遺跡調査 - 報告
翌日、冷蔵庫などの発見した魔道具を運んでガルディアに戻った。
町に戻るのはわたしたちと、ドゥニさんのパーティ、ケレベルさん、ギルドの職員さんと護衛などで交代する人が数人。
ギルドは調査を続ける予定なので、拠点のテントなどはそのままだ。
わたしたちが見つけた冷蔵庫は使えそうなものが7個あったのだけど、冷蔵庫を入れることが出来るマジックバッグを持っている人がいなかったので、荷車で運ぶことになった。
森の中は地面がでこぼこで、すぐに車輪が動かなくなってしまうし街道まで出るのが1番大変だった。
街道に出たあとも整備された道とは言え、アスファルトに比べればがたつきは酷い。
普通に歩くなら、ゆっくりでも午前中には辿り着く距離なのだが、荷車で運んでいたら午後1の鐘の少し前ぐらいになっていた。
1つ1つの冷蔵庫はさほど重くなかったのは、せめてもの救いだろう。
「今度からは大き目のマジックバッグも用意しておきます……」
ギルドの職員さんが疲れた顔でそう言った。
発見した魔道具については、ドゥニさんたちのパーティと共有して分ける形に決まった。
そうしないと部屋を多く回ったパーティほど有利になってしまうし、合同パーティで依頼を受けたときのトラブルの元にもなりやすいらしい。
気になっていた冷蔵庫は危険性があるか確認をしたら、すぐに1つ貰えるようだ。
残りの冷蔵庫は、ケレベルさんのような魔道具の研究家が調べてから貰えるらしい。
魔道具が必要が無ければ換金扱いでお金を受け取れるようなので、貰ったものを試してみてから決めようと思う。
ドゥニさんたちは調査後にお金で欲しいと伝えていた。
ギルドに入ると、いつも通りギルドマスターの部屋に通される。
人数が多いと部屋に入りきらないということで、ネリィさんとアムディナさんは先に帰るようだった。
「毎日、職員から報告が来るから大体は分かってるけど、間違いや抜けがあるとだから一通り報告しておくれ」
コンピュータのような装置、冷蔵庫などの魔道具、避難所だと思われる遺跡。その中に残ったデータからヴィルティリア文明の容貌が垣間見えること。
ドゥニさんと発見した物や、遺跡の用途などの推測も含めてレダさんに報告をする。
妖精関係については、わたしにしか見えないし、証拠なども残っていないので黙っておく。
「実際に探索した者の話を聞いてみると、面白い発見だということが分かるさね」
「ええ、しかしこれだけ色々あると僕だけでは研究が難しいですね。魔道具の方が専門ですし」
ケレベルさんは専門の魔道具の方を調べたそうな感じだ。
「ああ、遺跡の調査は王都から専門家に来てもらうことにしたよ。ケレベルはレポートをまとめた後は、持って来た魔道具を調べておくれ。ドゥニとミーナの冒険者パーティの方は、とりあえず既定の報酬の支払いと依頼完了の処理は今しておくよ。残りは明後日までに決めておくから受け取りに来るさね」
「分かりました!」
「了解だ」
ケレベルさんもドゥニさんも嬉しそうに返事する。
追加報酬は新発見も多いので大きな額になりそうだと言われた。
またドゥニさんたちが見つけてきた魔道具は、使い方が分からないので調査に時間がかかりそうとのことだ。
冷蔵庫は『鑑定』の魔法や簡易的にチェックされた結果、爆発したりすることは無さそうだということで1つはすぐに持って帰って良いことになった。
「これが古代の冷蔵庫かい? 時間が空いたら見に行くさね」
「機能の確認をしたら、地下の食糧庫に置いておきますね」
レダさんが正面の扉を開けて興味深そうに眺めていた。
「あ、それなら使い方などをまとめておいて貰えると助かります。ミーナさんの説明は分かりやすいので」
聞いていたケレベルさんが慌てて追加した。
遺跡調査を続けたい場合は、続けて話すので残れと言われたが、クレアもリルファナもどっちでも良いそうなので辞退して報酬を受け取りに行く。
今後の依頼は、遺跡自体にほとんど危険も無いのでD級にも受注権利を開放するようだ。
