↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ちくわ採りのお兄さん②【密着24分生放送】

作者: 雪白めると
掲載日:2026/07/07


『日本のとある磯に、春になると自生する不思議な食材があります。』

『それは……天然ちくわです。』


 重厚なナレーションと共に、画面には荒波打ち寄せる日本海の絶壁が映し出された。

 カメラがズームすると、そこにはフジツボに混じって、茶色い焼き色のついたちくわが狂い咲きしている。


 潮風に揺れる無数の円筒形。

 時折、波を被ると「ピヨッ」という謎の産声を上げている。

 その魔境を、胴付長靴姿の若者が四つん這いで進んでいた。

 ちくわ採り歴十年のプロフェッショナル、竹輪海太郎である。


 彼は岩肌のちくわに顔を近づけると、赤子をあやすように優しく語りかけた。


「よしよし、いい焼き色だ。……おっと、こいつはまだ『すり身』のままだな。焼きが足りねえ」


 海太郎は白いちくわをスルーし、見事なきつね色のちくわの腹をコチョコチョとくすぐった。

 すると、ちくわが「クネッ」と身をよじり、スポンッと岩から抜け落ちた。


「海太郎さん! 今、ちくわが自分で抜けましたよ!?」


 新人リポーターの山田が、パニック寸前でマイクを向ける。


「ええ、天然物は警戒心が強いですからね。脇腹をくすぐって穴の筋肉を弛緩させるんです。スーパーの養殖モノは最初から穴ガバガバなんで、こういう情緒がないんですよ」


 山田は己の常識が崩壊する音を聞いた。


「ちくわの……穴の筋肉……?」

「ちなみに今、産卵期なんで気をつけてください。踏むと中からチーズが出ます」

「チーちくになっちゃうの!?」


 その時、海太郎の目の色が急変した。

 激しい波が打ち付ける絶壁の頂上に、信じられないほど太く、ドス黒い焼き色をした巨大ちくわが屹立していたのだ。


「……出たな。岩場のヌシ、『一本穴の悪魔』だ」


 番組のBGMが突如、デスボイスが響くヘヴィメタルに切り替わる。

 海太郎は命綱もつけず、素手で岩壁を登り始めた。


「海太郎さん! 死にますよ!」

「俺が行かなきゃ……誰があの極上のシズル感を引き出すんだよッ!」


 海太郎が巨大ちくわに手を伸ばした瞬間、ちくわの穴から高圧の海水がブシュウウウッ!と噴射された。


「うおっ!? 穴からの威嚇射撃か! だが甘い!」


 海太郎は海水を顔面で受け止めながら、ちくわに抱きついた。

 しかし、ちくわは岩肌にギュイイインと根を張り、モーターのような高速回転を始めた。


「手が! 摩擦熱でちくわになっちゃう!」


 山田の絶叫が響く中、海太郎は己の全重力をかけ、ちくわの回転と逆方向へ体を捻った。


「俺の愛で……お前の穴を、満たしてやるぅぅぅっ!!」


 ズッバァァァァァァァァァン!!!


 巨大な破裂音と共に、ヌシが岩から引っこ抜かれた。

 海太郎はちくわを抱きかかえたまま海へダイブし、見事な水飛沫を上げた。



 ***



 波止場のテント。

 テーブルには、神々しい巨大ちくわが鎮座している。


「それでは、命がけで獲っていただいた天然ちくわ……いただきます!」


 山田は感動で涙ぐみながら、巨大ちくわに豪快にかぶりついた。


 ――ガァァンッ!!

 鈍い金属音が響き、山田の顎が弾け飛ぶように跳ね返った。


「……ぎゃあああああっ!? 歯が! 僕の差し歯がぁぁぁっ!」


 山田が口を押さえてのたうち回る。

 ディレクターが慌ててちくわをフォークで叩くと、カキィィン!と火花が散った。

 それはコンクリートブロック並みの硬度を誇っていた。


「海太郎さん! これ、石ッスよ! まんま岩ッスよ!」

「ああ、このようなヌシクラスは自己防衛本能が強くて、収穫直後は全身のタンパク質を鋼鉄並みに硬化させるんです」

「鋼鉄!?」

「だから、採ってからおでんの汁で三日三晩煮込まないと、人間の歯じゃ絶対に噛み砕けません」

「…………先に言えやァァァァァァッ!!!」


 山田の血まみれのツッコミが、穏やかな漁港に木霊する。


『こうして、日本の食卓を守る職人の一日は終わる。大自然の恵みに、感謝——』


 山田が救急車で運ばれていくシュールな映像の横で、海太郎が満面の笑みで鋼鉄のちくわを掲げているカットで、番組は幕を閉じた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やだ…このちくわ、かっちかち…
天然もの、でかいと硬いのか……煮込むと柔らかくなるんですね! 勉強になります! 本当に②やったアアアアア!!! ありがとうございます!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。