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雪
「ゆーきーや――」
「こんこん」
田舎に帰省した草太は、裏山の神社で歌っていた。
「あられーや――」
「こんこん」
氏子は元より神主もいないのか、社自体が朽ち果てつつある。動くものといえば、境内で遊ぶ草太と少女だけ。
「……ねぇユキちゃん、手を抜いてない?」
「……だって、下手なんだもん」
「ひどい! 一緒に歌うって言ったのに!」
草太はそっぽを向くと、ダウンの雪を払って社の中に入ってしまう。着物に半纏姿のユキは、それを笑って見送るだけ。沈黙。
「…………ゆーきーや――」
「こんこん」
だが静寂は続かなかった。元々一人で歌っていた草太に声をかけたのは、ユキの方なのだから。
雪やこんこん。来む来むとは、来い来いの意である。




