新しい依頼
セブクロの生産スキルには様々な種類があるが大きな分類としては2つだ。
素材や材料を獲得するための一次生産スキルと、材料から装備や道具を作り出す二次生産スキルである。
一次生産スキルは、一般的に採取スキルと呼ばれていて木材や綿草、革などを集めるスキルで伐採や狩猟などが代表だ。
「生産スキル」とだけ呼んだ場合は主に二次生産スキルを指し、非公式にだがプレイヤーによって更に2つに分けられていた。
鍛冶、裁縫、調理、革細工、木工、彫金、製薬、魔法付与の8つのスキルが生産系のメインスキルと呼ばれ、作成出来るレシピが多く、需要の多い装備や道具類を生産する職業だ。
他の生産系スキルは全てサブと呼ばれ、石工、骨細工、錬金、執筆、菌栽培など無数にあり、完璧には誰も把握していなかったと思う。
こちらは運営の気まぐれのように追加されることが多く、製作出来るものもメインスキルの物と同じだったり、使い道の無いお遊びアイテムなども多い。
公式発表でも、遊びの幅を広げるためのものだとされていたし、デメリットはあるもののスキルレベル100までならば習得出来る生産系スキルの数には制限が無かった。
デメリットは、1キャラクターが複数の生産スキルを上げようとすると、生産スキルを上げるのにかかる生産回数が増えるシステムだ。そのため、自分で上げる生産スキルは3つぐらいに絞るのが一般的だった。
なお、メインとサブという分類はプレイヤーが勝手に行ったものであるので、人によってメインとサブの分類が少し違ったりもする。
特に錬金は、少し特殊だったのでメインに入るのではないかという人は多かった。
◇
「メインの生産スキルを揃えるなら革細工ですが、どこまで上げられるかは未知ですし、ミーナ様にお任せしますの」
わたしが新しく習得するスキルについて、リルファナに相談したが何でも良いと言われてしまった。
セブクロ的に考えると、使い勝手の良いメインの生産スキルを取りたいところである。
まず、わたしは調理と魔法付与を持ち、リルファナが裁縫と製薬を所持している。
カルファブロ様に鍛冶を貰ったのでメインスキルの残りは木工と革細工。
リルファナは木工に挑戦するようなので、わたしのスキルは革細工が候補だろう。
ただ、わたしが革細工を習得してもあまり利点が無い気もするんだよね。
革細工で作れる衣服などは、革細工よりも少し高いスキルレベルが必要になるが裁縫でも作れるものが多い。
革細工でしか作れないものは、ベルトや革靴、革を多く使ったタイプの軽鎧、それと毛皮を使った敷物や剥製といった家具類だ。
だが、魔法戦士が使う上位装備となると金属製の軽鎧が多いので生産スキルと職業がかみ合わない。
革細工で作れる装備で、魔法戦士でも長く使える装備には竜革の鎧といったものが存在する。
問題は、作れるようになってもこの世界では竜の素材を手に入れるために、自分達で竜を狩りに行く必要がありそうだということ。
また、トリックスターであるリルファナも、回復職か賢者辺りになっていると思われるクレアも革製品は必須ではない。
うーん……。
やっぱり1から上げるには利点が少ないかな。
錬金や執筆スキルの方が使い道はありそうだし、リルファナが木工スキルを上げれられるかどうかの結果を見てからでも良いかもしれない。
それとクレアへの説明は、わたしとリルファナでまとめたことを、リルファナが調整して話してくれることになったので任せることにした。
基本的にはリルファナの教師が、昔の英雄の研究家で教育法を知っていたという方向にする予定だ。
実際にそんなものがあるかは分からないので、何らかの口止めもしておくことにしないといけないだろうけどね。
◇
休みの最終日でもある3日目は、のんびりと家にいることにした。
冒険者になってから忙しくて怠け気味だったので庭で剣の稽古をする。
父さんに習った型を、一通り軽く流していく。クレアも横で杖を振っていた。
リルファナは、木工スキルを上げようと午前中は部屋に篭もっている。
「流石に飽きましたわ……」
作業とはいえ、実際に作り続けていると集中力がもたないということだ。
生産スキルを上げるのも、ゲームのように素材を揃えればメニュー画面からお手軽に作れる、というわけではないので簡単にはいかなそうだ。
リルファナを交えて、午後は3人でのんびりすごした。
◇
依頼を受けに行くことにした翌日。
ギルドに向かって東通りを歩いているとドゥニさんのパーティとすれ違った。遺跡調査も今日から再開するとのことだ。
追加報酬も窓口で受け取れるようになったらしい。
ギルドに着いたあとは、掲示板を確認する。
C級になってから自分たちで受注依頼を探すのは初めてなので、隅から隅まで眺めているとD級依頼よりも圧倒的に数が多い。
魔物を間引くための、遺跡付近や森の巡回依頼。西にあるデシエルト共和国までの護衛依頼。E級冒険者への訓練などもあった。
いつも確認しているわけではないが、訓練依頼というのは初めて見た気がする。
父さんとの約束で他国へは出られないので、それらの依頼は最初に除外だ。
北の王都か、西のアルジーネの町へ行く依頼は無いかな?
