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マリア視点


「皿洗いは朝やるよ」

 そう言うヤマトは顔面を蒼白にしたまま部屋を出て行った。普段なら最低限流しへ食器を持っていくのだが、今回はその余裕すらもなかったのだろう。テーブルの上には食べかけの料理がそのまま置かれている。


 余裕がないのはレナも一緒だった。今にも泣き出しそうな顔で口を開閉させ、ヤマトの出て行ったドアとテレビを交互に見ていた。

 テレビではヤマトが心底惚れ込んでいたアイドルが、笑顔でアサリの味噌汁について語っている。


 思わず頭を押さえる。


 レナをせっついたつもりだったが、まさかの事態に発展してしまった。

 レナはヤマトにお礼を言いたかった。しかしレナはヤマトに言いあぐねていた。理由は分かる。あまりにすれ違いの期間が長くて、どう話しかけて良いのか分からないのだろう。

 レナはヤマトの事を同じ家に住む赤の他人とでも思っていた。レナの態度はそれ相応だ。しかしヤマトは違った。


 レナも私も、自分の身を削ってでも助けるべき人であったのだ。レナはヤマトのことを何考えて居るか分からなくて、自己中で、自身をいやらしい目で見てくる変態、なんて言うが、それはほぼ勘違いといえる。


 ヤマトの態度は私から見ても素っ気ないように見える。しかしヤマトは口には出さず、小さな気遣いをしっかりしていた。レナが醤油が欲しくなりそうと分かれば、レナの近くに置いたり、喉が痛そうなレナを見れば、テーブルの上にこっそりのど飴を置いたりする。それもレナが嫌いな苦みのあるのど飴では無く、好物であるフルーツ味ののど飴をだ。


 レナは今までヤマトから優しくして貰っても、大抵気が付かなかった。でもお金を貰いヤマトを意識するようになって、レナは気が付いてしまったのだ。ヤマトから非常に多くの愛を受けていることに。

 レナはそのお礼もしなければならなかった。だけどその思いは大きすぎて、どう伝えて良いのか分からないのだろう。すれ違いの件もあって、レナ自身で伝えるのは難しいと私は思っていた。


 だから私はこの場で手術の件を口にした。そしてレナに早くお礼を言えと、目で訴えたのだ。レナは逃げ出した。イジメの時と同じように逃げ出した。そしてテレビをつけて場を変えようとした。逃げの一手としては良い手であるかも知れない。しかし映し出された番組は、ヤマトの心を削り、ヤマトの決意とレナへの愛情を証明する結果となった。


 ヤマトがグッズを手放したのは、断腸の思いだったのだろう。何年も前から自分のお小遣いやアルバイトのお金をそそぎこみ、他国に行ってまで応援していたのだ。だからこそあそこまで蒼白に…………人間は死ぬ以外に、あんなに蒼白になれるのか。


「お、お、にぃちゃ………」

 起きてしまったことは仕方が無い。

「……後でお礼を言いなさい」

 もう戻れないのだから、先がどうであろうと踏み出さなければならないのだ。


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