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第十五話 GWの終わりに

疲労困憊の九十九蓮を出迎えたのは、食卓いっぱいの茶葉だった。

「蓮君おかえりー!栃木楽しかった?」嬉々として十和子が茶菓子の包みを開けている。

あぁ、色んなことに気を取られてなんの土産も買ってこなかった。

「大量に買って来たから、たくさん食べてね。」

ありがたい。一度別荘でばあちゃんの食事は食べて来たけど、余りのことでエネルギーが足りてない気がする。

「ありがとうございます。」

オンニとエマさんも、美味しそうに饅頭を食べている。

みんなしあわせそうで、なんか、良かった。


オンニはつい昨晩かぐや姫が置いていった手紙のことを考えていた。

「チャンドラレーカーへ。

 今までずっと居候してごめんなさい。そして本当にありがとう。あなたのお陰でたくさんのことを知りました。

 一つ言い残したことがあって、ここに書いておきます。

 あなたが昔結ばれなかった相手の生まれ変わりが十和子です。だからここを離れなかったの。ごめんね。幸せになってほしくて。

 私も自分の責任から逃げていました。これからは、月面の長として完全体で統率者となります。

 だからもう会いにいかないかもしれないし、行くかもしれません。

 勝手に筋トレして、髪染めて、本当にごめんなさい。でも、元気になって、自分を大事にして欲しかったから。

 これからも、月から見守っています。

 自分の人生を、強く生きてください。 かぐや」

十和子が。チャンドラレーカーは、少し、腑に落ちた気がした。世話焼きで、優しくて、理解できないものを面白がるところ。そういうところが、好きだったのかもしれない。

それは心から信頼して、打ち明けられる関係であった。友人としてこれからも支え合っていこう。そう思った。


ばあちゃんから電話がかかってくる。

「体調はどうだい?貧血になったりしてないかい?」

「大丈夫だよ。」

滝沢は、上司にゴリ押しして新しい法案を審議にかけてくれたらしかった。

鹿野と呼ばれた研究員も、最低限の資料から研究できるよう慎重に取り計らってくれた。献血ほどには血を取られることもなかった。

「あまり搾取するようならあたしが怒鳴り込んでやるから言いなさいよ。」

「失踪して心配しなかったくせに、心配しすぎだよ。」


九十九蓮は、懐かしいベッドに体を沈み込ませると、大きく溜息をついた。

なんだか色々なことがありすぎて、まだ脳が興奮している。

色々めちゃくちゃだけど、俺はやっぱり俺のままだ。

窓の外に止まったシジュウカラの首には、小さな監視カメラがついていて、蓮の安全を監視している。

ごめんよ、今はちょっと寝たいんだ。

蓮は障子を占めて、深い眠りについた。


「黒澤ヒマリさん。」

 ヒマリは、児童相談所の待合室で、面談を受けていた。

「君は、これからどうしたい?」

「私は、」

今まで自分は、どの仕事にも魅力を感じなかった。

中学受験して、進学校に来たのも、全部親の薦めるままに、気づいたら塾に入って、気づいたらここにいた。

なんだってそうだった。

何かしたくても、それは危ない、それは変な人脈ができるからと、制限されて。

過保護だったのかもしれない。

それとも、秘密を知られないために、わたしは、籠の中の鳥にされていたのかもしれない。


どっちなのか、それはどうだって良かった。

両親が捕まって、皮肉にも陽毬は初めて自由になった。

「私は」

広大な地球が彼女を呼んでいた。

「バックパッカーになりたいです。」


馬鹿にされるだろう。児童相談所の人に言ったらダメかもしれなかった。


職員のお兄さんは、優しく笑って言った。

「そうですか。君の希望を、尊重します。」


月面では、少しずつ人々が平穏な生活を取り戻しつつあった。避難民も元の地域へと大半が戻った。幾らかの人々は、消えない差別を恐れて帝の元に残ろうとした。

メイヴェンは、帝に資源対策の相談役として任命され、日々解決策を練っていた。

地球との交易。

EBEROとの和解。

一見最悪に思える選択肢が、現状を打開する唯一の選択肢であったりする。

それは、彼女がチャンドラレーカーと暮らした千年で身についた生存戦略だった。

革命家、反逆者は尋問ののち自宅に軟禁され、子供たちは意気消沈した親との無限の時間を過ごせるようになった。

カルテスは、帝のすぐ脇にぴったりとついて、飲み物を運んだり、コートを持ったりと、ほぼ執事のような仕事をしていた。

帝は、琥珀色の瞳に優しさを湛えて、最大公約数の幸福が得られるような政策を選択していった。

昔の彼女が戻って来たようで、彼は心から嬉しかった。そんなカルテスの気持ちを、帝も判っていた。


将来は、希望に満ちていた。


怪異対策機構の下っ端三人組は、路地裏で何処かの陰陽師が壊した瓦礫の山を片付けていた。

「先輩、マジやってらんねえっす。俺たち、片付けばっかで本当に戦ったことほぼないじゃないすか。」

「文句言うな佐々木。あの人達は滝行みたいなきっつい訓練うけて、命かけて戦ってくれてるんだよ。」

「いやぁでも尻拭いならEBEROが専属の掃除やを雇ってくれれば良いじゃないすか。」

「うーん、それは反論できないな。きっと資金の問題だ。カネだよカネ。」


近くを通り過ぎた警察官の白い瞳がふっと元に戻る。


それなりに質の良い老人ホームで、ヨボヨボの爺さんが、ゲホゲホとポップコーンを詰まらせながら立ち上がり、よろよろと歩きながら伸びをすると、こう言った。

「いやぁ、人間とは面白い。なんと愚かで良い見せ物じゃわい」

 目の白い従業員が、紅茶を運んでくる。

「さてと、ゴルフの時間じゃ」


 

最後までお付き合いくださり誠に有難うございました。


あなたに明日いい事がありますように⭐︎

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