5
ヤマト視点
俺がレナにお金を渡してからも、俺とレナの関係は相変わらずだった。
基本的に顔を合わせない。会話は必要最低限。むしろ以前より悪化した印象がある。
黙々と俺とレナは食事をとり続ける。マリアさんが俺らのどちらかに話しかければ、どちらかが喋るだけ。
「そうだ、来週レナの手術をすることになったの! 申し訳ないけれどその日のご飯は自分で用意して頂戴」
とマリアさんが俺にそう言うも、
「分かった、その日は何か作って食べるよ」
「……」
レナは何も言わない。お金を渡してからレナは本当に何も言わなくなった。俺にお礼の言葉も無い。まあ、俺はいやな思い出のあるお金を押しつけただけだから、別になんとも思ってないが。
マリアさんはレナを見て眉を顰める。レナはその顔を見て、一瞬俺に視線を向けるもすぐに外し、慌てた様子でテレビのリモコンに手を伸ばした。
彼女がテレビをつけると、お笑いタレントが司会をしているバラエティが映し出された。
ぼうっとそれを見ていたら、ある場面で息をのんだ。
もう見慣れたどころか、写真に近い絵を描くことさえ出来るであろう、あのアイドルリーダーが映っていた。それもやけに見覚えのあるイケメンと、一緒にテレビに出ているではないか。
いや、ニュースであれば理解出来た。砲撃やら、金曜日されたりでの公開処刑ならば。どうせおつきあいしてんだろ、俺は知ってるんだよって。
しかしコレはニュースではない。バラエティである。
しかもこのイケメンの前に『兄』と書かれたプレートが見うけられるのは、気のせいだろうか。
お、落ち着こう。
俺は般若心経を呪文のように唱えながら、絞りたてのオレンジジュースを口に入れる。テレビではアイドルリーダーの名前が呼ばれ、隣のイケメンとともに画面に大きく映った。
『そうですね、兄さんとは一緒に買い物に行くぐらい仲が良いんです!』
「ぶっっっゲホッゲホッ」
「ヤマトッ!?」
マリアさんは信じられない物を見たかのような形相で俺を呼ぶ。たとえて言うなら、目の前で人が轢かれたかのような。
「だ、大丈夫」
いや全然大丈夫じゃない。頭の中は真っ白で、しかし何かしないといけないような気がして、何かを考えようとして、何も考えられなくて。
テレビの中であのアイドルは笑いながらばしばしイケメンを叩いている。イケメンはまんざらでもなさそうな表情で、何かを言っていたが、内容が全く頭に入ってこなかった。
その代わりにアイドルの顔が映る度に、売ってしまったグッズ達が、走馬燈のように頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
初めて買ったTシャツはプリント物で非常に安っぽかった。初めて買ったタオルも普通のタオルと比べたら短いし小さかった。それをぶんぶん振り回しながら、当時数少ない同士達と一緒に声がかれるまで歌った。動画が人気を博してからはグッズ売り場は戦場だった。さっさと並ばなければ欲しいものは売り切れるから、時には前日から並んでいたこともあった。あのグッズ一つ一つに何かしらの思い出があった。
不意に尋常じゃ無い程の吐き気が襲ってきた。俺は箸を置くと
「ご、ゴメン。ご飯はもういいや。ちょっと気分が悪いから……皿洗いは朝やるよ」
そう言ってすぐさま席を立ち、自分の部屋へ向った。
ドアを開けると一番に出迎えてくれるのは、水着姿の彼女だった。照りつける太陽をバックに、天使のような笑顔をこちらに向けてくれる彼女は、今は居なかった。彼女が居た場所に日焼けが残っているだけで、彼女自身がいなかった。部屋のどこを見渡しても居なかった。
「う、うそだろ……」
ただ呆然と何も無い壁や棚を見る事しか出来なかった。