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驚く報告

 極度な緊張と疲労からか、眠ってしまったようだ。

 目を覚ますとクレアは、わたしが倒した彫像に近寄って何やら調べていた。


「暗くなっちゃったね、お姉ちゃん」

「うん、今日は帰ろう」


 クレアはわたしが起きたことに気付いたようだ。


 木剣の代わりに彫像が使っていた剣が使えないかなと思い調べてみる。剣の部分まで一緒になっているというわけではないらしく、石剣だけど持ち上げることは出来た。でも重すぎた。ダメだダメ。


 月明かりの差し込む廃墟は幻想的ではあったけど、薄気味悪くもある。


 わたしとクレアは魔法陣から秘密基地ひるねばしょに戻った。急いで森を抜けると、武装した父さんと母さんがいた。父さんは冒険者のような格好で革と金属板を使った中装鎧に腰には剣を吊るしている。母さんも旅の格好のようで軽装鎧と長槍を持っていた。


「……無事だったか」


 父さんも母さんもほっとした顔で迎えてくれた。どうやらクレアが夜まで帰ってこなかったことが今までに1度も無かったのでかなり心配していたらしい。とりあえず森に探しに行こうとしていたところだったようだ。

 わたしも夜まで帰らないってことは数回しかなかったと思う。たしかその時は秘密基地ひるねばしょで寝過ごしたんだけど。……一緒に寝過ごしたと思われたのかな?


「って、おい怪我してるのか?」


 父さんが慌ててわたしに駆け寄る。そういえばわき腹辺りが血まみれだった。


「クレアにほとんど治してもらったから、そんなに深くないよ」

「魔法で治してもらって完治していない時点で大怪我だ、馬鹿!」


 平気だというのに父さんに支えられて家に入る。


「留守番を頼んだのにすいませんね」


 すれ違いで帰ってくるかもしれないと、父さんは留守番を頼んでいたようだ。怪我をして帰ってくる可能性も危惧していたようで教会のシスターが我が家で留守番していた。


「いえいえ、無事で良かったです。って怪我してるじゃないですか!」

「あ、クレアに治してもらったので、見た目ほど酷くはないんです」


 椅子に座らせられると、シスターは癒しの魔法を使ってくれた。少しだけ残っていた傷も完治していた。魔法ってすごい!


 回復魔法を使うと傷は塞がるけど、流れた血は戻らないし、急激な回復は体力を消耗するらしい。クレアに回復してもらったときに眠ってしまったのはそのせいかもしれないね。



「で、何があったんだ?」


 用事の済んだシスターはしっかり食べてしっかり睡眠を取るようにわたしに言って教会へ帰った。わたしとクレアが母さんが温めなおした夕飯を食べはじめると、父さんによる尋問がはじまった。母さんは何も言わずに、脇に座っている。


 秘密基地ひるねばしょの転移魔法陣。転移先の廃墟。金貨を2枚見つけたこと。彫像リビングスタチューが襲ってきたこと。全て話した。


「これが彫像を倒したところに落ちてたよ」


 わたしが眠ってしまったときにクレアは何か見つけていたらしい、青みがかったガラス玉のような物をテーブルに置いた。……あれは彫像のドロップアイテムだったかな?


 それを見た途端、父さんは息を飲んだ。


「本当にこれをミーナが1人で倒したのか?」

「うん、わたしは腰が抜けて動けなかったから……」

「あ、そうだ。父さん、木剣がダメになっちゃったんだ。ごめんなさい」


 拾い集めた木剣の残骸もテーブルに載せる。


「……どうやったら木剣がこんなになるんだ?」

「木剣だと彫像にダメージが通らなかったから、魔力を通して使ったの」

「……理屈で考えれば多少硬くはなるかもしれんが、その程度だろ?」

「属性を乗せたの」

「ああ?」


 父さんには理解出来なかったようだ。何言ってんだコイツみたいな目で見られた。


 ……ここ2週間でなんかそういう視線に慣れてきた気がするわ。


 いくら最弱の最上級職とはいえ、絶滅危惧種ってほどじゃなかったし元冒険者ならそれぐらい知ってると思うんだけどな?


 そう『セブクロ』での魔法戦士は最弱の最上級職だったのだ。ゲームのシステム上で仕方ないことだったのだけど。


「……これにそれは使えるか?」


 実際に見たほうが早いと思ったようだ。父さんは腰に差していた短剣を鞘ごと外してわたしの前に置いた。


「うーん、やってみる」


 短剣を鞘から引き抜く。魔力を流してみると支障なく通った。見た目で分かりやすいのは炎かな? 自分の属性とは違うので、あまり得意ではない。


「『炎剣フエコ・スパーダ』!」


 炎がまとわりつくように短剣を覆った。『魔法剣』を使った本人には熱を感じないみたい。


「あ、できた」

「あれ、お姉ちゃん、戦ってる時は炎じゃなかったよね?」

「あれは風属性だけど、炎の方が見やすいかと思って」


 なんてクレアと話していたら、父さんと母さんが目を見開いて絶句していた。……何かやらかした?


