6話 リケイVSヒスト
高校生の頃の戯れ。
久々すぎなのであらすじ。
秘密結社デイリーブレイカーは政府の政策が気に入らず、政府組織ソサエティにかちこみを仕掛ける。
キン、ガキン!キン
ナオキ城の最上階では剣戟が繰り広げられていた。俺が剣を打てども打てども、ヒストはそれを完璧に弾いてみせる。
俺は距離をとる。先程から打ち合っては引くの繰り返し。
「あんた、大した腕前だな。これでも剣術には自信があったんだが。」
俺は思ったことをふと口にする。
「それは此方の台詞だ。自暴自棄になって、かかって来たと思えば、剣筋はいたって冷静。お前は本当に興味深い。」
「これでもやけくそなんですよ。だってあんたの首筋に剣突きつけて、法案を変えろって言おうとしてるんですから!」
もう一度剣を握り直し突進する。が、やはり結果は同じ。俺の剣先は全てヒストに弾かれる。
「くっ。」
俺は再び間合いをとる。
剣術という面で言うと、明らかに向こうが上だ。ヒストには剣筋が完全に見切られている。となると、魔法によって優位を得たいのだが、戦闘のジンクス、「技は先に撃った方が負ける。」が非常に気がかりだ。
ーーーけど、悠長こと言ってらんないよな…
この不安が杞憂であることを祈る。
「いくぞ…」
ヒストも深く剣を握る。やはり、まだ守りに徹してくるらしい。ならば、想像を越えたものを打ち上げるだけ。
走り出すと同時に俺は横に回転しながら、X字に剣を2回振り、斬撃破を放つ。
ヒストは猛者なだけあり、それが目に見えなくとも斬撃破であると見抜き、その手の剣で斬りにかかる。そのタイミングは完璧。確実に1つ目の斬撃破を斬りに落とす…‼
か、に見えたが、そうは上手くいかない。斬撃破に剣が触れかかった瞬間、その異常性に気付き、身を翻し、斬るから、かわすに体捌きを変えるヒスト。
これが俺の魔法具『次元の剣』の空間斬撃波。それは「斬られた空間」という概念によって創られた波で相手を斬るというもの。この仕組みというのは俺も理解は仕切っていないが、はっきりしていることもある。
波であるがゆえの特性。先程のヒストのように斬撃によっての対処ができない。波は一点の障害物があろうとも回折して進む。
逆に言えば、この前のジオの時のように波に真っ向からぶつかってくる波に対しては相殺されてしまう。まあ、打ち消すためには一定の幅を持った波が必要なのだが…そう、1メートルぐらいの。ジオの拳のデカさとそのパワーがうかがえる。
とにかくだ、この攻撃は初見の剣豪に抜群に相性がいい。このように斬撃で対処しにくるからだ。例え、今回のように一撃目をかわせても2撃目には……
2撃目の斬撃がヒストに炸裂する、その直前、ヒストが何か呟いた。
「同盟……アキレウス」
刹那、ヒストの姿が消える。
進む先に目標を失い、足を止める。やはりあったか、アニメ界のジンクス。
すると、後ろから迫る剣筋。
ーーーいつのまに、背後に!?
なんとか背後からの攻撃を防ごうと、後ろを向きながら剣を闇雲に振る。
ガキン!
