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マリア視点

 レナからそのことを聞いたときは、嘘だ、と一瞬思いもした。しかしヤマトならするかも知れない、そうとも思った。

 ヤマトは本当の両親の影響で、非常に成熟した思考を具有ぐゆうしている。私が籍を入れた彼の父親は、良く言って浮世離れした人だった。学生の子供がいるというのに、ふらりとどこかへ出かけ、1ヶ月帰ってこないなど普通の思考ではない。


 しかしヤマトはその異常な光景を、まるで雨期の雨のように、それは逃れられない仕方ないことだと受け止めていた。

 ヤマトに聞くところによると、昔から破天荒だったらしいが、奥様が亡くなられてからは、ブレーキが無くなったかのように悪化していったらしい。


「親父がどんな人かって? 一般人に擬態した世捨て人かな」


 ヤマトの辛辣な父親評を、私は否定できなかった。

 そんな父親だからこそ、ヤマトは自立せざるを得なかったのだろう。親がいないことが多かったから、どうすれば良いかを思考実験し、出た結論に則ってアルバイトを始めた。そしてヤマトは問題が起こるごとに自問自答して回答を出し、学校に通っていた。自立どころか社会を拒否し、家で惰眠をむさぼるレナとは対照的だった。


 私が彼と籍を入れたのは、お金の問題を解決してもらった事が切っ掛けだが、一番はレナとヤマトの事があったからだ。レナはヤマトの父親のおかげで、現状を打破できそうだった。

 多分彼も同じ気持ちだったのだろう。彼の息子であるヤマトのことは、私がよく見ていたから。でなければ資産家でもない彼と、恋人らしき事もセックスすらもせず、籍を入れるなんてあり得るだろうか。


 そう、私と彼に有ったのは打算と一方的な哀れみだった。


 彼にとって息子のヤマトは、人生の重しでありながら、自分がながされないように沈める碇だった。彼は奥様を亡くしてから、すぐにでもこの人生から旅立ちたかったのではないかと私は思っている。だから私がヤマトと交流するのを見届けることで、碇が外れ、ようやく行けると、逝ってしまったんだろう。でなければ、あんな死に方なんてしない。


 ヤマトは父親が亡くなってから、私へ最初に言った言葉は、泣き言でも恨み言でも無かった。「ごめんなさい」なんていう、私に対する謝罪だった。


 彼が亡くなったと聞いて、顔を見て、それでも涙は出なかった。だけどショックを受けているようで、それでいて困惑したようなヤマトの謝罪を聞いてからは、涙が止まらなかった。

 本当に謝罪すべきだったのは私の方だったのかも知れない。彼の父親が亡くなった一因は私なのだから。


 ヤマトの父親が亡くなったことは、私達に大きな傷跡を残した。

 レナは彼の死によって、好転しかけていた負の気持ちがぶり返し、引きこもりに戻った。

 ヤマトは元々お手伝いをしてくれる子だった。それが父親が亡くなってから、より一層手伝いをするようになった。自分の時間を削ってでも。


 ヤマトは成熟した思考を持ち合わせていると同時に、家族に対して愛を持ちたかったのだろう。それはレナの手術代を出したことからもよく分かる。

 それは反面教師なのだろう。彼の父親はああで、そしてそのまま死んでしまったのだから。


 ヤマトがしていたであろう自問自答の結論によっては、家族という者は完全な他者になっていてもおかしくはなかった。だけどヤマトは家族を他人と定義せず、愛を与えるものと定義してくれたのは本当に良かった。ただ自分が愛を与えられなかった反動なのか、彼の愛はすこし重い。自分の大切な物を売り払ってまでくれる愛は、嬉しい反面少し恐い。


 それでもヤマトの家族は幸せだと思う。現に私は幸せだ。そしてヤマトがレナに対して愛を見せてくれたから、より幸せになった。

 ただヤマト自身も愛に飢えているように見える。しかたない。彼は家族から貰える愛をほとんど貰うことが無かったから。

 もしヤマトが結婚するなら、ヤマトを本気で愛してくれる人でなければ、許可を出さないようにしなければならない。

 そして私はヤマトに愛を与えよう。過剰に接触しよう。彼は恥ずかしそうでありながらも、嬉しそうだった。


 ただ、私はこの家族の愛をヤマトに与え続けられるだろうか。

 ヤマトは博識で、非常に察しが良い。たまに私の心情を見透かしているような気がするのだ。彼の父が亡くなった時もそうだった。そして私が求めている言葉を耳元で紡がれ、優しい笑顔で肩を叩かれると、家族の愛ではないそれ以上の感情が胸の中で暴れ、私の全てをさらけ出して抱きしめたくなってしまう。


 それから少しして自己嫌悪に陥いるのだが、私はきっとヤマトを抱きしめてしまう、そんな予感がしていた。


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