「国内の護衛依頼がありますわね」
「なになに、……王都との往復の護衛、道中に採取手伝いあり。王都の滞在期間は3日以上で応相談。護衛よりも採取手伝いの方がメインだって。お姉ちゃん」
「報酬の方はあまり高くなさそうですが、町の観光も兼ねるなら良さそうですわね」
報酬は大銀貨5枚。別のC級依頼の半分程度だ。それでもD級依頼なら高額の部類に入るんだけどね。
書かれた内容から依頼主自身に戦闘能力があり、護衛というよりも採取量を増やしたり、荷物持ちをさせたいのかなと思う。
また、王都滞在中の宿泊先の費用は依頼主持ちで完全自由行動となっている。
滞在日数もある程度調整してくれるようだし、わたしにとっては理想的かも。
「この依頼にしようか」
「うん!」
「では依頼票を剥がしますわ。……あら?」
リルファナが依頼の書かれた用紙を剥がし、窓口に歩き出した。
ギルドカードを提示する必要があるのでわたしとクレアも付いていく。
何か気になることでもあったみたいだけど、何だったんだろう?
重要なことならリルファナが何か言うだろうし、気にしなくても良いか。
今までと違い依頼主がギルドではないので、依頼主に詳細を確認してから正式な受注となるらしい。
依頼主との相談の結果、受注を取り消す場合はギルドの窓口で報告すれば良いそうだ。
依頼票に不備があったり、読んでも分かりにくい複雑な依頼でもない限りは、依頼が取り消されることは滅多に無いそうだけどね。
ついでに遺跡調査の追加報酬を貰ったところ、大金貨30枚とのことだ。
A級依頼ですら滅多に書かれていない金額だったので、本当かどうか確認してしまったよ……。
ほとんど、わたしたちの推測で遺跡の調査が進んだこと。
またリルファナの感知能力のおかげで、想像以上に短期間で済んだことなどが原因らしい。
それと魔道具についた魔石への魔力供給の仕方を教えたことで、応用がかなり効きそうだとケレベルさんからも報酬が出たみたい。
ちょっと動かしただけで冷蔵庫だと判断した観察眼にも関心を示していたようだ。
間違いでないなら貰えるものは貰っておこう。
この報酬は、3人で等分することにした。
レダさんの家を借りてから料理もするようになったし、宿に泊まっていたときに比べて出費はかなり少なくなっている。
ドゥニさんたちが見つけた魔道具はまだ鑑定中で後日になるようだ。
こちらの鑑定は月単位になることもあるそうなので気長に待ったほうが良さそうだね。
その後、リルファナの案内で依頼主のところへ向かう。
リルファナは、町の南通りを進んでいく。
「こちらですわね」
「え、ここって」
初めて町に来たときにリルファナの服を買ったり、その後も時々寄っていたエルフの服屋さんの店だった。
「ええ、こちらの店主さんが依頼主ですわ」