↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/1

前編


「琴音。もう2度と、君を逃がさない。」



!?

どうしてこうなった!?



出会い頭の言葉と共に自分を抱き締める美丈夫に一体何が起こっているのか理解が追い付かず硬直している間も、その美丈夫は「良かった。琴音だ。」と呟きつつ何やら首筋に顔を埋めてすんすんしているが、よもやそれは臭いを嗅いでいるんじゃないでしょうね!?やめてくださいっやめ…!


違う!そうじゃない!何が起こってるの!?


今日は大学の友達と楽しくコラボアフタヌーンティーしながらオタク語りしまくって、上機嫌で家に帰っている途中だったはずなのだ。

なんだか数年前に遭遇した目も開けないまばゆい光に遭遇した気はするが、そんなものには2度と遭遇しないはずだったのに。


そもそも私は、4年前にその光に遭遇し、異世界に召喚された事がある。

そうして召喚された先で元の時間に戻して貰える事を前提に1年間瘴気を払うお仕事をして、向こうのみなさんには今生の別れをしてこっちに帰って来たのだ。

そう…1年。異世界あるあるというかイケメンのみなさんに囲まれて1年瘴気を払う旅をしてほいほいとある人を好きになってしまい、現実を知って失恋して泣き帰って来たのだ。

お陰様で立派な男性不信である。

2次元のイケメンの方が大好きな立派なオタクだ。

2次元のイケメンは騙さないし裏切らないしこっちを認知しないからね。


さてここで現実を直視するしかない。

この人の匂いを勝手に嗅いでるらしい変た・・・美丈夫こそ、人に現実を突きつけた男である。


「や・・・!止めてください!」


なんとか手を突っ張って引き離そうと抗議の言葉と共に手に力を入れて見るがびくともしない。

けれど、一応言う事を聞いてくれたのか体は離れた。


「・・・琴音」


美丈夫もといカインがショックを受けましたと言わんばかりの表情でこちらを見ている。

この人のこの顔には弱いのだ。そうしてほだされて痛い目を見たのだ。

分かっていても罪悪感にキリリと胃が痛む気がするのだから困ったものだ。


「もう、瘴気は払いましたよね?今度は何の用なんですか?」


今更ながら周囲に前回の顔見知りも揃っている事に気付いて思わず少し後ずさり、といっても床に座り込んだ状態だったのでお尻で後ろにずれる程度なのだが、どういう状況なのかと見回しながら問いかける。


「また突然の呼び戻しで迷惑をかけてすまない。琴音。別室で説明しよう」


カインの奥に居た殿下が、前に出て屈みながら手を差し伸べてくださる。

前回も突然の事に混乱する私に、やさしく声をかけ落ち着くまで待って分かりやすく説明をしてくださった優しい方だ。






そんなこんなで、手を差し伸べてくださった殿下をよそに別室には自分が案内すると殿下へと伸ばそうとした私の手を掴んで譲らないカインと共に別室へと移動して説明を聞いたところ。

まず前回払った瘴気の払い残しがあったりしたわけではないそうで安心した。


その上で面目次第も無いのだが、という前置きと共に第二王女が王城の地下に封じられていた2代前の聖女が封じた魔竜を解き放ってしまったのだという。

第二王女は王位簒奪を目論んだ王弟に唆されたらしいのだが、王にカインが魔竜を倒したら褒賞として自分と結婚する様に王命を出して欲しいと言っていたというからちょっと呆れた気分になってしまうのは許して欲しい。

あの人・・・まだ諦めてなかったんだ。


王弟は自分こそが魔竜を討伐して王位簒奪の足掛かりにしようとしていた様だが、同じく王家が保管していた竜を殺すというなにやらいわくつきの剣を持ち出そうとして剣の呪いの様なものに侵されて全身が黒まだらの肌となって虫の息だそうだ。

そこでさらに問題がややこしくなった原因がその呪いがその血の末代まで影響を及ぼす類のものだったという点だ。

第一王女と第二王女、第二王子の3人にもその影響が出た事でその3人が王妃と王弟の不倫による子供だという事が判明してしまったのだ。

ちなみにこれを機に調べ直したら僕は陛下の子だったけど第三王女はまた別の父親だったねと笑顔で追加情報いらないです殿下・・・


ど・・・泥沼では!?

