第七話 次へのステップ
一章完結!(なんか長かった……)
話の起点、次章への足がかり⁈
どうぞお楽しみくださいませ!
しんと静まり返り、所々朝日が差す校舎。
まだ誰もいない。教師も、部活の朝練に来る生徒も。
……のはずなのだが。
「ったく、何をしてるのかな? このお盛んな少年君は」
「本当にごめんなさい……」
生徒指導室と呼ばれる部屋に二人、斗真と彼の担任桜咲加奈子が対面するように座っている。
彼女の要件は昨日の事件……もとい、騒動。
その事で斗真は呼び出しを受け、今に至る。
「まったく、大変だったんだぞ〜? 私がどれだけ苦労したか分かるか〜?」
「は、はぁ……」
何も言い返せないな。勝手に暴走したのは僕だ。
けど、なんだろう……とてつもなく貞操の危機を感じる……。
そんな斗真をよそに、加奈子は斗真の横に座る。その距離、わずか数センチ。
「大変だったが……私の(好みの)可愛い生徒のためだ。そのためにはこんな事、なんでもないさ」
「は、はぁ……ありがとうございます」
斗真の肩に、腕を回した加奈子の手が置かれる。
やばい。この先生本当になんかやばい!
手に凄い力かかってるし!
「そこでだ、斗真。先生としては、何かお返しが欲しいわけだ。だがら……」
段々と力が強くなる手に、斗真はこれ以上いたらまずいと悟る。
「あ、すみません! 急用を思い出したので……」
「まぁ、待ちなさい。まだ話は終わっていませんよ」
「え、でも……」
「いいからこっちに来な……さいっ!」
ドシン!
大きな物音を立て、二人が倒れる。正確に言えば、斗真が下、加奈子が上といった構図。
側から見れば、教師が生徒を襲っている危ない絵面になっているわけで。
「せ、先生⁈ これは、その……」
「大丈夫だ。私に任せなさい」
「任せるって何をですか⁈ というか、何をする気ですか!」
「何をするって……ナニに決まっているじゃない」
ひぃぃぃぃ! この人、本気だ!
校舎内での魔力行使は基本禁じられている。この先生、力が馬鹿みたいに強いから押し倒せない!
「それじゃあ……い・た・だ・き・ま・す」
「ひっ……!」
斗真が観念した、その時。
「えー……桜咲先生。至急、職員室までお願いします」
「ちっ、あと少しだったのに……。まぁ、またの機会にでも……」
またの機会にって何⁈ それより、この人あれだよね⁈
年下趣味《ショタ好き》だよね⁈
「じゃあな、斗真。次は……逃がさないからな。んっ」
加奈子は斗真の額に軽くキスし、指導室から出る。
斗真はしばらく、全身を襲う悪寒と冷や汗でしばらくそこをうごけなかった。
「斗真君、おはよう……ってどうしたの?」
「全ては夢なんだ。そう、夢だったんだ」
「な、何が夢? どれが夢なの?」
「僕は何もされてない、されていないはず……されていないんだ……」
穂村の声は届いていないのか、独り言をぶつぶつ言う斗真。
その光景はあまりにも変だった。
「おはよう、二人とも! って、どうしたんだい? 朝から珍妙な者を見た顔をして」
「あ、風魔君。実は斗真君が少しおかしくて……。精神が安定してないみたい」
「ふむ、どれどれ……」
風魔は、斗真の事をじっと見始める。
数分経ってから、何かを思い出したかの様に手を打った。
「そういえば、以前同じ様な生徒がいたな。物凄い元気だったのに、急に大人しくなり、機械の様にずっと独り言を喋っている」
まさに、今の斗真である。
「そ、そんな……」
「これについては謎だらけでね。話を聞きたいのだが、会話が成り立たないんだ。だから、聞きたくても聞けない。しかも……」
「何故か、可愛い部類に入る一年生のみ。ですよね?」
風魔の言葉を引き継ぐかのように、両手に色々な資料を持って現れる綾香。彼女の魔力の影響で、神出鬼没に現れる。
流石に、長く(?)一緒にいる二人は慣れたが。
