10 みすず視点
8/24 2回目更新(今日はここまで)
次回からの更新は夜中になると思います。
なお、仕事で更新できない日もあるので不定期と思っててください。
初めてヤマトに親近感を持ったのは、父が嫌いだという話を聞いたときだった。
彼は小学生の時から周りの子達よりひときわ大人びていた。
そのせいか不思議な雰囲気を持っていて、それがクラスの女子に人気があった理由だと思う。
私は初め大和に対してなんの感情も持ち合わせていなかった。ただ単純に、クラスメイトで頭が良いなぐらいにしか思っていなかった。
そんな彼にクラスメイトの誰かが聞いたのだ。「大和君って嫌いな人いるの?」と。彼は少し悩んで「親父かなぁ」とつぶやいた。
「あ、私もお父さん嫌いー」という賛同の言葉と「ええ、そうなの?」と少し否定気味の言葉は半々だったと記憶している。
私は声には出さなかったけど、とても賛同していた。
だってそのときの私は、父が大嫌いだった。
父はことあるごとに私を強く怒った。お前のために言ってるんだ、なんて言って。母はいつも慰めてくれた。今思えば、私が悪いことをしたから強く怒っていてくれたのだが。
それから私が成長していく上で父から怒られることは減っていった。しかし怒ること以外にも嫌いなところはあったから、結局は嫌いだった。特に家で何もしなかったところが。
仕事はしているけど家事は一切しないで、スマホやテレビを見ながらゴロゴロして。母が家事を手伝ってといってもほとんどしないし。おまけにくさいし汚いしちょっと生え際が後退してるし。そんな父が大嫌いだった。
でもあの事件で、私の考えは逆転した。そして大和が大好きになった。
また、その事件が起こるまでは、クラスメイトである彼女たちと仲が良いと思っていた。でも実際はそうではなかったのだろう。あの子が持っていた財布とお金が無くなったときに、真っ先に疑われたのは私だったから。
私はもちろん盗んでなどいなかった。欲しいものもなかったから、盗む必要なんてなかった。
それから数日が経過して問題がだんだん大事になってきたときに、私含むいくつかの家族が学校に呼ばれ、三者面談のような形で犯人捜しが行われた。
しかし解決しなかった。
初めは信じていてくれた母はだんだんと私を疑っていって、そして「本当はやったんじゃないの?」だなんて言うようになった。
でも今なら母が私を疑ってそう言ったのかは、なんとなく察せられた。母は世間を選んだのだ。
私は全員の敵だったから。当然母のランチ友達であるクラスメイトの親は敵だった。でも当時はそんなことを察せられない。自分の付き合いが自身の思い描いていたちっぽけな世界のすべてで、親の付き合いなどこれっぽっちも考えられなかった。
ただ、母の気持ちを理解したところで、私の意見は変わらないだろう。
だって母は私を信じなかったのだから。当然、大嫌いになった。
解決のめどが立っていないのに盗難の話が広がっていくのを、学校側は快く思っていなかったのだろう。先生は関係者全員を同時に呼び出しこれで決着をつけようとした。
親たち全員が顔を合わせたのはその時だった。また父がこの件で学校に来るのも初めてだった。いつもは母しか来なかったし、そもそも父はこの件にあまり口を出そうとはせず、関わらないようにしているように見えた。
関係者が全員集まった会談では、当然のように私が皆の敵だった。友達もその親も先生もそして母も。
そんなときだった。今まで沈黙を貫いていた父が口を開いたのは。
「みすず、お前はやったのか」
「…………やっでない゛」
『お前がやったんだろ』という咎める視線の中で、私はボロボロ泣きながらそう言った。母は目を閉じ、渋い顔をしていた。
私はそのとき、唇をかんで泣くことしか出来なかった。
「そうか」
父は小さく息を吐きながら、まるでため息をつくようにそう言う。
そして鬼のような形相を浮かべて、そこに居た人が全員驚くぐらいテーブルを強く叩くと、驚いた教師や親たちを見つめ言い放った。
「私は娘を嘘を付く子に育ててはいないっ! あなた方の子供の方が嘘をついている!」
あのとき私には……父がとても大きく見えた。
そして次の日になると私はクラスの中で腫れ物として扱われた。もちろん前からその兆候はあった。しかし昨日の一件で大きな、大きな溝が出来てしまったのだろう。
だけど一人だけ、たった一人だけ私と普段通りに接してくれる人が居た。
大和である。





