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※この作品はフィクションです。また作中で登場しているワキガの手術に関してですが、現在そんな画期的な手法はありません(有るかも知れませんがググっても出なかった)。作中独自の手術です。


短編部分はほぼ変えずに投稿しています。

※短編版あとがきの展開と全く同じになるわけではないので注意してください。


 激怒した。それはもう怒髪天を衝くほどに激怒した。

 彼女は言っていたじゃないか。

「こっそり彼氏を作るなんて信じられない。今まで応援してくれたファンに対する裏切り行為、私ならグループを抜けるっ!」

 彼女のアイデンティティとも言える天使の笑顔(エンジェルスマイル)はなりを潜め、机を叩きながら烈火のごとく憤った彼女。人一倍責任感が強く、そのアイドルグループのリーダーをも勤めていた彼女。そんな彼女が。


「なんで楽しそうにイケメンと歩いてんだよ……!」

 地元出身のアイドルで、天使とまごうほど可愛くて、すごくキッチリしているようでどこか抜けていて、実は味噌汁が好物で、握手会の時に手をぎゅっと握って微笑んでくれた彼女が、一体なんで彼氏なんかと歩いているのだ!?


 不文律どころではない。彼女らのグループは公式に彼氏を作らない宣言をしていたのだ。人は人、自分は自分だったのか。グループメンバーにあれだけ言っておいて自分は良いのか!?


 家に帰ってからの行動は早かった。グループがヒットする前どころか、最初期から集めまくった彼女のポスターやらキーホルダーやらカレンダーやらのグッズを、一つ一つ取り外してやった。そして警察がよくやる、押収した商品をメディア公開用に陳列するように、見栄え良く丁寧に陳列して写真を撮ると、ネットオークションにかけてやった。


 落札金額は想像を絶していた。


 確かに彼女のグッズに、中学の頃からのバイトやお小遣いのほとんどをつぎ込んできたが、それはせいぜい数十万くらいだろう。


 しかしどうだ? 


 通帳には三桁万円の金額が書かれていて、何度も見返したがその数字は変わることが無くて、オークションサイトのマイページを確認しても、やっぱり同じ金額が書かれていて、結果的に信じざるを得ない状況になった。

 しかしだ。あくせく働いて稼いだ金が元ではあるが、この金を見るのもイヤだった。どうしても彼女を思い起こすのだ。


 彼女への投資なんかではなかった。デビューして間もない頃は、彼女らなんてヒットすることは無く、地下アイドル群に埋もれ、消えてしまうのだと誰しもが思っていただろう。俺もそう思っていた。しかし、その中でリーダーの彼女から、溢れんばかりの魅力を感じたのだ。彼女が地元出身という事もあり、俺はアホみたいに彼女にお金をかけた。他のアイドル達に埋もれ、いずれ消えさるのだと思っていても、少しでも長くアイドルを続けて欲しい、その一心だった。そう。彼女に使ったお金は投資では無く、捨てたつもりだった。それぐらいの覚悟があった。


 それは愛と言うより、崇拝に近かった。しかし彼女がしたことは、ローマ法王が聖書を否定するような、それくらいの衝撃だった。


 大人になったら「昔こんな売れないアイドルがいたんだぜ、でもすっげー輝いてたんだ」なんて話す未来を思い浮かべていたが、そんな彼女らのグループに転機が訪れたのは1つの動画だった。

 最初に火が付いたのは日本では無くイギリスだった。

「WTF(what the fuck一体何だコレは!?)」


 それはキャッチーながら重厚な音楽に和をブレンドして、切れの良いダンスを踊るメンバーのPVプロモーションビデオ

 動画の感想欄は外国語で溢れた。そして話題性を買われイギリスの大きなフェスに招待され、そこでメインステージでは無いものの大成功を収めると、それが話題となって日本に逆輸入された。


 今でも思い出せる。あのときは父親の再婚相手である義母マリアさんに感謝してもしきれない。チケット代しか捻出できなかった俺に、帰省だと言って付いてきてくれたうえに、仕事でイギリスに住んでいるマリアさん両親の家も使わせてもらった。


 おかげで俺はフェスに参加できた。


 見た目厳ついオッサンやら、頭二つデカい兄ちゃんやらを押しのけ最前列に行き、数少ない日本人の同士達と枯れるまで叫んだ。ライブの終了後はその辺りの外人達(イギリス人だけでは無くフランス、フィンランド、ノルウェーなど多国籍の人たちが集まった)と語り合い、肩を組んで写真を撮って最高の思い出を作り、日本に帰還した。彼らは今も元気だろうか。


「はぁ」

 この通帳のお金を見ていると、いろんな事を思い出す。複雑な思いがせめぎ合い、なんだか吐きそうになった。

 俺はうがいでもしようと部屋を出て、階段を降りる。ついでにこの混沌とした感情が少しでも流れてくれる事を祈りながら。


 俺は洗面所でうがいをするも、やっぱり気分は晴れなかった。ジュースでも飲みながらネットサーフィンでもするかと、リビングのドアを開ける。そして思わず顔をしかめた。


 臭い。


 その異臭の原因は分かりきっている。ソファーに座ってジュースを飲んでいる義妹レナのせいだ。

 彼女は義母マリアさんの身体的特徴をしっかり受け継ぎ、絹のようなプラチナブロンドと透き通る青い瞳で、また肌はきめ細やかな色白であり、歴戦のナンパ師ですら一瞬言葉を失ってしまうような美少女である。まごうことなき美少女である。美少女度合いならあのアイドルリーダーより、義妹の方が上である。圧倒的に。


 しかし天は二物を与えなかった。

 レナは凄まじいほどの悪臭を放つ、ワキガだった。



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