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街道。と言っても石畳で完璧に舗装されてあるわけではなく、大きな石や砂利をどけて平らに均しただけの土の道。そこが街道だと分かるのは、道の脇にレンガがキッチリと二段分並べてあるからだろう。それは街から街へと繋がっていた。
街道は意外も広く、馬車が二台並走してもまだ少しの余裕があるほど。
その街道を一人の男が歩いていた。男の名はアルフ。
暗い赤色の髪をしたアルフは長身で細身、長く歩いたせいか、けだるそうに歩いている。身なりは貧相でも裕福でもなくどこにでもいるような恰好をしていた。唯一、その身なりには合わないようなきらびやかな装飾の施された両刃剣に、荷物の入った袋をくくりつけて肩に担いでいる以外は。
歩く先には割と大きな街がある。王都ほどではないが人口も多いだろう。このままの速度で歩けば昼飯時は逃すまい。
アルフは街から街を転々とし、生活している。行く街で仕事を請け負い、金を稼ぐ。どこかの街に定住した方が安定した生活も送れそうなものだが、彼はそれが肌に合わないようで数か月で街を出る。早ければ一週間ほどで。
街道に一台の馬車が止まっていた。アルフのはるか前方だ。馬車からは数人の男の騒がしい声と、一人の女の声がする。
アルフは歩きながら聞き耳を立てた。彼らが何を言っているのかまでははっきりと聞き取れなかったが、女の口調に悲鳴のようなものが聞こえた気がした。
「トラブルか!」
嬉しそうに口角を上げると、さっきまでの気怠そうな足取りはどこへ行ったのやら、馬車へと一直線に走って行った。