第1章 冒険の始まり 第2話生き物との遭遇
「……んっ……此処はいったい ……」
山田は 寒さで目がさめた。
まだ視界がはっきりとしない。自分は何処で寝ているんだ、、、、
一瞬病院かとも思った山田だが、鼻にくる木と腐葉土の匂い、視界に映る薄黒い異様に大きな幹の木々、底から生えた、地を鞭打つような根を眼にし、その思考は払拭される。
事故からそこそこな時間が経っているような気がする。 体感にしておよそ10時間程だろうか、正確な時間はわからない。
それに背負っていたはずのリュクもなく、ズボンのポケットに入れていた、スマホも見当たらない。恐らく跳ねられた時に何処かに失くしたのだろう。
「荷物も、スマホもねぇし、マジで何処なんだよ……てか何で俺、森にいんだよ……しかも木デカすぎんだろ…てか俺トラックに跳ねられたんじゃ……」
山田は混乱が収まらぬ中、自分の着ている服を見て肝を冷やす。 ボロボロになったTシャツには胸から腹にかけて大きな赤黒い血の跡があり、山田は恐る恐る、血のこびりついたシャツをめくりあげる。
「……あれ…怪我してねぇー何でだ、そういえば身体も痛い所がねぇ、マジで訳がわからん」
あの時感じた痛みは本物であり、 トラックに跳ねられたのは事実である。頭に異常でもあるのだろうか、、そんな事を考える山田だが、明らかに異常なのは今のこの状況である。
トラックに跳ねられ、意識を失い、目がさめると見知らぬ森、血まみれの服に、無傷の身体
まるで漫画のようなSFのような状況だと山田は思った。だがそんな事を考えるよりも、まずこの状況を打開しなければならない。
試合もあるし家に帰らなければならない。それに応援してくれている友達もいる、いつまでもこんな訳のわからない森にいてる場合ではない。
山田は前に見たテレビ番組の知識を思い出す。
「確か、こんな時川を見つければ良いんだっけか……はぁーわかんねぇーとりあえず歩くか…いや、その前に木に登って上から見わたせばっ!」
そんな事を思いつく山田だったが、目に映る木々はどれも大人7人でも囲えない程に幹が太く
とても人が足や手を掛けて登れる引っ掛かりは見当たらない。枝は20メートル程も上の方で別れているが、枝も枝と言えるような太さでは無い。
「これじゃ、さすがに無理だなぁ
歩いて探すしかねぇか。ジムに行きそびれちまったし、はぁー、、、家に帰れんのか、、、、」
山田は緊張とこの先の不安を少しでも和らげるために、太く歪な木々を目に見据えながら、虚空に向かってパンチを繰り出す。少し体が温まり、ある程度心を落ち着かせ、山田は歩みを進める。
「この先を進むのかよぉ……何だか不気味だしこんな根っこ見たことねぇぞ……でも進むしかねぇんだよな……」
不安からか無意識の内に独り言が増える。
道と言える道などないが、大木と大木の間にある空間を、歪な根に脚を取られながら時には巨大な根を越えて行き、前へと進んでいく。
「あんまり虫や草が生えてねぇんだな、それにこの森は少し寒いし、木の色も気持ち悪いし、本当に不健康で不気味な森だぜぇ…まったく……それにこの先、こんな根っこをいちいち越えてたら流石の俺も体力がもつかどうか………」
その巨大な木の生命力故か、黒い巨大な木々以外に植物は見受けられない。辺りは見渡す限り巨大な木々と底から生える歪な根のみ。
「今が朝なのか、昼なのか、感覚としてはまだ夜くらいのはずなんだが、何で少し明るいだ…」
山田がジムに向かったのは夕方の17時頃、それからの体感時間を考えるとまだ夜の筈だと思われるが、そびえる巨大な木々の先、生い繁る葉の隙間からは細い光が幾重にも射し込んで見える。やはりおかしい、だが、疑問に思っても取り敢えず進むしかない。
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進み出してから何時間たっだろうか恐らく5時間以上はあるいたんじゃないだろうか、いや3時間か、
一向に景色が変わらないせいで、時間の感覚までおかしくなってきた。道中ずっと考えていた、、頭の中を巡る今自分が置かれているこの状況。
もし別の世界だったらどうしよう、そんな考えが頭を過る。山田も小さい頃はオカルトやファンタジーを信じていたが、もう今や18才、漫画や映画で楽しみはすれど、本当に信じてはいない。
ただその考えを覆しつつあるこの状況。見たこともない木々。
明らかな身体の異変。山田は格闘技をやってきて特に日々の身体の調子、自分の肉体には常に気を使っているし、繊細な感覚を持っている方だと自覚している。
そんな山田が気付かない訳がない。
「何かやたら身体の調子が良いんだよな、、全然体力がへらねぇ…まじで別の世界かもしんねぇー そういえば何かの漫画で、こんなシュチュエーションがあった気がするが、あんま思い出せねぇ」
ここまで、道無き道を進んできた山田だが、いくら格闘技をやっており、体を鍛えていると言っても、此処までの道のりは流石の山田でも身体に堪える運動量のはずだったのである。
特にこの歪な森は目の前の波打つような巨大な根を 越えて行かなければならいアップダウンの激しい森である。
それに試合一週間前で、減量もしていて体力は落ちていたはずである。なのに森に来てから少し身体の調子が良すぎる。山田は色々な情報から薄々此処が元いた世界では無いのではないか、、
そんな考えに至る。
だがまだ信じたくはない。此処が異世界だなんて、山田の格闘技人生はこれからなのだ。
ジムの仲間や会長達の期待、家族の事もある。
早く家に帰らなければ、、突然自分が居なくなってみんなはどう思うだろう。
どんどん気分が沈んでいくが、無理矢理気持ちを奮い立たせながら山田は歩みを進める。こんな所で終わるわけには行かない。、
そんな山田の心を潰すように、絶望はやっくる。
『ワォォォォォォォォォオンッ!』
恐らく狼の声だろう。そう遠くない距離から聞こえてきた、恐らく30メートルもないだろう。
動物一匹居ない森と言うのもおかしなものである。足音と息づかいが大木と歪な根の向こうから聞こえてくる。
「ま、マジかよ……ここまで生き物一匹も居なかったのに、なんで此処に来て狼なんだよとことんついてねぇ…もし戦ったら勝てっかな…いやジャブで…いや目つきか…いやいやいや、、そもそも一対一とは限らねぇし……てか勝てんのか狼に、そもそも狼ってどれくらいの大きさだったか…大っき目の大型犬くらいだよな………」
『グルルルゥゥゥルゥゥゥ』
なんだかさっきより声が近くないか、、、
近づかれた音すら聞こえなかった。
そう思い山田は声のする方に恐る恐る顔を向ける
「え…狼、、、?でデカくねぇーか……」
うねる巨大な根の上にライオン程の大きさの黒い狼が一匹涎を垂らしながら、山田を見降ろしていた。