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「いやっ! やめてください!」

 叫ぶ少女に男は腕をつかむ。

「いいじゃねえか。行くところがないんだろ? 俺達が親切に街まで連れて行ってやるって言ってんだ。」

 周りの男たちは汚らしい笑い声をあげる。

「ちょっと! 離して! 叫びますよ!」

 少女は掴まれた手を振り払おうとするがその力の差は歴然で、無理に払おうとすると余計なところに力が入って腕を痛めるかもしれなかった。それでも少女は男達に抵抗する。

「叫んだところで誰も来ねえよ。ここは街道のど真ん中だ。周りは見渡す限りの草原、誰がお前さんを助けてくれるって言うんだ。」

 それでも少女は黙ることはなく、高い声で叫び続けた。

 男たちは盗賊だ。あまり名の知れた盗賊ではなかったが、それなりにやる事はやっている。旅人や自分たちよりも弱そうな者を襲い、金品を巻き上げ街で売る。そうして得た金で生活していた。この時も街へと奪った金品を売りに行く途中だったようで、屋形には沢山の物品が乗っていた。

 こういう輩にとって女と言う存在は慰み者になるか奴隷として売られるかの二択だろう。この少女がどちらになるかはわからないが、どちらにせよ酷い結末をむかえることは確かだろう。どうあがいても少女の力では恰幅の良い男たちの腕力に敵うことはないだろうしヘタに抵抗すれば最悪その場で殺されるだろう。

 抵抗する気力も尽きかけていた時、少女は遠くから走ってくる人影を見た。

「大勢の男たちが寄ってたかって女性をさらおうとするとは、とてもいい趣味とは言えねえな。」

 馬車の近くまでやってきたアルフは開口一番にそんなセリフを吐いた。

 当然のことながら、男たちの一人が睨みを利かせる。

「じゃまなんだよクソガキ! すっこんでろ!」

 アルフはこの男達じゃ話にならないとため息をつく。

「お嬢ちゃん、助けが必要かい?」

 アルフは髪と同じ色の瞳を、今にもさらわれそうな少女の青い瞳に向けた。少女も藁にもすがる思いで頷き、叫ぶ。

「助けて! 助けてください! 私にできる事なら何でもしますから!」

 アルフは少女の言葉を聞くと口を開く。

「よし、契約成立だ。」

 アルフは少女から視線を外し男たちを睨み付け、剣を抜く。青白い刀身が日光で輝く。

「今日もきれいだ。」

 そう剣に向かって呟くと、切っ先を横に、敵の喉に向けるような構えをする。

 男達もそれぞれナイフを抜き、アルフに向ける。

「獲物を向けられたら殺されても文句は言えない。正当防衛だ。後悔するなよ。」

 一瞬その場の誰もが思った。先に剣を抜き、相手に向かって構えたのはアルフじゃないかと。しかし、その空気からか誰も言わなかった。

「うるせえ、死ねぇ!」

 安っぽいセリフを吐き向かってきた盗賊の一人は、少し切っ先を下げた剣に持っていたナイフを跳ね上げられ、そのまま振り下ろされた刃に袈裟切りされる。叫ぶ間もなく一人の命が失われた。

 アルフは剣を構え直すと二人目の男に向ける。あまりにあっけなく一人目の男が死んでしまったので、二人目の男は身動きが取れない。口からは絞り出すような声を出しているが、それは言葉になっていない。

 うろたえながら死んだ男とアルフとを交互に見ているうちに、アルフは距離を詰め、剣の柄で男の腹部を強打する。衝撃に、白目をむいた男は唸り声を上げてうつぶせに地面に倒れ込んだ。その背中に片足を乗せたアルフは躊躇なく地面ごと男の頭を断頭した。

 アルフの剣に躊躇はない。今までもこうやって生きてきた時も幾度となくあったのだ。

 最後の男は片手で少女を掴みながら、もう一方の手でナイフを向ける。腕っぷしに多少の自信があったこの盗賊たちだったが、こうも簡単にやられてしまうと、自身よりも恐怖が勝つのか、ナイフを持つ手は震えていた。

「どうした。手が震えているぞ? 怖いんじゃないのか?」

 言いながらジリジリと距離を詰めていく。

「それ以上近づくんじゃねえ! こいつを殺すぞ!」

 盗賊は少女にナイフを突き立てる。少女は小さく悲鳴を上げた。

「目を瞑っていろ。一瞬で終わるから。」

 盗賊に言ったのか、少女に言ったのか、アルフは右足で殺した盗賊の持っていたナイフを砂ごと蹴り上げた。砂は盗賊の視界を奪い、ナイフは指を切り落とした。あまりの痛さに少女を抱える腕の力が緩む。

 少女が逃げ出す素振りを見せた途端、アルフは剣を大振りに盗賊を頭から尻まで縦に両断した。半分になった盗賊は地面の血だまりに音を立てて崩れ去ると、少女はアルフの元へと駆け寄ってきた。それをアルフは優しく抱きしめる。

「もう、大丈夫だよ。」

 剣を構えてから五分とかからずに三人の男を倒したアルフは強いだろう。並みの戦士じゃ勝てないほどに。

「あ、ありがとうございます。」

「とりあえず、ここにいては面倒だから場所を変えよう。」

 剣についた血を払い、鞘に戻しながら言った。

 ちょっと待っててください、そう言って少女は馬車の屋形に潜り込む。アルフはどうしたのだろうという顔をするが、少女がいなうちに、盗賊の死体から金品を漁る。これも立派な盗賊行為だと思うのだが、誰も見ていなければ言いようがない。これも生きるためと、アルフは少女が帰ってくる前に済ませる。

 少額のカネと銀と宝石でできたブローチを袋にしまったアルフ。少女を待つ間、街道を一歩でた木陰で休むことにした。が、すぐに少女は屋形から出てくる。手には小さな箱を持っていた。

「それだけ?」

「はい……。」

「じゃあこの場所を離れよう。とりあえずこの先の街でいいか?」

「えっと……。」

 少女は言葉に詰まったが、すぐに小さくハイと返事をしたので、アルフは不思議そうな顔をしながら歩き出した。少女はアルフについていく。


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