「……ミーナ、とりあえず父さんはそのスキルを見たことが無い」


 父さんも母さんも動かなくなってしまったので、クレアと無駄話しながらご飯を食べていたら父さんが戻ってきた。


「そうなんだ」


 ……常識が違いすぎてよく分からないよ。


 少なくともこの世界は『セブクロ』をベースにした世界なのは間違いないと思うけど、違いを調べておいた方が良さそうだ。家族の前ならともかく、他人の前で変なことして避けられるようになっちゃったら困る。


「そもそも物質に魔力を通すというのはとても難しいんだ。何も無いところに魔力を通すなんて、一流の魔術師でも数年はかかるだろう。そして出来るようになってもどんな物質にでも好きなように魔力を流せるようになったというわけではない」

「でも転移の魔法陣はクレアも使えたよ?」

「魔法陣は物質に魔力を流すために使われているんだ。考え方としては逆だな」


 なるほど。物質に魔力を流す必要があるときに魔法陣を使うのか。魔導機の魔石もそういう仕組みなのかもしれない。


「父さんも、ミーナが出来ることに文句は言わん。そのおかげで2人とも帰ってこれたんだからな」

「そうだよ父さん、お姉ちゃんは悪くないよ。そもそも探検したいって言ったのもわたしだもん」

「ただ、この技は無闇に使わない方が良い」

「なんでよ!」


 なぜかクレアが怒っている。


「そのガラス玉のサイズから見てミーナが倒したのはB級クラスの魔物だ。……いくら弱っていたとしても動けた時点でC級を下回ることはないだろう」


 あー、よくある冒険者のランク設定か。B級と言われてもどれぐらいの強さか分からない。『セブクロ』にも冒険者ギルドはあったけど、経験値もお金も微妙と言われていて興味も沸かなかったので建物に入ったことすら無いかも。


「C級だったとしても木剣の一刀で半壊したとかありえないんだ。父さんだってミーナがこんな傷だらけで帰ってきて、実際に使ってみせなければ適当な冒険譚を語ってるだけだと判断したと思うぞ」

「お姉ちゃんが強いだけなら問題ないでしょう?」

「いや、騙されて意にそぐわない契約をさせられたり、技を盗もうと奴隷にしようとするやつだって出るかもしれん。少なくとも現時点ではな」


 あれ、この世界は奴隷制があるんだ。それは『セブクロ』には無かったと思う。


「父さんの言うことは分かったよ。わたしも無理に使いたいわけじゃないし、出来るだけ使わないようにするよ」

「うむ、一瞬見ただけならマジックアイテムだと思うのが普通だとは思うが、下手に人目の多いところで使わない方が良いだろうな」


 消すのを忘れて燃えたまま握っていた短剣の炎を消して鞘にしまった。消した途端、父さんがちょっとほっとした顔をしたような気がするのは何でかな?

 そもそも未成年が持てる木剣では耐えられずに割れるから連発できないよ。父さんの短剣で試してみた感じでは金属製でもあまり持たない気がした。劣化してるから折れるかもしれないって一応言っておいた方が良いかな?


「遺跡の方はどうするの、父さん。わたしたちも全部調べたわけじゃないんだけど」

「それについては村長とも相談する。探索に出るときはちゃんと教えるから勝手に行かないように」

「はーい」


 父さんが探索に行くことになりそうかな? 折角あそこまで探索したんだし同行出来たらいいんだけどな。


「金貨は2人で持ってなさい。町で使われているものと違う彫刻だから、町にでも行ったときに父さんの方でも調べてみよう」

「父さん、別に家で使ってもいいよ?」

「わたしも」


 クレアがそういうならば、わたしも同意せざるを得ないのだが。同意せざるを得ないのだが! 大事なことなので2回言いました。


「気持ちは嬉しいが、いずれ使いたくなることがあるかもしれないだろう。まあどうしても困ったら娘から借金することにするさ」


 父さんはニヤリと笑ってそう言った。話の分かる父さんでよかったと思う。


「それと、無事に帰ってきてくれて良かった」


 父さんはわたしとクレアを抱きしめた。あらあらと母さんが笑っていた。

 夜も遅かったけれど、お腹に付いた血が乾いてしまっていて落ち辛かったのに文句を言っていたら、父さんが川から水を汲んできてお風呂を沸かしてくれた。


 その日はクレアと一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで眠った。

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