第1章 3話 黒狼との戦闘
ミュイーー
『グルルルゥゥゥゥゥゥ』
山田と目が合う巨大な黒狼 、、、
少しづつ後ろに下がろうと思った、その刹那
5メートル程の距離を一瞬で詰められ、黒狼の牙が一瞬にして山田の喉元に迫る。
その間ほんの1、5秒程、、
「なっ! ぅあっぶ、、、」
飛びかかる予備動作を感じ、見るよりも速く、、山田は強く地面を蹴り、飛びかかってきた狼の腹の下を潜るように頭から斜め左に前転し飛び込む。
すかさず前回り受身をとり、勢いをそのままに、背後へと視線を向ける。
黒狼が飛び掛る動作を感じ取り、一拍早く反応した筈だが、それでも紙一重。そしてあの一瞬で予備動作を感じ反応できた自分への驚き、、、だがそれも
横を漂う、強烈な獣の匂いで消え失せる。
「あ、あぶねぇ、、」
ゴクリ、、、と唾を大きく飲み込む山田
『……ガァルルルゥゥゥ……』
一発で仕留めきれなかったことへの驚きと、明らかな捕食対象である目前の人間に回避された事に苛立っているのか、、、
鼻先から尾先まで3メートルはあるであろう黒狼は、山田を更に威嚇し、襲い掛かる準備に入る。
「これは逃げられぇね……」
本当に勝てるのか、、、格闘技があんな獣に通用するのか、、、負ければ恐らくあの大きな顎でかみ殺される。
死の恐怖を感じながらも、やるしかないと覚悟を決める。そうして山田は格闘技を通し自分を磨いてきた。
『グルォォォアッ!』
そんな覚悟を知ってかしらずか、黒狼は山田に再び飛びかかる。
牙が迫る中、反射的に、山田の身体は動く。
前よりも、身体の筋肉の出力、俊敏性、が上がっていることを感じながら、、、
「シッ!」鋭く息を吐き
地面から黒狼の後ろ足が離れた瞬間を狙い、
山田は頭を下げ、首を狙った噛みつきの軌道から逃れる為に、姿勢を低くし、咄嗟に右足で地を蹴り進む。
飛び上がり、浮き上がった黒狼の後ろ足に
向かってタックルを仕掛ける。だが正面からのぶつかり合いだけがタックルではない。
総合格闘技の経験を生かし、向かってきた黒狼の後ろ足を掴むと思いきや、踏み込みの速度をそのままに 左手を引っ掛け、身体で反時計回りを描きながら右手を黒狼の背後、腰の辺りへと手をまわし黒狼の背後にまわる。
そのまま、背後から両手を黒狼の胴の方へ、両足も後ろから腰へと回し、全身でしがみ付く。
ちょうど狼におんぶされている様な状態になる。
この状態では、狼の武器である爪と牙は自分には届かない。
暴れる黒狼、その筋力速度は凄まじいものがある。
強烈な獣臭を鼻に感じながら、山田は少し手ごたえを覚える。この大きさの狼にしがみついて、
決して力に圧倒的な差がある訳ではないことに気付く。
「クッッ! ガバァッ……ウッ!」
無茶苦茶に暴れまわり、手当たり次第に回りの巨木に身体をぶつける黒狼を余所に、それでもなお山田は背後からの締め付けを緩めない。
身体を痛みが襲う。血と嘔吐物がこみ上げてくる。
それでも離さない。足で狼の腹部にしがみつき、少しずつ位置を調整、、黒狼がバランスを崩した隙に、右手を黒狼の太い首に回し左手の二の腕をつかみすかさずチョークスリーパーの形に入る。
だが相手は獣、自然界において首とは弱点であり、一番守らなければならない場所である。
黒狼の針金のような毛と、太い首回り、なんとか腕を回せたが、ここから締め落とせるだけの自信がない。一瞬心に不安が過ぎる。
だが不安を感じようがやることは一つしかない、ここでこの黒狼を、落とさねばならない。
一気に締め上げる。この時この瞬間、、、、、
総ての力を筋力を注ぎ込んで、黒狼の首を締め上げる。
締め上げながら山田は感じる。この見たこともないデケェ狼は、同じ生き物だと、、と言うか、、、
そもそも狼など見たことないが、
そして、確かに脈打つ二本の動脈。
幾度も寝技で繰り返してきたチョークスリーパー
この太い首を締め上げるのではない。
ただ二本の、重要な血管を締め上げる。
『ガァルッッ!! ガァルルルゥゥゥ!!』
まだだ、まだまだ、締め上げる。 ピンポイントで締め上げても、山田の腕に感じる、力強い脈動。
「フゥんッッッッッッッッ!」
山田の腕に太く枝分けれした血管が浮かび上がる。
依然、黒狼は暴れ続けている。だが腕に感じる脈がさっきより心成しか弱くなった気がする。いや、明らかにさっきより勢いがない。
確実に効いている。
血管に人も獣も関係ない。
山田の身体は回りの壁の様な巨木に、何度も打ち付けられ、全身が軋みをあげ、皮膚が裂け、血飛沫が舞っている。
それでもまだ締め上げる。ただ二点の血管を意識して、ひたすら力み続ける
この手を離した時が
己の命を手放す時だと、そう必死に心で唱えて、
そして、何十分経っただろうか、、、、
この戦いも終わりに近付こうとしているのを山田は感じた。
『グルルルゥゥゥ、、クゥゥゥゥン…………』
次第に黒狼の足取りが覚束なくなり、
しまいには前足、後ろ足を折り、顎をふせ、、
哀しげな声を上げながら、泡の混じった涎を垂らし黒狼は完全に他に伏せる。
これだけ締め上げても、まだ力強い息遣いが
聞こえる。
それでもまだ脳への血が止まり、一時的に気を失っただけだ。それを知っている山田はまだ、手を離さない。
まだ力を緩めない、、、、
確実にこの黒狼を殺すにはまだ少し血を止めてなければならない。肉体で及ばぬなら脳を殺すのだ。
そしてそこから何分後かのかの後、、、
ひと気は大きな痙攣が起こり
黒狼は二度と動かなくなった、、、、
必死にしがみついていたせいか、腕も脚もカチカチに固まっている。なんとか腕と脚を剥がし、自分が殺した、黒狼なら横に、大の字になり横たわった。
もし生きていたら、そんなことを思う山田だが
もう黒狼からは息遣いが聞こえない。
口からは舌が出て、泡混じりの涎が流れ落ちるだけである。やはり殺したのだと確信する。
そして罪悪感と安堵のなか、暗い森の木漏れ日を見上げ大きく息を吸い、もう少しの力も出ないことを感じながら、一息つこうとしたその時、、、
山田の身体に異変が襲う。