サイダーランド 七
「ねえ、二人は名前何て言うの?」
と聞かれたのでそれぞれ交互に名乗ると「梅と紫! 不思議な名前!」とリンゴが嬉しそうに笑った。
「ねえねえ、もう水精界には行った?」
と聞かれ、俺と梅はまた顔を見合わせた。
「あの、その前に私たち、妖精とか、トビウオとか、よく分からないんだけど……」
今度はリンゴとツツルビが顔を見合わせた。
「もしかしてあのおやじから何も聞いてない?」とツツルビが言った。
「いきなりこっちに来たので。何もってわけじゃないけど……はい」
「なにあいつ。全然駄目じゃない」ツツルビが眉根を寄せた。
「そんなことないです! あのおじいさんには助けてもらって本当に感謝しています。ね、紫くん」
そうするしかなかったからここに来たわけで、別に感謝しているわけじゃないが、俺は曖昧に頷いた。
「人間が来る時はきちんと説明して、了承を得なきゃいけないはずなんだけど」
「おやじとかあいつとかって誰のこと言ってんの?」リンゴが首をかしげた。
「リンゴの知らない人よ。それよりこの二人が何も知らないでここに来たのはまずい」
といってツツルビはしばらく考える素振りをした。
「そうだな……じゃあ、リンゴ、あんたがサイダーランドについて説明してやってよ。案内できるでしょう」
「えっ僕が?」
俺たちのことをまじまじと見ていたリンゴは驚いた顔をした。
「ガイドはポイント高いわよ」
ツツルビはリンゴにウィンクをすると、俺たちの方へ向き直った。
「落ち着きないトビウオだけど、信頼できるから安心して」
「あの、ツツルビ……さんは、どうして俺たちの名前を知ってたんですか?」
「うーん。神の思し召し?」
とツツルビは真面目な顔で答えると、ケラケラ笑った。
「なんてね。いや、案外あってるのかも」
それに対して俺が口を開きかけたと同時に、ツツルビは席を立った。
「あたしはこれからお店にいくから、案内が終わったら顔出してね。その時に教えてあげるわ、無愛想な紫くん」