「おはよう、綾香君。そうなんだよ。そういう部類の生徒だけが被害に遭っている」
「え? それってただの年下趣味《ショタ好き》……」
「まぁ、そうなっちゃうね。でも、困ったな……まさか、黒崎君が被害者になっちゃうなんて……」
「ところで、綾香の持ってきたその大量の紙は何? 私達の細かいデータみたいなものが書かれているけど」
「あぁ、これはね……」
綾香が何か言おうとした時、扉が開けられ教師が入ってくる。
流石の斗真も、物音には反応し顔を上げる。
それが誰か分かった瞬間、斗真の顔から生気が失われた。
「えー、今日は授業は無くテスト対策の会議をしてもらいます」
「テスト対策……ですか?」
いきなり何の脈絡も無く告げらた言葉に、生徒全員が疑惑の表情を浮かべる。
一人を除いて。
「詳細は部活ごとの一年リーダーに話である。では、各自行動するように」
「待ってください、桜咲先生! 部活に入ってない人はどうすればいいんですか?」
「お、うちのクラスにもいたか。なら、私と一緒について来なさい。入ってない人同士で組むから。では、解散!」
「……と、言う訳なんですよ」
「いや、何がなんだか。記述、学問テストの他に評価テストがあることまでは分かった」
「その内容が……生徒同士でのサバイバル?」
部室に集まった七人は、状況を把握しようと綾香の説明と紙を見る。
いきなり過ぎて何がなんだかさっぱりだが、とりあえずテストの事だけは、一応全員が理解できた。
一応は。
「あ、あの〜。黒っち、どうしちゃったの? 話聞こうとしたら泣き出して止まらないんだけど……。でも、なんか可愛い」
「……しばらく構っといてくれ、杏君。原因が分かったから」
「分かったのですか?」
「先程の時間でな。俺らの担任、桜咲先生が関わっているんだと思う」
「……なるほどな。なら、合点がいく」
「何か知っているのかい? 土間君」
「あくまで噂だが……その先生、年下趣味と言われていてな」
「黒崎さんは、その毒牙にかかりそうになった……というわけでしょうか」
知りたくなかった事実が判明。斗真が可哀想になってきた六人であった。
「よーしよし、大丈夫だよ黒っち。黒っちは何もされてないからね〜」
杏の慰めも虚しく、斗真はまだ立ち直れていない。
そして、解決しなければならない問題はまだある。
「このテスト、人数制限がされてないみたいですが……。私達の部は不利ではありませんか?」
「確かにな。サバイバル戦において、人数は重要。連携や戦術も、多い方が組みやすい」
「私達の部は七人しかいないから……あれ? これってまずくない?」
「真っ先に狙われるだろうな。この評価テスト、倒した他生徒の分の加点がある。しかも、クラスによっての点数の差がない」
「つまり、人数が少ない所から潰していって、後は防衛戦にすれば点数稼ぎができるってこと? 風魔君」
「そうだ。だから、こちらは作戦が必要。そうだろ、綾香くん」
「皆さんの理解が早くて助かります」
つまり、人数の不利を活かして戦わないといけないのか。一番難しいな。
はっきり言って、多勢に無勢だ。だが……。
風魔には、一つだけ作戦があった。それには、今再起不能な状態になっている斗真が必要なのだが。
「ちょっと杏さん! 何してるんですか!」
「だって、可愛いしあったかいんだもん。先生が襲った気がわかるかも」
「……グスッ」
「斗真君、しっかりしてぇ!」
「……まずは黒崎君の治療からか」
「そうだな」
風魔と武は顔を見合わせ、苦笑いする。
おそらく、考えていることは同じだ。そう、二人は確信する。
暑くなっていくこの季節、斗真達の学園は更に熱い夏を味わう事になるのであった。
(いかがでしたか?)
精神がやられた斗真は大丈夫なのか?
また、魔力研究部の運命は⁈
次回、第二章!(いきなりバトルからではありません)