泊先に領主様の家と書くと、ただでさえ受け手がいない依頼に人が来なくなってしまいましてー……」


 ラミィさんが黙っていたのも理由があるらしい。

 確かにそんなことが書かれていたら、この依頼は受けなかったかも。


 ……ちょっと待って。今、領主様の家って言った?。


「はい、ガルディアの領主様であるハウリング伯の家ですー」


 ハウリング伯の家は、王都の中央、光の区の南端にあるそうだ。

 伯爵は領地であるガルディアの町にいることが多いけど、社交界の時期は王都に戻っているらしい。


 変なことしたらガルディアにもいられなくなるじゃないか。微妙に胃が痛くなってきた……。



 火の()区から貴族街である光の(中央)区に入ったところに乗合馬車の乗り場があり、そこで降りて歩いて行くことになった。


 既定のルートを走っている乗合馬車は、御者さんに言えばどこでも降りられるし無料で乗ることが出来る。

 乗り場から行き先を指定して運んでもらう馬車は有料だそうだ。バスとタクシーみたいなものか。


 貴族街は小さな水路で囲まれているようで、他の区との境目には橋がかかっている。


「ここからなら、すぐそこですー」


 今まで通ってきた火の区とは違い、落ち着いた雰囲気で歩いている人にも気品を感じることが多い。


 ラミィさんは乗り場から徒歩3分ほどの家の門の前で止まった。

 左右に別棟に続く渡り廊下のようなものがあったりと大きな屋敷だが、前庭はレダさんの家の半分ほどだろうか。

 その狭い前庭も、庭師によって管理された庭園が広がっている。フランス式に似た木を刈り込んで平面図形を構成したような造りのようだ。


 チャイムになっている魔導機を押すと家から初老の執事さんが出てきた。


「ラミィ様と護衛の方ですね。お待ちしておりました」


 話は通っているようで、すんなりと中に入れてくれる。

 玄関前までは石畳が敷かれ、ドアの前は階段になっていた。


 ドアを開けると、吹き抜けの大きなホール。

 建築方式はレダさんの家と変わらない印象だ。


「奥様をお呼びしますので応接室でお待ちください」


 ホールに面した応接室に通され、お茶を出された。


 クレアも初めてガルディアを訪れたときよりは慣れたのかお茶を飲んでいる。

 ……よく見たら緊張でカップが少し震えていた。


「ラミィ! いつもよりも早かったわね!」


 しばらく待っていると奥にある別の扉から紺色の髪の、ドレスを着た女性が入ってきた。30代後半ぐらいだろうか。

 ドレス姿と言っても普段使い用なのか質素なものだ。


「ティネス様、お久しぶりですー。優秀な護衛がすぐ見つかりましたのでー」

「そう、それは良かったわね。こちらの方々?」


 ラミィさんに、ティネスと呼ばれた女性がこちらを向いた。


「クローゼ!」


 叫んだティネスさんが、わたしの前まで来ると両手を包むように持ち上げた。

 その後、はっとしてわたしの手を離す。


「いえ、ごめんなさい。昔亡くした親友に似ていたもので勘違いしたわ」

「あー、ミーナさんて誰かに似ていると思っていましたがクローゼ様でしたかー」

「ミーナ……。そう、ミーナちゃんって言うのね。私はガルディアの領主の第一夫人、ティネス・ハウリングよ」


 どうやら、ラミィさんもわたしに似ている人を知っているようだ。

 ティネスさんは、わたしの名前を聞いて何かに気付いたような素振りだったが、特に何も言わなかった。


 ……本来のミーナの母親も貴族らしいから、歳も近そうだし知り合いだったのかもしれないね。


 わたしたちも自己紹介すると、ティネスさんは微笑んだ。


「ラミィの護衛なら、しばらく泊まっていくのでしょう。お話も聞きたいし皆様もゆっくりしていってね」

「はい、ありがとうございます」

「私はここでしばらくお仕事ですので、皆さんは自由にしていてくださいー」


 ラミィさんの仕事は、ティネスさんのドレス製作とのことだ。

 これから5月から7月にかけては貴族の社交期となる季節だそうで、サイズや流行にあわせた調整をするらしい。次期のドレスの話し合いなどもあるようだ。


 ティネスさんのドレスの調整や打ち合わせは2日ほどで済ませ、その後は王都でしか買えない物などの仕入れに行く。そのため、依頼での王都滞在が3日以上となっていたみたい。


 ラミィさんの仕事内容の確認をすると、わたしたちは家政婦メイドさんに客室へと案内された。


 1階の別棟にある客室で、ベッドが4つある掃除も行き届いた広い部屋だ。

 お風呂も同じ建物にあり、掃除などをしている午前以外の時間なら好きに入って良いと言われた。


 ラミィさんは作業などもあるので、近くの別の部屋を割り当てられている。


「夕飯の準備が出来ましたらお呼びします」


 今から町に出かけるには遅い時間なので、ゆっくりすることにした。


「お姉ちゃん、リルファナちゃん、緊張したけど優しそうな人で良かったね」

「ええ、ヴァレコリーナの貴族とは全然違いますわ」

「そうなんだ」

「優しくないわけではないですけども、服装や礼儀にはうるさい人が多いですわね」


 クレアの持って来たボードゲームで遊んでいると、夕飯になったと家政婦メイドさんと一緒にラミィさんが呼びにきた。


「運んでもらった素材なんですが、後ほど私の部屋で出してもらおうかと思いましてー」


 そういえば入れっぱなしだったね。

 C級冒険者ではマジックバッグを持っていない人も多く、普通の袋などに入れているので忘れることはあまり無いらしい。


 夕飯はティネスさんも一緒だった。

 伯爵には第二夫人もいるが、今は伯爵と第二夫人はガルディアにいるようで、この王都の家にはティネスさんしかいないそうだ。


 なんだか村や町の生活について、色々と聞かれた。領地の話だから生の声を聞きたかったのだろうと思う。


「明日は王都を観光しよう」

「何処へ行くの? お姉ちゃん」

「通ってきた南区からかな? 冒険者向けの装備品も見たいんだよね」


 王都で一番気になるのは売っている装備の質だ。


 余裕があればアムディナさんに言われた魔法研究所なども行きたい。

 それと、もしかしたらアルフォスさんたちにも会えるかな?


「わたくしは教会が気になりますわ」

「私は色々と買物したいかな」


 思っていた以上に大きな町だったので、観光もあわせれば十分時間も潰せるだろう。

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