ちょっと引きつつ心の中で思っただけで口に出さなかった私は偉いと思う。


王弟が王位簒奪の為に味方に引き込んでいた人間は魔竜討伐も計画の1部だった事もあり軍部にも多く、王妃の処罰等も含めてただでさえ国を揺るがす事態の中、軍部の洗い出しも済まないうちに下手に魔竜に向かわせて同士討ちでも起きたら元も子もないと魔竜討伐に軍部の人間を向かわせる事も出来ていなかった。

しかしそうしていた期間はほんの数日だったというのになんと魔竜は国の北の端にある辺境伯の領地の山に陣取りそこから瘴気をばら撒き始めたのだ。

ばら撒かれた瘴気は物凄い勢いで広がり、周辺の生き物を魔物へと変えていった。


ここでさらに先程出てきたややこしくなった原因再度大活躍である。

なんと辺境伯の家へは王弟の長女がお嫁に行っていて子供を産み、現在子供が辺境伯を継いでいるのだ。

当然の様に呪いの影響下で魔物と戦闘どころか部隊の指揮もままならない。

カインを含めた聖騎士達が派遣されてはいるが、元々聖騎士は現在35名のみ。

辺境の騎士も加わってはいるが軍部からの部隊が無い状況で相手は無限に近い状態で湧き続ける・・・

瘴気に侵されて戦線離脱する聖騎士も出て来て、戦線崩壊も時間の問題という状況との事。

ちなみに王弟の次女と彼女の子供は全く影響が出ていないんだよねとまたも爽やか笑顔で殿下が教えてくれた追加情報もドン引き過ぎる。


ど・・・どろ(略)

なんて心の中で思った私に罪は無い。


とはいえ、そんな事をのんびり考えている様な事態でないことも確かだなと思う。

前回の魔物の被害に遭った街の様子が浮かんで胸が締め付けられる。

そんな緊迫した状況で、こともあろうにカインは前回の褒賞の話を口に出し、「私」を召喚する事を要求したという。

この状況で1から力の使い方を覚えている暇など無いのだから使い方を知っている人間を呼ぶのは合理的と言えると思う。

カインが口に出さずとも、恐らくその結論に至っただろうに何故それに褒賞を使う話になったのか、意味が分からない。


私の子守りなど反吐が出る程苦痛だと言っていたくせに・・・





あの日の光景が脳裏に浮かんでしまって思わず俯いた。

瘴気を払う為の旅が終わって、後はお祝いの式典に参加して日本に帰るだけという頃、盛大に夢を見ていた私は私の手を取りカインが告げた「今はまだ想いを告げる事を許される立場ではないが全てが終わったら・・・」という言葉を胸に、日本には帰らずにこのままカインとこの世界で幸せになれるのかもしれないと浮かれていた。

そんなある日お別れの挨拶を、と王妃にお茶に呼ばれて通りかかった通路の脇からカインの声が聞こえて思わず足を止めてしまったのだ。


「役得だったよなぁあんな可愛い子に1年侍って仕事になるなんてよ」


話相手らしき声は知らない声だった。

カインの知り合いなのか、下卑た笑いを含んだ声で話す内容に思わず眉間に皺を寄せてしまう。


この1年、カインには本当にたくさん助けられた、その1年を私に侍るなどという言葉で表現するなんて・・・会話に割り込んでしまおうかと行動に起こす前に、カインの声が続いて動きを止める。


「役得だって?そんなわけがあるか。ただただ子守りに耐える1年だ。機嫌良く瘴気を払ってもらう為のな」


今まで聞いた事の無い心底面倒そうなその声が、たった今口にしたその言葉が脳に届くまで時間がかかった。


「子守りに耐えるだって?ちらっと見ただけだがイイ体してたのになぁ?」


本当に城に出入りしている人間の言葉なのか疑う発言だったがその時の私の脳には見ず知らずの人間のそんな言葉はまともに届いていなかった。

『機嫌良く瘴気を払ってもらう為の子守り』

その言葉が何度も脳内を巡る。


「・・・反吐が出る程苦痛だ」


反吐が出る程・・・


「そこまで言う程か!?ひでぇなぁ」


追い打ちをかける様な言葉に、氷水を被せられた様に血の気が引いてカインと一緒に居た人間の笑い声を聞いている事も出来ずに、一目散に走って逃げる事しかできなかった。


自分は何を勘違いしていたんだろう。

美少女でもない自分が、異世界に来たからってあんなイケメンに突如モテるわけが無かったのに。

現実を思い知らされて、逃げ込んだ自分の部屋でしばらく立ち上がれず蹲っていた。


この1年の旅の、カインとの思い出だと思っていたものが全て、カインの反吐が出るほどの苦痛の上に成り立っていたのだ。


その後は、当時の私にはありがたい事にカインが急遽仕事で式典日まで不在となり、顔を合わせずに済み、殿下に頼んで式典が終わった後での帰還予定を、式典の一貫の形式で式典の途中で日本へと帰る様にしてもらって日本へと逃げ帰った。



一生涯記憶の奥底に沈めておきたかった黒歴史だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。