1‐5
街の入口の近くに交易所がある。物品を売買したり、外貨を両替したりする。大きな街では門から入ってすぐに見えてくるのはこの建物だろうか。この街も例外ではないようで先に街中にある宿に入ったアルフ達にとっては戻る形となる。
街の景観を壊さぬように建物の造りは同じ。壁は石造りで屋根は撥水性の高い木の樹液が塗布された木材だ。雨粒を上手く流すように緩やかな傾斜がつけられている。大きさは宿屋と同じくらいの大きさ。つまり二階建ての建物で、品物を強盗から守る為かあまり窓はない。もっとも兵士が常駐しているのでこのようなところに強盗しようなどと考える輩はほとんどいないだろうが。
建物の外壁、ドアの近くに看板が掛けられていた。お金と塩を表す絵柄が矢印で交換されているように見える。これが交易所の印だ。
街にはここと同じように、印が掲げてある建物が数多く見える。どれも商売をしている建物で、印がなんの商売をしているのかを表す。食材を売っている店ならその食材の印。宿屋ならベッドの印。文字ではなく記号にすることによって初めて来た異国の人間にも何をしているかがわかりやすいという具合だろう。
建物の中はその大きさに反比例し、客の入る空間は少ししかない。ドアから入って宿の一部屋ほどの空間があるくらい。その後は小窓の設置された壁に隔てられ、そこから金品のやり取りをするようだ。
「おーい。誰かいないのかー?」
カウンターに誰もいなかったようなので、大声で呼んでみると奥から一人の男がやってきた。
「すみませんねえ、用を足していまして。」
あまりきれいとは言い難い布で手を拭きながら言う。客相手の商売にもかかわらずどうなのだろうかと少女は思ったが、アルフは全く気にしていないようだった。
アルフは荷物の中から売れそうなものを出す。前の街で仕事をしたときに獲得したものだったり、自分では使わない物。それに少女を助ける時に死体を漁って得たブローチなどを出した。
少女はカウンターに出された物品をもの珍しく見る。記憶のない少女にとっては何もかもが初めて目にするもので新しいのだろう。商人が物品の状態を確認するために手に取る度に、少女はアルフに聞く。これは何?これは何に使うものなの?アルフも待っている間は特にやる事もないので少女の問いに答える。もっともアルフは学者でも博識でもないので説明は大雑把なものだったが、少女はそれで満足したらしい。
「おい、ちょっと待てよこれだけか?」
カウンターに置かれた貨幣をみてアルフは言った。
「これから冬の時期を迎えるのでね、皆あまり出費をしたがらないのですよ。保存のきく食料品ならともかく、装飾品をこの時期に買うものはあまりいないでしょう。なのでこの金額にしかならないのです。言っておきますけど、この街に交易所はここしかありませんよ。」
淡々と言う商人の言うとおり、この街に交易所はここしかない。街の出入り口は四つほどあるが、一番大きな門のあるここしかないのだ。それはアルフも確認済みだったので何とも言えない。
「もう少し行くと思ったんだがなあ。」
「すいませんね。私どもも商売ですので。」
「これは、多いのかしら?それとも少ないの?」
少女が疑問を投げかける。
「俺が予想してたよりもいかなかったが、決して少ない額じゃねえ。これだけあれば少しの間はしのげるだろう。」
ふーん、と少女は貨幣を触る。アルフも使わない物をいつまでも持っているほど袋に余裕があるわけではないので、この金額で承諾した。
「その剣もお売りいただけるのであればもっともっと出しますよ。そこにあと金貨三十枚ほど。」
破格の値段だった。それでもアルフは断る。
「すまねえ、これは俺の相棒だから売ることはできねえんだ。」
「そうですか。」
眉間を上げ、金を袋に入れると、二人は店を出た。