表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

デジャヴュ 四


 ふと、女の様子がおかしいことに気付いた。さっきの黒猫のように固まったまま、俺越しに何かをじっと見つめている。

 嫌な予感がした。

「どうした?」

「なに……あれ……」

 その時、後ろからおぞましい唸り声がした。


「それがイノチトリってやつだ」


 咄嗟に振り返ってから、夢を見ているのではないかと自分を疑った。

 一軒家をゆうに超えるほど巨大な男が月光に照らされていた。いや、人間には見えないから男とも言い難い。何も履いていない足が俺の身長ほどはある。肌は黒い。顔の横に長く尖った耳が生え、大きく開いた口から舌がだらしなく垂れて、そこから見える牙のような歯は黄色がかっている。ぎょろついた目が俺を捉え、すぐに俺の脇の女に移った。

「ようやく見つけたぜ、女ぁ」

 そう言って、男は背筋が凍るような顔で笑い、舌なめずりをした。


 心臓が早鐘のように鳴り出す。危ない。

 本能的に思い、俺はとっさに女を見た。尻もちをついたまま巨大男を見上げ、ぽかんとしている。

「何やってんだ! 逃げろ!」

 俺が焦って思わず叫ぶと、男が先程よりもっと殺気だったうなり声を上げた。バイクエンジンの地響きのように、辺りの空気が振動する。男はその大きな口をゆっくり開けた。俺たち二人がすっぽり入りそうなほどデカい。歯も舌も黄色がかっていて汚く、すえた臭いが鼻をつく。そしてそのまま、男が身を屈めてきた。俺たちをまるごと飲み込む気だ。

「くそっ!」

 未だに動こうとしない女の手首を引き寄せる。男の影で辺りが真っ暗になった。だめだ。走って逃げようにも男との距離が近すぎる。女をそのまま抱きしめて地面に倒れるようにしゃがみ込むと、力いっぱい目をつぶった。


 喰われる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