ドゥニさんたちは続けるとのことで残った。
あまり危険も無いし実入りも良いので普通なら続ける人が多いだろう。でも、人手が足りてるならわたしは近所の遺跡よりも、まだ行っていない町を見に行ける依頼を受けたい。
◇
遺跡調査の報酬は、3人で1日当たり小金貨1枚だったので、昨日までの4日で4枚となる。
5日目の今日、魔道具の運搬と報告もあったので半分の大銀貨5枚を追加してくれた。寝床や食事、ある程度なら消耗品まで提供してくれるしお金稼ぎならギルドの依頼は圧倒的に良い仕事だと思う。
「調査で休みも無かったし、3日ぐらいお休みにしようか。ちょっと調べたいこともあるし」
「お姉ちゃん、明日は図書館に行くの?」
「うん、その予定。本屋も回るかな」
「じゃあ、私も古代文明について調べようかな」
明日からいきなり王都へというわけにもいかないし、わたしは妖精について調べることにした。
クレアは引き続き古代文明の本を探すみたい。今回のこともありもっと調べたくなったようだ。
リルファナは初日だけ図書館で調べ物をして、その後は家で何かしたいようだった。ぼかしていたのでクレアがいると言い難いセブクロ関係のことなのだろう。後で聞いておこう。
冷蔵庫を運びながら家に帰る。
「あら、魔石が切れているようですわ」
冷気が出ていないようだった。
遺跡で発見したときは、そもそもこの箱が何なのか分からなかったので、少ししか魔力を入れなかったせいだろう。
リルファナに伝えると魔力を供給することにしたようだ。
「あの……、どうやって魔力を込めるんですの?」
何度か試そうとしたリルファナが不思議そうな顔で、こちらを見ている。上手く魔力の供給が出来ないようだ。
遺跡の装置は勝手に吸い取ってくれていたから問題なかったみたい。
「遺跡にあった装置の供給と同じ感じかな?」
「んー、難しいですわ……」
細かい魔力操作は得意なはずのリルファナでも簡単に出来ないらしい。多少は魔力が入るようで冷気が出てくるけどすぐ止まってしまう。
「お姉ちゃん、これ難しいよ!」
見ていたクレアも試してみたが、似たようなものだった。
受け取った冷蔵庫が違うもので壊れているのだろうかと、わたしも魔力を込めると簡単に供給出来た。ちゃんと動くことも確認する。
わたししか上手く出来ないということは、わたしだけの特性が関係しているのだろう。
真っ先に思いつくのは妖精が関係しているのかなということ。そういえば、あの妖精も魔石から出てきていた。
次にそれに関係している魔法戦士であることだ。
あとは魔力の操作というと、……感覚で扱っていることかな?
そういえばリルファナには聞いていなかったけど、どうやって魔力を使っているのだろう。
リルファナも転生者だし、感覚的に扱っているんじゃないだろうか。感覚派の仲間が増えるかもしれない。
「あんな繊細なもの、なんとなくで扱えませんわ」
ばっさりです。ありがとうございました。
「逆に考えると、ミーナ様の魔力の流れを見て真似れば上手く供給出来るかもしれませんわね」
「お姉ちゃんの魔力ってじっと見てると、無駄が多くて目がチカチカするよ?」
え、そうなの。突然、衝撃の事実を突きつけられた気がするんですけど!
「そうですの? でもそこに何か意味があるのかもしれませんわね」
しばらく魔力の供給を観察された結果、効率が悪いようだがリルファナとクレアも真似ることで供給出来るようになった。
供給出来るようになった理由がよく分からないので落ち着かない、これでは無駄が多すぎると文句を言っている。
別にわたしが冷蔵庫を作ったわけじゃないよ……。
魔力操作を効率重視で先鋭化し過ぎた結果、過去の遺物を動かすのに必要な過程まで無くなってしまったとか、そういう話なのかもしれないね。
レポートにまとめておけばケレベルさんが喜びそう。というより研究時に動かないと困るだろうし、早めに教えてあげたほうが良いかもしれない。
明日、レダさんにケレベルさんとはどこに行けば会えるか聞いてから図書館へ行くことにしよう。