すると、俺の剣とヒストの剣が十字にぶつかる。 横になった剣で何とか高く振り下ろされた剣を食い止める。
「あぶな……………くっ…」
荒涼とした金属音が耳に響いて、冷や汗が流れる。上から振りかざされたヒストの剣は先程とは一層重く感じる。床がキリキリと悲鳴をあげているほどである。
いや、にしてもこの重さはとても女性が出しているとは思えない。まるで、髭のはえた頑丈な大男と押し合っているよう…
「同盟、ヘラクレス」
「その剣、魔法具の効果……」
「同盟剣 ハンザ。過去の偉人たちの力をこの身に付与する。なかなか神聖な魔術。」
「ヘラクレスって神話じゃ……」
「神話の神であっても何らかの起源は存在する。その神座にすら干渉しうる奇跡の剣。」
なるほど、ヒストの魔法具の正体は何となく掴めた。やはり彼女は魔術、武道いづれにおいても一級品の騎士だ。神の存在へアクセスするなんてどれ程の魔力が必要か想像もできない。
しかし、この状況はまずい。対策とかそれ以前に次の瞬間には俺が真っ二つになりそうだ。
「万事休すか?降参しても良いんだぞ。」
残念ながら、降参の作法など師から教わったことはない。全身の筋肉を踏みしばって刀を受け止めつつ、頭の中を必死に動かす。
ーーー何か…何か打開策は……
追い込まれる身体、何ら出てこないヒラメキ、余裕の笑みのヒスト、全てが俺にとどめを刺しにくる。
降参すべきかと諦めたその時、珍しく俺に追い風が吹いた。
ガラガラと床が崩れ落ちる。かの巨人ヘラクレスの馬力というのはすさまじかったのだろう。
お互い床の垂直抗力を失い、ともに力の釣り合いを失う。ヒストの剣は空を斬り、俺の剣は未だヒストの脇腹の高さに位置する。これは俺にとっての絶好の機会だ。
ここぞとばかりに俺は剣を大振りする。
が、流石というべきか。ヒストは空中でもヒラリとかわしてみせ、間合いを図る。
お互い相手から目を離さない。着地した瞬間が決着のときと確信しているのだ。
とてつもなく長く感じる滞空時間。落ちる瓦礫の音。そして、かかとが大地を踏む。
ヒストが踏み込んだ。剣を前に出していた分、着地からの突進という一連の動作が迅速。
対して俺は右手に握った剣を右側に大振りしたせいで、体の前ががらあき。ヒストはそこをめがけて剣をあげる。
その剣が振り下ろされようとする!
「反別式 Down zero」
しかし、剣が俺を斬るより早く、俺は魔法具の魔法を詠唱した。
そして、ヒストの剣は俺を真っ二つにすることなく、見えないものに弾かれてて、俺の後方に音をたてて落下した。
愕然とした表情のまま、止まれず勢いよく突っ込んでくるヒストを剣を持たない腕で抱え、そのまま壁に叩きつける。そして、その白い首筋に剣を添える。
「勝負ありですかね。」
抗おうとする下半身も足で押さえつける。流石に身動きが取れなくなり、ヒストは大人しく、
「私の負けだ…」
両手を挙げて降参を示すヒスト。ここは男らしくと、素直に拘束をとんと彼女は床にへたりこんでしまった。
「最後何故、私の剣が弾かれたか聞いて良いか?」
「俺の魔法具の1つの魔法、『Down zero』って言うんですけど、まあ、何と言うか過去の斬撃をゼロ、原点つまりこの剣に戻すんですよ。」
雑な説明だが、概ねこの通りだ。
落下時に振った剣によって空間が斬られ、そこに斬撃破が残る。『Down zero』はその残った"残"撃波を発生の原点である剣に集束させる。要するにその空間内の"残"撃波が全て『次元の剣』の元に飛んでくるのだ。
「なるほど、貴方は床が崩れ始めた時点で、私の上から攻撃できるよう、空中に斬撃破を残したということか…」
「まあ、そんなところです。」
「参りました、と言わざるを得ないな。これでは貴方と話し合いに応じるしかないな。魔術、科学派分離について。」
ヒストは満足げな、そして優しい声で言った。
「良いんですか?別にそんな賭けのために戦った訳でもないのに。」
「まあ、みねうちにしてもらったし。あくまで検討の為の話し合いをすると約束しただけだぞ。」
「ヒストさん、ありがとうございます。」
「では、その堅苦しいのはやめにしよう。ヒストで良い。敬語もやめだ。」
友人みたいな話し方だ。まあ、こっちの方がしっくりくる。なんとなくだが、俺は気に入られたような気がする。思い上がりかもだが。
「じゃあ、よろしく。」
「うむ。仲直りといこう。」
ヒストの差し伸べられた手を握る。これで一応、ヒストと敵対関係は解けたという事で良いのだろう。
ならば、フミカとソルが仕事を完了するまでに早くそれを伝えねばなるまい。
「あの…」
ドゴォォォォォォ!
その瞬間、怒号のような震動が城中に響く。
「なんだ!?」
「下のフロアからか。私は下に降りて何が起きたか確認してくるから、ここで待ってい…」
「俺も行きます、仲間が潜入してるんで。」
ぎょっとした顔を一瞬見せたが、すぐに落ち着き払って、よしと階段へ駆け出した。